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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
メナルドの街編

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相談

 ルミナリアを見送るため、朝食を食べたあと、城を出てギルドまでの道程を歩く。


「なんか、見られてんな」


 街の通りを歩くと、人々の視線を頻繁に感じる。

 ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。

 なにせ目立つからな俺たち。


 理由はこいつら美形親娘のせいだろう。


「お、ルミナリアちゃんだ」


「今日もかわいいなぁ……ん? 後ろの男誰だよ?」


「きょ、距離が近いぞ。ルミナリアちゃんも、嫌がるそぶりもないし」


「むかつくが顔いいなアイツ。チクショウ」


「……あれ? でもなんか、少しルミナリアちゃんに似ているような」


 普段通り街の男たちのやっかみ声が聞こえる。

 ただでさえ、その人気振りから視線を集めるルミナリア。

 その傍で男が二人歩いているわけだしな。

 

「……やはり、危ないな。ギンに娘の話は聞いていたが」


 そんな街の男たちの声を聞き、ラザファムがポツリと呟く。

 主語はねえけど、なんとなくコイツの言いたいことは伝わってくる。

 

「ああ、お前も気をつけろよ。あいつら敵にすると、シツコイからな」


 俺はこの身をもって経験済みだ。

 まぁラザファムがルミナリアの親父だということを知れば、手のひらを返していい顔しそうだけどな。


 なんにせよラザファムなら実力で自衛できるだろう。

 親父狩りに合うということもあるまい。


「にしてもあのガーゴイル、違和感が半端ないんだけど」


「美しい美男美女の絵に汚い泥がかかったような、そんな感じ」


「まぁ、三人の美しさを足して割ったら平均になるけどな」


 ……ぶ、ぶん殴られてえのか。

 ほっとけよ。

 こっちにも色んな事情があるんだよ。


「てか、あのガーゴイル、またルミナリアちゃんと一緒に歩いていやがる。どれだけ罪を重ねれば気が済むんだ」


「聞いた噂じゃ、城で一緒に暮らしているとか」


「くそガーゴイルが、許せねえ」


「蠅めが、身の程を知るべきだな」


 気のせいか、ラザファムより俺のほうが当たりきつくねえか。

 差別じゃねえのか?



「お前……普通に嫌われてるだけなんじゃないのか?」


「……」


 群衆の中からだからって、気づかれないと好き勝手言ってくれる。

 イケメンなら諦められるが、そうじゃない奴は認められないとかそんな感じか?

 相手が俺なら自分のほうが百倍マシとか考えてるのか?


 ルミナリアが後ろの俺を見て、目で謝ってくる。

 気にすんな、と手で返事をする。

 ルミナリアが悪いわけじゃない。


 まぁ……これもいつものことだ。

 不本意ながら慣れている。

 あんま慣れたくはなかったけど。

 

「しかし、あれだけ言われて動じてないのは凄いな」


「仕方ない。彼らはああやって、声に出して不満を俺にぶつけることで、心の安寧を保っているんだ」


「ほう、大人だな」


「見ていることしかできない、とても可哀想な奴らなんだ。受け止めてやるのがいい男ってもんだろう」


「なるほど」


 ラザファムが感心したように頷く。



「まぁ、いい男じゃなくて結構なんだけどな」


「……は?」


「いいか? ……あいつらはな」


 俺はスッと大きく息を吸う。

 そして……



 「見ていることしかできない可哀想なやつらなんだあああああっ!! ギャハハハッ!」


 大事なことなのでもう一度。

 力の限り想いを叫ぶ。


 響け、俺の声……街中に!

 公衆の視線を集めるが知ったことではない。


 「くそがっ」、「調子に乗りやがって」と、方々から舌打ちする音が聞こえてくる。


 あぁ……なんて素敵なヒーリングボイスだろう。

 この声を畜音石で録音しておきたいぐらいだ。


 ふぅ……すっきりしたぜ。


「お、お前……実は相当ムカついているだろ」


「あったりまえだろうが!」


 殴らないだけマシだ。

 こっちは何も悪いことしてねえのにさ。

 一緒に歩くだけでグチグチネチネチとよ。

 ギンやルミナリアならともかく、何で関係ない奴に文句言われなきゃならねえんだ。


 以前ならまだしも、今は仲間集めにそこまで拘っていないからな。

 どんな噂が流れようが関係ない。


 自分の世間体をそこまで気にする必要がなくなった。

 だからもうこいつらに遠慮する必要もない。

 遠慮なく反撃してやるぜ。



「なぁアルベルト、叫ぶ気持ちはわかるが、そのギャハハって笑い声だけはやめてくれ。そんな笑いかたをする嫌なやつらに会って、ちょっとな」


「お、おう……」


 ラザファムが渋面を浮かべている。

 過去になにかあったのだろうか?


 気づいたら、隣にいたルミナリアはかなり先を歩いていた。

 彼女が他人の振りをしようとしているのがわかった。


 俺たちはルミナリアの元に走る。

 彼女の顔は茹でたタコのように真っ赤になっていて、怒られた。

 次やったら今後、完全に他人の振りをするそうです。




「ところで、城を出てから聞くのもなんだけど、昨日の今日で寝ているリーゼを城に一人に残して大丈夫かね?」


 防衛策として『水膜結界(ウォーターバリア)』で城全体を覆うことも考えたが止めた。

 城のように不特定多数の出入りする場所だと色々と問題が生じる。

 俺と同じ魔力紋を持たない相手はバリアにはじかれて、城の中に入れないからな。


 ここには俺と同じ魔力紋を持つバウムもいない。

 故に魔力紋も付与できない。

 ゴブリンの集落の時のように、集落の住人にのみ魔力紋をかけるというやり方が通用しない。


 まぁ、ほかにも問題はあるんだけど……。

 

「俺の魔力感知なら大きな魔力が城に入ってきたらすぐにわかる。心配せずとも魔王クラスの魔力の持ち主は近くにはいない。リーゼ嬢なら何かあっても対処できるはずだ」


「……す、すげえなお前」


 俺もそこまではわからない。


「父は魔力感知については本当に凄いんですよ、本当に」


 ルミナリアが複雑な表情で語る。

 たぶん単純に褒めているわけじゃないんだろうなぁ。

 家族を守るために、山で鍛えた魔力感知ってやつか。


「でも、寝ている間はさすがに無理だろ?」


「ああ、それができるなら、妻が逃げるのにも気づいたはずだ」


「そ、そうか。とすると、日中はいいとして問題は夜か」


 ラザファムだってどこかで睡眠をとる必要があるしな。

 その間は俺がリーゼの傍にいるって手もあるがな。


「それでも……風呂とか睡眠中とか無防備な瞬間を狙われる可能性もある」


 リーゼやルミナリア、上級悪魔(アークデーモン)レベルの実力者だとバリアを仕掛けても突破される。

 魔王なら言わずもがなだ。

 バリアって基本面構成の防御だから、割と脆いんだよ。

 カバーできる範囲が広いという利点はあるがな。

 まぁ、俺並みの魔力があればワイバーンくらいなら侵入を防げるけど。

 


 攻めるよりも守るほうがずっと難しい。

 リーゼなら大概の相手は自分で対処できるだろうが。


 いっそのこと龍化したラザファムに乗って、魔王ラボラスの城に直接乗り込んで始末するのが一番シンプルなんだろうけどな。

 それだとラボラスは倒せるだろうが、後ろにいるイモータルフォー(死なずの四人)のナゼンハイムの恨みを買いたくはない。


 頼まれているのはリーゼの身の安全についてだけだ。

 クライフにそこまで手を貸す理由もないしな。


「できたら、寝るときも傍に誰かが付いててやれればいいんだがな」


「しかし、相手は年頃の娘さんだぞ。お前は奥さんがいるし、そういうのは駄目だろ」


「ああ、わかってる」


 俺の言葉に頷くラザファム。

 何かいい案はないだろうか。


 二人で相談するもなかなか良い案がでてこない。



「仕方ねえな、俺が夜中もリーゼに付いてやるしかねえか。リーゼの説得手伝えよ?」


「ああ、わかった……すまないな」


「『ああ』じゃないです! たぶん騙されてるからお父さん!」


 間髪入れずにルミナリアが会話に入ってくる。



「ルミナリア……しかし」


「私が傍につきますから。お父さん……私ももう子供じゃないよ」


 ラザファムは気乗りしない様子。

 娘の身が心配なんだろう。

 だが、ルミナリアの説得により、結局娘の意思を尊重することになった。


「夜もお姉ちゃんと一緒に寝ましょうか?」


「……そうだな」


 リーゼ本人の意思を聞かずに、勝手に決めてしまってなんだけどな。

 まぁ相手がルミナリアなら嫌とは言わないだろ。


「ですが、敵は本当に来るんですかね? 夜中あれだけの騒ぎがあったわけですし、お父さんの情報は相手側に伝わっていると考えるべきです。お父さんとアルベルトさんだと過剰防衛になりそうな気もするんですけど……」


「「……」」


 そ、その可能性も無きにしも非ずだけどな。

 ぶっちゃけ、俺とラザファムの二人なら仮にベリアが乗り込んできてもたぶんどうにかなると思う。



 来るとしたら何かしらの絡め手を使うか。


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