第6話 初めてのスカート……じゃなくてチャイナドレス!?
何かごまかす方法ってない!?
ここから入れる保険!
……そうだっ!
私には修行によって手に入れた最終兵器が――
「あ、土下座ならいらへんよー」
「なん、だと……!?」
なんで私の行動が読まれてるの!?
「そんな驚くほどのことちゃうやん。うちら、幼馴染やろ?」
「いや、幼馴染でもそこまでわからないでしょ!?」
「お、ついに認めおったなぁ~~?」
しまったっ!
もう誤魔化すこともできなくなっちゃった……。
ええい! こうなったら腹をくくろう!
「負けだよ、負け。そうだよ。私はイーリャンもよく知ってるミースだよ」
「うんうん。そうやろな」
「どこでバレたの?」
「んー。どこやろなー? 頭からかもしれへんし、ふとした時かもしれへんなー?」
イーリャン、絶対遊んでる!
私が慌てる姿を見て楽しんでるんだ!
「ねえ、このことは黙っていてくれない?」
「うちの口って、紙幣みたいに軽いからなー。ひらひら~ってアンファンス中を飛ぶかもしれへん」
「……お金なんてないんだけど」
「いややわぁ。うち、大事な大事な幼馴染の財布を空にさせるつもりはありまへんよ?」
「どうだか」
それにしても、イーリャンを見下ろしているのって不思議な気分。
イーリャンは僕たちよりお姉さんだし、身長も高めだから、いつも見上げているイメージしかなかったんだよなぁ。
まあ、いくら身長で勝っても、口で勝てる気はしないけど。
「お願い! この話が広まると、色々と大変なことになりかねないから!」
「んー。そうやなー、着替えた後なら、考えてやってもええよー」
……生殺与奪の権を握られているし、ここは従うしかない。
でも、どうせ普通の服でしょ?
さっさと着て――って!
「なんでチャイナドレスなの!?!?」
おかしくない!?
初めて着る女物の服にしては難易度が高すぎますよ!?
「ここはチーパオ商会やからねー」
チーパオって、確かチャイナドレスの別名だったっけ。
それにしても、かなりいい生地を使ってそう。
「高いのは買えないんだけど」
「大事な幼馴染」
「うそだっ! 最初に来た時、借金させてまで色々買わせたくせにっ!」
「そんなこともあったなー?」
冒険者を始めようとした時、どこで装備を買っていいのかもわからなくて、イーリャンがいるチーパオ商会に来たことがあって、その時は酷かった……。
ポーションをいっぱい買わされるし、装備も無駄にいいのを勧められるし!
そのせいで変に浮いちゃったし、借金返すのも大変だったんだけどっ!
もちろん、今でも根に持ってますよ?
「それにこのドレス、他の服より相当安いでー? チャイナドレスは原価割れで売ってでも広めてくれ。それが創業者の遺言やからなー」
「そんな話ある!?」
「しかも、お抱えのチャイナドレス職人が丹精込めて作った逸品や!」
すごっ。
情熱を通り越して狂気だよ。
その創業者、絶対に転生者でしょ。
そんなチャイナドレスに袖を通さないといけないのかぁ。
「…………」
うん。
何回見てもチャイナドレスだよね。ちゃんと現実を見よう。
女物の服を着るぐらいの覚悟はしてたよ?
前の姿が女顔だったし、女装させられたこともあったし……。主に目の前にイーリャンのせいで。
でも、これはいきなりハードルが高い!
「そうそう。これもいるやろ?」
なにこの小さい布――って! これ、女性物の下着じゃん。
「これ、私が着るの?」
「そりゃそうやろ。今のあんさんは女なんやから」
「……」
そうだよね。
今は女の体だもんね。
男用の下着を着るなんておかしいよね。
「そんな緊張せんでもええやろー。人類の半分が身に着けてるんやから」
「他人事だと思って……っ!」
「いやー。ミースがいつもええリアクションをくれるから、ついなー」
「……はぁ」
もう覚悟を決めよう。
どうせ、女の体になった以上通らないといけない道だ。
イーリャンに着替えを見られているけど、もうそんなことは気にしない!
さっさと済ましちゃえば関係ないでしょ!
「それそれそおおおおおれ―――――!!!」
羞恥心を捨てるんだ!
今の私は、服を着るだけのロボットだあああああああああ!!!!
「それで、なんでそないな格好になったん?」
ちょっと、着替え途中で話しかけてくるの!?
「予想ついてるんじゃないの?」
「フリーゼの魔法やろ? 隠したいところを見るに、お偉いさんからの研究を依頼されたとかありそうやなー」
「……当たってる」
「あらま~。うち、探偵で一儲けできそうやわー」
お、話している間は恥ずかしさが和らぐかも。
下着は終わったぞ!
これならいける!
「それで、なんで僕だって見抜いたの?」
「あんさん、フリーゼと視線だけで会話してたやろ? そんな芸当をできるのはミースだけや。それに、仕草が全く変わっとらんかったしなー」
「……ほとんど最初からバレてたのかー」
ん? どうやって着るんだ、これ。
「ああ。そうやない。こうや」
へー。
チャイナドレスって、背中側にファスナーがついてるんだ。
胸元とか脇についてる留め具は飾りなのかい!
……異世界にファスナーがあるのにツッコむのはやめておこう。
「それで、いつ元に戻れるんや?」
「わかんない。フリーゼが方法を探してくれるけど、一生戻れないかも」
「…………うそやろ?」
あぁ。
私もすぐに戻れると思ってたもんなー。
「なんで平気そうに過ごしてるん!?」
「これでも困惑してるよ。でも、焦っても仕方ないしなー、って。今は女としての生活をちょっと楽しもうとか、少しの間でもフリーゼのママ代わりになろうと思ってる」
「なんなんや、それ。ミースは相変わらずやなー」
よし。
苦戦したけど、なんとか着終わった。
ありがとう、イーリャン! ――って、姿見の用意、はやっ!
「お、似合ってるなぁ~」
うわぁ……。
スリットからふとももを出すのっておかしくない?
見えてるんじゃなくて、見せつけてるじゃん。
そんなつもりはないのに! ただ服がそういう構造なだけなのに、私自身が『私の太もも美しいでしょ?』って自慢しているみたいに見えない!?
体のラインもくっきり出てるし……。
改めて見ると、今の私ってこんなに胸大きいんだ。
くびれあるし、男の体と全然違う……。うわ、わ、うわぁ~~~~~~~~。
この衣装、恥ずかしすぎるっ!
「そんな顔を赤くして~。かわいいわぁ~」
「イーリャンはなんでこの服、平気なの?」
「慣れや慣れ。まあ、うちはチャイナドレスを着たくて、チーパオ商会に入ったんやけどなー。かわいいしかっこいいし、動きやすいやろ?」
へー。
その理由は初耳だ。イーリャンにも、かわいいところがあるなー。
「ほな、口止めのお願いを聞いてもらいましょか」
「えっ!? 着替えて終わりじゃないの!?」
「これはただのサイズ確認。ここからがお願いや」
これ以上の要求って一体どんなものが来るんだ!?
「なあ、『お姉ちゃん』って呼んでくれへんか?」
へ?
そんなことでいいの?
でも、要求された上に面と向かって言うの、ちょっと照れちゃう。
「……お姉ちゃん」
「もっと、ほら、こう……あるやろ? もっとかわいく言ってくれへんか?」
かわいく!?
「お姉ちゃん?」
「もっと年下っぽく!」
なんでそんなに厳しいの!?
「おネエちゃん!!」
「せやで、うちがミースのイーリャンお姉ちゃんやで」
……いったい何なんなんだよ。
まあ、イーリャンが満足げだからいいか。
「じゃあ、こっちも試着してやー。中古品だから安いで?」
ん?
なにこれ……。
短パン。
麻のシャツ。
簡単なレザーアーマー。
すごく着やすいし、チャイナドレスより抵抗が少なそうな装備なんだけど――
「こっちを先に出してよっ!!!!!」
「あはははははははははははははははははははははは!!!!」
お腹を抱えて笑ってるし!
さすが『毒蛇のイーリャン』だよっ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……はあ。
ようやく買い終わった。
チャイナドレスは買わなかったけど。
確かに安いんだけど、村の中で着るわけにいかないしね。
うっ。結構財布が軽くなっちゃったなぁ。
さっさとフリーゼを連れて帰らないと。
「お嬢ちゃん、このドラゴンスケイルはどうやー?」
「……おお」
「今ならお安くしまっせー」
ちょっとそこの店員さん!?
なんでフリーゼにそんなものを見せてるの!?!?
「ダメ!」
やばい! このままじゃあ寝言で「ドラゴンスケイル……ドラゴンスケイル……」って呟き続けたり、ごちそうさまですを「どらごんすけいる」って言い間違えるフリーゼができ上がってしまう!
ダメです。
うちにそんなお金はありません!!
「ほら、帰るよ、フリーゼ!」
ちょっとヨダレたらさないで、はしたない!
この子、全然動こうとしないんだけどっ!
あーもー。
こうなったら抱えていこう。
お、ひょひょいとフリーゼを抱えることができちゃった。
この体、意外と便利かも。
「おおきにー。次はサービスしまっせー」
ふう。なんとかお尻の毛までむしられずに済んだ。
……げっ。もう夕焼けなんだけど。
今日は本当に疲れた。さっさと帰ってご飯食べて寝よう。
「フリーゼは何を食べたい?」
「……どらごんすけいる」
うん。
一旦、このフリーゼは無視しておこう。
他に興味が向けば忘れるだろうし。
それにしても、この服装はいいわねー。動きやすいし、変に露出してないし。
でも、女用の装備を身に着けていると思うだけで、すごくムズムズするかも。
女物の服装って慣れるのかなぁ。
まだもうちょっと時間がかかりそう。
……およ?
フリーゼ、なんで私の体をじっと見てるの?
なんか驚いてるっぽい?
「その服、似合ってるじゃん」
えっ。
男の時も含めても、フリーゼからこんなこと言われたの初めてじゃない?
そんなこと、言ってもらえるなんて思ってなかった!
嬉しすぎるんだけど!?
……うん。女物の服も悪くないかもねっ!
「じゃあ、今度おそろいにしない?」
「それはヤダ」
「フリーゼと一緒にチャイナドレス着てみたいなー」
「絶対ヤダ」
「えー。他にフリーゼに似合いそうな服あるかな?」
「……ミース、顔、おっさん臭くなってる」
マジで!?
女になるのも、ママになるのも、まだまだ時間がかかりそうだなー。




