第3話 幼馴染のママに、僕はなる!!!!
ここからはフリーゼから聞いた情報だ。
難しい話がいっぱいあったから、一部は聞き流したけど、大筋は理解できたと思う。……たぶん。
フリーゼが僕に使った魔法は『TS魔法』という、開発中の新魔法だったらしい。
魂から作り変えて性別を反転させるという、変身魔法よりもずっとすごい魔法。
領主様から依頼されて研究していたらしいんだけど、僕の幼馴染すごくない!?
領主様って、辺境の英雄なんて呼ばれるほどの人なのに、そんな人から依頼を受けるなんて。
やっぱりフリーゼは天才! 天使!
幼馴染として鼻が高すぎて、ブラックホールになりそう。
「それで、僕はいつ元の姿に戻れるの?」
さすがに女のままだと色々不便すぎる。
着られる服なんて一着もないし、家のあちこちに頭をぶつけちゃうし、バランスに慣れなくてフラフラしちゃう。
「えっと、それは……」
なんで目をそらすの?
「わかんない」
「ふぁっ、なんで!?」
変身魔法だって、ふつうは時間制限があるじゃん!
それに、解除するための魔法だってあるんじゃないの!?
一生戻らないとか、そんな話は聞いたことがないんだけどっ。
「こうなるのは、予想外だったから」
「予想外?」
「年齢なんて、変わるはずないのに……」
「つまり、本来は12歳の女の子の姿になるはずだったってこと?」
「……うん」
なるほど。
何かが原因でバグっちゃったってことかな?
それにしても、女の子になれるなら、そっちの方がよかったなー。
フリーゼと同年代の女の子として仲良くできたら、絶対楽しかったのに……。
「本来はありえない……はず。魂と体の年齢が合っていないとかない限り」
魂と体の年齢が合わない?
そんな状況って起きるの?
魂については詳しく知らないけど、ふつうに暮らしてたら、そんなことは起きなそう。
いや、ちょっと待って。
ん?
あれ?
もしかして、僕って……。
「ねえ、フリーゼ、ひとつ聞いてもいい?」
この考えは当たっているのかな?
「もし異世界転生者にTS魔法を使ったら、今回みたいなこと起きる?」
「確かに、それなら可能性はあるけど……。ミースは違うでしょ?」
あれ、フリーゼに一度も言ったことなかったっけ。
「僕は転生者だから、それが原因だと思う」
「……え?」
この世界って、異世界転生者が結構いるらしい。
歴史に名を残すような偉業を果たす人がいたり、逆にただただ穏やかに暮らす人も少なくない、って転生時に天使が言ってた。
転生。
つまり、前世の記憶を引き継いでいる。
これって、魂が普通よりも成長してるってことだよね?
「よかったじゃん! フリーゼの魔法にミスなんてなかったんだよ!!」
これで原因はわかった!
って、あれ。
なんでフリーゼ、そんなに頬を膨らませてるの?
「なんで教えてくれなかったの……?」
これって、転生者についてってことだよね。
「いや、言う機会がなくて……」
「ふつう、そんな大事なことは言うでしょ」
ぐっ。
そう言われると耳が痛い。
「わたしに隠し事をしてたの? いつもいつも、あんなにかわいいとか好きとか言ってきてるのに」
「生まれた時から一緒だったから、もう知ってるものだと……」
「……はぁ」
これについては僕が悪いです。はい。
やばい。フリーゼの機嫌がよくなってきてたのに、またご立腹になってる!
「わたしに隠してること、もうない?」
「ないと思う……けど」
自信はない。
今回みたいに、ただの思い込みがあるかもだし……。
「もし思い出したら、全部教えて」
「りょーかいです」
一応、これで許してもらえたのかな?
よかったー……って、なんで僕の胸をみてるの、フリーゼ?
「胸、触るけど、いい?」
「え?」
まさか、フリーゼもオギャリ欲に目覚めた!?
今の僕の胸は豊満だから、我慢できなくなっちゃったってこと……!?
「勘違いしないで。魂の状態をみるだけだから。胸が一番感じ取りやすいだけ」
「なるほど」
でも、触られるのはちょっと恥ずかしいかも。
男の姿の時でも恥ずかしいと感じたと思うけど、今はちょっと感覚が違う気がする。
照れがないのかな?
おおー。
胸を触らせる感触って、こんな感じなんだ。
なんていうか、想像していたより特別な感じはしないかも。ちょっとムズムズするけど。
フリーゼの小さなお手手が僕の胸に触れていると思うと、なんだか愛おしく思えちゃう。
「何かわかった?」
「……はあ。どうしよう」
あ、これはよくなさそう。
「ミースの魂、結構特殊だ。神様が細工しているのかも。解除魔法をかけたら、さらにおかしいことになるかも」
「あらら」
不思議だな。
戻らないかもって言われても、そんなに驚かない自分がいる。
なんか、死ぬようなことじゃないしいっかー、と思えてきちゃった。
前世は自分の脚で走れなかったし、それと比べると全然マシだしね。
ということで、さっさと切り替えて、未来のことを考えよう!
「まあ、しょうがないよねー。とりあえず服を買ってこないと。お金は……まあ、なんとかなるでしょ」
「服……お金……」
「冒険用の装備も、ぼちぼちかなぁ」
「冒険者……おしごと……」
なんだか、さっきからフリーゼの様子がおかしいような。
我慢したものが溢れかけているような――
「ごめん。ミース、ごめん」
「おわっ!?」
なんで泣いてるの!?
僕、ひどいこと言っちゃった!?!?
「ごめん、ごめんなさいっ! フリーゼ! 僕、何か言っちゃった!?」
「ちがうの……ちがうの……」
じゃあ、なんでそんなに泣いてるの……?
「がんばって、おかねも、ふくも、がんばるから――」
あ、次の言葉、わかっちゃった。
「だから、捨てないで……」
「…………」
最近は、フリーゼの口から聞かない言葉だったのに。
普段のフリーゼはクールだ。だけど限界に達すると、いつも子供みたいに繰り返していた。
見捨てないで。
捨て子だからなのかな。
すごく不安なんだろうなぁ。自分が生きていていいのか、わからなくなるぐらい。
子供っぽく泣いているフリーゼを見ているだけで、胸がギュッと締め付けられて、こっちまで泣いちゃいそう。
……ダメだ。
どうしても姿を重ねて、思い出しちゃう。
前世の僕。
両足と一緒に幼馴染をなくして、涙を流すことしかできなかった、あの時の僕。
だったら、あの時のお母さんみたいにすればいいのかな。
「ちょっと抱きしめるね」
フリーゼ、とっても小さい。か細い。
いや、今の僕が大きいのかな。
「大丈夫。僕は絶対にフリーゼのそばから離れないから」
「ほんとう?」
「だって、僕はフリーゼのことが世界で一番大切なんだから」
「…………ぐすん」
よかった。
ちょっと落ち着いてきたみたい。
「ほんとうに、どこにもいかない?」
「フリーゼと一緒にいられる場所が、僕の居場所だよ」
「わたし、嫌われてない?」
「フリーゼはかわいくて、天才で、天使で、僕のすべてだよ」
「……ありがとう」
衝動的に魔法を使ったり、読書に夢中で話を聞かないのはちょっと困るけどね。
でも、そんな弱点も愛おしくて愛おしくて仕方がない。
そうだ。
今の雰囲気だったら、あの疑問に答えてくれるかも。
「ねえ、なんで僕をママって呼んだの?」
「えっと……」
恥ずかしそうにしてるフリーゼ、かわいい。
「なんかママみたいって、思ったから」
「そうなんだ」
「うん」
「うれしいっ!」
あーもー!
我慢できないっ!
もっと抱きしめちゃう!!!
「くるしい」
「苦しくても、離さないから」
「あつい」
「それが僕の想いだから」
フリーゼの小さくてか弱い体を、体温を、心臓の鼓動を、すぐそこに感じる。
僕の心の中で、1本の芯ができていくのがわかる。
僕はこの小さな女の子を、クールなのにまだまだ幼いところがあるフリーゼを、守ってあげたい。
この姿のままでいられるのが、どれくらいかもわからない。
一生かもしれないし、フリーゼは天才だから明日には何か思いつくかもしれない。
でも、この姿でいる間はフリーゼのママ代わりをやりたい。
そして、できれば、もう1回ママって呼んで欲しい。
泣き腫らした顔でハニカむフリーゼを見て、そう思った。




