第35話 ママは笑顔を絶やさない
前世の幼馴染――水野彩夏。
彼女の顔も声も仕草も、4K画質ぐらい鮮明に思い出せる。
とても活発で、気まぐれで、太陽みたいに朗らかな笑顔を向けてくれる。
1歳しか違わないのに、とっても大人びていて、周りの人からも人気があった。
ちょっとしたことでも褒めてくれるけど、ダメなところはちゃんと叱ってくれる。
そんな彼女が、本当に好きだったなぁ。
大きくなったら結婚しよう、なんて何回言ったかわからない。
いつもいつもはぐらかされていたけど、僕は本気だったんだよ……。
僕はプロのサッカー選手になって、彩夏はかわいいからアナウンサー。
そうして、みんなに拍手されながら結婚式をあげて、庭付きの家に住んで、かわいい娘も加わって、ずっとずっと幸せに暮らすんだ。
本当に恥ずかしいぐらい、絵空事。でも、本気で考えていたし、信じていたんだ。
でも、ある日。
僕と彩夏は大きなケンカをしちゃった。
理由ははっきりと覚えてない。
たしか、僕が何かをやらかしちゃって、意地になっていた気がする。
でも、僕は納得できなくて謝りたくなかったことだけは記憶に残ってる。
今思えば、あの時の僕は彩夏に甘えていたんだと思う。
彩夏なら謝らなくても許してくれる。
僕の側から離れるなんてありえない。
だって、生まれた時からずっと一緒だったんだ。
こんなに大好きなんだもん。
ちょっとしたことで仲直りして、またいつも通りに戻れる。
でも、そんな優しい運命じゃなかった。
前世の世界も、今の世界も、理不尽度でいうと全然変わんない。
彩夏は死んだ。
僕と彩夏は同じ塾に通っていて、家も隣同士だから、自然と同じバスに乗ることになっていた。
ケンカ中もそれは変わらなくて、自然と隣の席に座っていた――んだけど、今思えばおかしいよね。でも、その当時はそれに疑問を持っていなかったんだ。
ケンカしていても、一緒にいるのは当たり前。
その日も、顔を合わせないようにしながら、隣の席に座っていた。
僕が窓側。
彼女が廊下側。
決めたわけじゃないけど、自然と決まっていたなぁ。
小さな声で「バカ」とか「アホ」とか「おたんこなす」とか言い合っていると――
突然の、強い衝撃。
けたたましいブレーキ音。
金属が壊れていく音。
次に目を覚ました時、僕の両足はくなっていた。
サッサーどころか歩くこともできなくなっていたけど……。
正直、そんなことはちっぽけな問題。
彩夏が死んだと、お母さんから聞いた。
僕に覆いかぶさる姿勢で、頭を打っていたらしい。
ああ。
そうか。
彩夏は僕をかばって死んだんだ。
全く動けなかった僕の代わりに…………。
僕の方がテストの点数が低くて、性格も悪くて、子供っぽい。
それなのに、彼女は自分の命じゃなくて、僕の命を選んだ。選んじゃった。
ごめん。
ごめんなさい。
許さなくていいから、ずっと謝らせて。
「ねえ、ママ。その子はもう気にしてないと思うヨ」
「………どうだろうね」
それからは、ふさぎ込みながら生きていた。
お父さんがいなくなって、お母さんとの2人暮らし。
今思えば、お父さんは両足を失った僕を見ていられなかったんだと思う。
僕をサッカーに誘ったのもお父さんだし、全力で応援して付き合ってくれていたのもお父さんだったから。
でも――それでも、この後のことを考えると、逃げないで欲しかったなぁ。
歩けない僕に代わって、お母さんは色んなことをしてくれた。
車いすを押して、どこまで行ってくれた。
いつも僕に笑顔を向けてくれて「生きてくれるだけで嬉しいんだよ。ありがとうね」って。
お母さんの愛に何年も救われたなぁ。
現在、僕はママになろうと奮闘しているけど、全然届いてないと思う。
僕が大人になった頃、お母さんは倒れた。
過労が原因だって、すぐにわかった。
病院の売店でお母さんが好きなお菓子を買って、病室に入ろうとした瞬間。
聞いちゃった。
――あの子が、わたしの息子じゃなかったら……。
わかってる。
お母さんも完璧な人間じゃない。
ついつい言っちゃっただけなんだよね?
でも、優しいお母さんにそんなことを言わせてしまったことに胸が痛くなったし、苦しかった。
ああ。
僕が壊したんだ。
あんなにやさしくて、強くて、最高のお母さんを。
僕は呆然としながら、外に出た。
でも、お母さんに頼り切りだったから車椅子の操作もおぼつかなくて、転んで――
車に轢かれて死んじゃった。
でも、僕の人生はなぜか終わらなかったの。
異世界転生。
今の世界に赤ちゃんとして生まれ変わることになった――んだけど。
正直、僕は途方に暮れた。
孤児院で過ごすことになっちゃったし、何よりずっと思ってた。
何をしたらいいんだろう。
何のために生まれ変わったんだろう。
わざわざ転生したのに、やりたいことがひとつも思いつかなくて、苦しかった。
転生できますと天使に言われた時はテンションが上がって、幼馴染について熱弁してたのに。
それに、人と触れ合うのが怖かった。
もう僕のせいで、誰かが苦しむのを見たくない。
ただ無気力に過ごす日々。
僕はある部屋に迷い込んだ。
そこには、ひとりの女の子。
青い髪に、青い瞳。
その時はなぜか角が生えてたなぁ。懐かしい。
フリーゼと初めて会った時のことは、今でも覚えてる。
すごくつらそうな顔をしていて、いきなり「出ていって」って言われたっけ。
――ねえ、一緒に遊ぼうよ!
――やだっ!
最初は断られたけど、僕は諦めなかった。毎日のように部屋に通って、誘いまくった!
……いや、今思い出すと、結構ドン引きな行動だなぁ。
しょうがないじゃん。あの時は運命を感じたんだもん。
すごくタイプだったし、前世の自分を見ているみたいに感じたんだもん。
最終的にリーたんが折れて、遊ぶようになって、徐々に打ち解けて。
――魔法を使えるようになれって。
――大人に言われたの?
――でも、魔法なんて嫌い。
――どうして? かっこいいじゃん。
――怖いよ。
――だって、フリーゼが使う魔法でしょ? きっとキレイなんだろうなぁ。
――ミースはわたしが魔法を使っても、どこにも行かない?
――もちろんだよ。それどころか、フリーゼの魔法を見るために一緒にいたいぐらい。
――本当?
――うん。約束。
その時のフリーゼの笑顔が、本当にかわいくてぇ。
ああ、僕はこの子の笑顔を見るためにこの世界に来たんだ、って思った。
それからはとことん努力!
あの子が少しでも明るくなってくれるように、自分を変えた。
大好きだったお母さんみたいに、気高く。
大好きだった幼馴染みたいに、優しく。
「……ママ、今まで頑張って生きてきたんだネ」
「ミーちゃん」
「ママ、イイ子イイ子」
娘に慰められるなんて、恥ずかしいこと。
そのはずなのに、嬉しくて、涙ぐむので精一杯。
「わかっタ! ママのやりたいこと、全力で応援スル!」
「……いいの?」
「モチロン! 僕はとってもいいオンナだけらネっ!」
「そうだね。ミーちゃんは自慢の娘よ」
「えへへ」
……あれ、外から音が聞こえる。
この音は――
「……警鐘だ」
「魔王軍ダネ」
領主様が言っていたけど、本当に来たんだ。
でも、ちょっと好都合かも。
「フリーゼに会いに行くノ?」
「うん。このままお別れになんて、絶対させない」
僕に――私にできることなんて、彩夏とお母さんに報いる方法なんて、ひとつしかない。
少しでも前世の失敗を活かして、多くの人を幸せにすること。
まあ、今はあんまり気にしてないけどね!
あの世に行ったら全力で謝る。それでおしまい。
クヨクヨしすぎた方が怒られちゃう。
そんなことより、私は今の人生を楽しみつくしたい。
リーたんのことが大好きなんだ!
ずっとずっと一緒にいたいし、そのためにはどんな努力だってしたい。
僕は前世みたいに後悔するような生き方を、絶対にしない。
常に最大風速!
走って走って走り抜けて、息も絶え絶えになっても突き抜けていく!
全力で。
生き抜いて。
生き抜いて!
生き抜いて!!!
そうすれば、どんな悲劇に見舞われても、笑顔で言える気がするんだ。
ああ、これ以上ない最高の人生だった、って。
そのためにも、リーたんに会いに行こう。
全力で謝って、抱き着いて、話し合って、仲直りするんだ。
私にとってリーたんはどういう存在?
そんなの、出会ったときから決めてる。
リーたんは私の平和そのものなんだ。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
また、☆評価やブクマ、リアクションも励みになりすぎています(^^♪




