第33話 秘密の……
えっと。
領主様の部屋に来ました。
でも、領主邸に来たわけじゃなくて、チーパオ商会の裏にある小さな小屋。
一見すればただの古びた倉庫なんだけど、床に階段が隠されていて、地下に小さな部屋があったの!
灯りは領主様が魔法でつけてくれたんだけど、地味にすごくない?
魔王軍を一掃できるのに、こんな小さな火も出せるなんて……。私なんかしょんべんみたいな水しか出せないのになぁ。
「ここの領主になる前はほとんど王都にいたのだけど、少年時代のほんの数週間だけ、アンファンスにいた時期があったんだ」
「おー。青春っぽい話ですね」
私の好きなシチュエーションだ。
夏休み。都会っ子が田舎で過ごすことになって、山で遊んだり、釣りをしたり、村の人たちとの交流を通じて精神的に成長したり。
それから、日焼けした女の子と恋愛したり。
憧れるなぁ。
「うーん、近いようなことはあった……かな。今では仲が悪いけど」
「なんとっ!!!」
「その友人と共に作ったのがこの秘密基地なんだ。今思えば大人たちに筒抜けだったと思うけど、見逃されていたんだろうね」
なるほど。
たしかに甘酸っぱい匂いが漂っている気がするっ!
「ここにいると懐かしくて、安心するんだ。だから、ここのことはメイド長には秘密にしてもらえると助かる」
「はい。もちろんです」
秘密基地かぁ。私にとっても懐かしいなぁ。
「ミースさんも、秘密基地を作ったことがあるの?」
「前世で作ったことがあるんです。幼馴染と一緒に」
「前世……? 転生者だったの?」
リーたんやイーリャンの時しかり。
私、転生者カミングアウト、かなり適当になってるなぁ。
「なるほど。それなら、あなたの今の状況についても納得できる。数週間前の強力な魔法の気配もそれだったんだろうね」
「あの、フリーゼは……」
「大丈夫。それぐらいで罰を与えたりしないから。むしろ、研究が順調なようでホッとした」
えっと。
流石にこれは聞かないといけないよね。
「あの、TS魔法の研究を、なんで依頼したんですか?」
「……そうだね。やっぱり気になるよね」
気になるに決まってるっ。
こんなイケメンで、しかも貴族の人がTS魔法を依頼するなんて、一体どういう了見!?
「やっぱり、女装していることと関係あるんですか!?」
「あ、えっと……」
「領主様はそういう趣味なんですか? 女装すると興奮しますか? ドキドキしますか!?」
「あ、えっと……」
いけない。
攻めすぎちゃったっ。
「えっと、その落ち着いた?」
「……すみません」
「落ち着いたならよかったよ」
ついつい暴走しちゃった。
反省反省。
「僕は王位継承権を破棄したいんだ。でも、いろんなしがらみがあるからできなくて、いっそのこと女になれば関係なくなるんじゃないかと思ってね。このドルミル王国は男系だからね」
なるほどー。
たしかに、政争に負けてアンファンスに来たって言ってたし、そういう考えになってもおかしくなさそう。
でも――
「今女装している理由にはなりませんよね?」
「……妙に鋭いね」
「やっぱり、女装は趣味なんですか?」
「村民にバレないように変装しているだけだよ」
「でも、それなら女装じゃなくて、適当な男ものの服でいいですよね?」
やばい。
領主様、顔を赤らめて戸惑ってる。
かわいい!
楽しいっ!
人をからかうのってこんなに興奮するの!?
「引いたりしない?」
「しませんよ」
「本当?」
「私なんかTSした状態を受け入れているんですよ? 女装趣味のひとつやふたつ、なんぼのもんです」
「……そう」
領主様、なかなか口を開かないけど、ここはゆっくり待とう。
本人には大事なことだろうし。
でも、絶対に女装好きだよね?
立ち姿が堂々としてたもん。
スカートを履いてるし。
絶対私より慣れてる。
間違いない。
さっさと正直になって欲しいなー。
ほらっ。
女装が好きだって言っちゃえ!
「あーもー! わかったよっ! 僕は女装するのが大好きだよっ!」
おおー。
ついに言ったっ!
「いいじゃないですか。素敵な趣味ですよ」
「……本当に引いてない?」
「モチのロンです。逆に好感度爆上がりです」
「……そう。本当に嘘ついてないんだ。心の底からそう思っているんだ」
領主様の顔、ニヤけてる?
なんで?
「僕、ずっと女装は誰にも受け入れられないことだと思っていたんだ。でも、ミースさん、あなたは……」
あれ?
領主様の視線が異様に熱っぽいな?
風邪ひいた?
「知ってるかい? 王族は優秀な転生者の血を取り入れることで力を増してきたんだ」
「へー。すごいですね」
じゃあ、かなり昔から転生者っているんだ。
「僕は今、TSせずに、ひとりの男として生きたいと思ってる」
「前向きなのはいいことですね」
「あの、そういうことではなくて……」
ん?
何が言いたいんだろう?
「……はぁ。もういいです」
あれ?
なんでガッカリしてるんだろう。
さっきから謎ばっかりだなー。
まあ、領主様だもんね。
いち平民の私と比べると、悩み事がいっぱいあるんだろうなぁ。
「そろそろ僕は戻らないといけないから、最後に忠告しておくね。最近、魔王軍の動きがおかしいんだ」
「魔王軍ですか?」
不穏だなぁ。
「偵察の数が異様に多いんだ。まるで、この村にある重要な何かを探しているみたいな」
「何かあるんですかね?」
「わからない。僕たちと魔王軍の価値観が必ずしも一致するわけではないからね」
なるほど。
こっちからは当たり前に存在するものでも、魔物たちからみれば重要なものがあるかもしれないってことか。
「ミースさんは強いから大丈夫だと思うけど、気を付けてね」
いや、私もそこまで強くないんだけど。
ミーちゃんと力を合わせて、魔王軍幹部となんとかやり合える程度だったし。
あ、ちなみにミーちゃんは現在、フォレッタからダル絡みされているはず。
かわいそうだし、そろそろ戻ってあげないとね。
「あ、でも、領主様がいれば大丈夫ですよ?」
「それが……僕は数日、このアンファンスを離れることになりそうなんだ。王都に呼び出されてしまってね」
「……え?」
タイミング悪くない!?
「一応魔法で僕の不在をカモフラージュしていくけど、警戒するに越したことはない。僕の次に戦えるのは、おそらくミースさんだ。頼んでもいいかな?」
「はい。わかりました」
魔王軍かぁ。
多分、そんなことにはならないよね?
「あと、別れる前にネタバラシというか、ちょっと隠し事を打ち明けてもいい?」
「なんですか?」
「僕、他人の心が読めるんだ。頭の上に文字が浮かんで見える」
「えっ」
そんなこと出来るの!?
貴族様ってすごすぎない!?
「ほら、何度も心の声に返事をしてたんだけど」
え?
そんなこと、さすがに私でも違和感を覚えて……。
いや、ちょっと待って。
たしかに、そんなことが何回かあったような……。
あれ?
あれれ?
あれー……。
マジで!?
「気付いていなかったの……?」
「全く……!」
私、ちょっと鈍すぎじゃない!?
こんな鈍感な私でも、アンファンスと娘たちを守れますかっ!?!?
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