第31話 領主様の激ヤバ趣味!?
酒場——というか、食堂に入ると、ピリリとした空気に変わった。
視線のすべてが、フォレッタに向いているように感じるのは、気のせいじゃないんだろうなぁ。
このアンファンスで外食できる、唯一のお店。
基本的にお昼は食堂、夜は酒場になっているのよね。
地味に酒場状態のここに来たのは初めてかも。子供だからお酒出してくれないし、メニューもおつまみ関係ばっかりだし。
それにしても、いつも繁盛してるわねー。
みんな楽しそうに騒いでいて、この空気、本当に大好き。
「いらっしゃいませ――って」
あ、ウェイターさん。
「フォレッタさん、お久しぶりですね」
うわ。
ウェイターさんの頬が引きつってるよ。
いつもニコニコ笑顔を浮かべているのに。
「あら。わたくしは来てはいけないのですか?」
「いえ、そんなことはありませんけど……」
「大丈夫ですよ。今のわたくしはとてもよい気分ですから」
「あ、あははははは……」
絶対『こいつ、とんでもない人を連れて来やがったな』って思われてるよ!
仕方ないじゃん!
フォレッタを止められる人間なんて、このアンファンスには2人しかいないんだよ!?
「……ご注文はお決まりですか?」
「マッシュルームヘビのアヒージョ、マシュマロカタツムリのサラダ、」
わーお。
全部お酒のおつまみだ。
「ミースは?」
「私は何もいらない。食べてる」
「わたくしと同じのをお願い」
「かしこまりました」
ちょっと!?
ウェイターさんも普通に注文を受けないで!?
フォレッタを連れてきたことへの当てこすりカナ!?
「……人の話聞いてよ」
「あら、わたくしはあなたの強情な口より、素直でかわいらしいお腹の声を聞いただけですよ」
……ぁ。
すんごいお腹の音してる。
これ、店中に響いてない……?
恥ずかしい………・。
「とりあえず、」
「私が気持ちよく食べるためにも、あの状態にはならないでよ」
「さあ。それは妖精様のみぞ知ることですね」
これは絶対、やる気だなぁ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぎゃはははははははははは!!!」
えー。
はい。
今現在、山賊みたいな笑い声が、店中に響いています。
これは一体、誰の口から発せられているのでしょうか。
金髪で。
美少女で。
いつもは大人びていて。
シスターとして気品のあるふるまいをしている。
そんな彼女——フォレッタの笑い声です。はい……。
「ひゃっはああああああああああああ!!!!」
今現在、偶然その場にいたギルド長に絡んでいるんだけど……。
彼のハゲ頭をペチペチと叩いてる……。
完全に酔っぱらった、ベロベロな顔で。
なんていうか……。
ここまで自由だとすごいよね。
「ママ、フォレッタはお酒飲んでないよネ?」
「昔からすごく酒気に弱くて、酒場にいるだけで酔うのよね」
「……すごいネ」
「本人が前に言ってたなぁ。『未成年で合法的に酔えるなんてサイコーです。この体質を授けてくださった神と妖精様に最大限の感謝を捧げます』って」
「そんな感謝の仕方、されたくナイっ!」
だよねー。
明らかに迷惑だよねー。
まあ、今夜のフォレッタのターゲットは私じゃないし、放置しておこう。
あと2時間ぐらいすれば、いい感じに疲れて寝るでしょ。
その間はギルド長に頑張ってもらいましょう。
大丈夫でしょ。
あの人、満更でもなさそうだし。
「…………ぁっ」
ん?
さっきから隣の客に見られている気がするのよねぇ。
振り向くと、露骨に目をそらしてるな?
それにしても、キレイな女の人。
見たことない人だ。
最近アンファンスに引っ越してきた人かな?
いや、それならもっと噂になっていてもおかしくない。
旅人も同じ。
じゃあ、この人って、一体誰……?
他の人があんまり絡んでいないのも気になるのよねぇ。
折角だし、ちょっとお話してみたいなー。
「すみません、ちょっといいですか?」
「……ぁ、ぇっと」
ん?
このオドオドっぷり、どこか既視感があるような……?
「その……人違い……です、から…………」
人違い?
どういうこと?
まさか、私が知っている人?
よくよく思い返せば、この人、食べ方がとても上品だったような。
ナイフとフォークを巧みに使って、テーブルマナーがきちんとしていて……。
そう、まるで。
貴族みたいな。
貴族……?
え、まさか――
「領主様……?」
「…………その…………はぃ…………」
なんで領主様が女装して、この食堂にいるの!?!?
いや、よく考えれば、この領主様ってTS魔法の研究をリーたんに依頼した張本人だよね!?!?
えっ。
えっ?
そういうこと!?!?!?




