第9話 水の精霊とお茶会?
なんだか、自分の体の中を冒険してる気分。
今の私って血管の中にいるのかな?
なんか赤血球みたいなのが追い抜いてく。
あと、変なモヤモヤしたのもある。これが魔力なのかな?
ん?
今の私ってどうなってるの?
まあ、いいや。
今はとにかく、水の精霊を追いかけないと。
《こっち こっちだヨ》
声が聞こえてくるのは、向こうかな。
うわ、危ない危ない。
尿道から出るところだった。
えっと、じゃあ、あっちかな。
うーん、血管って入り組んでてよくわかんない。
《うわーい、すんごい跳ねル~~~》
ちょっとっ!
心臓でトランポリンしないで!?!?
私死んじゃうって!
《大丈夫ダイジョブ。人間ってこれぐらいじゃ死なないカラ》
その口ぶり、常習犯だな?
クソガキ!
《あはははははは。つかまえてごラーン》
こうなったら、絶対に捕まえてやる!
こしょこしょの刑だっ! 人の体で遊んだこと、後悔させてやる!!
でも、すばしっこい!
どんどん上に逃げられていくんだけどっ!
ここって喉? こののどちんこ邪魔!
脳まできちゃったじゃん!
でも、もう逃げられないぞ!
《あーあ、つかまっちゃっタっ》
はあはあ……!
疲れた。しんどい。女体化してから体力落ちた気がする。
歳かな?
《人間の体って面白いネ》
まったく、私の体はアトラクションじゃないんだけど。
いつもこうやって遊んでるの?
《そうだネ。みんな面白イ。でも、一番おもしろいのはアナタ》
私?
《とっても不思議な魂をしテル》
たしかに、変人の自覚はあるけど。
そんな特別な人間じゃないよ?
《転生者ナノニ?》
この世界、転生者は珍しくないんでしょ?
あと、なんで知ってるの?
《あなたの体の中で遊びまわったんだモン! すぐわかっちゃうヨ。アナタが元々男の子ってこともネ》
精霊ってすごいんだ。
あと、アナタじゃなくて、私にもちゃんと『ミース』って名前があるんだけど。クソガキ。
《ミース……水っぽい名前でサイコー!》
語感だけじゃん。
精霊って結構適当?
《雰囲気で生きてるからネっ! 死ななイシ》
おお、死なないなんてすごい。
《デショ? ねえねえ、ボクの名前をつけてくれナイ?》
どうして?
《ボク、名前をもらったことないんダ。人間ダケ、うらやまシイ!》
精霊って好奇心旺盛なんだ。
うーん。
そんないきなり言われても、中々いいの浮かばないなぁ。
《なんでもイイヨ。でも、かわいいのがイイ!》
それってなんでもいいって言わないじゃん。
でも、かわいい名前でいいなら、なんとか思いつきそう。
『ミーちゃん』。
水の精霊だから、ミーちゃん。
《ミーチャン!》
どう?
《気にイッタっ! ボクは今からミーちゃん!》
よかったよかった。
まあ、猫みたい名前だけどね。
《猫も液体っていうシ、かわいいからヨシ!》
たしかに?
それにしても、この世界でも猫は液体って考えあるんだ。
《ねえ、ちょっとお話シヨ?》
うん。いいよ。
あれ?
でも、何か忘れてる気がするような……。
私って、こんなところでのんびりしていていいんだっけ?
《そんなことどーでもいいジャン! ほら、おいしい紅茶を出したよ!》
えっ。
本当だ。
すごい! カップも水でできてるんだ。それなのに全く混ざってない。不思議だ。
へー。水の精霊ってこんなこともできるんだ。
お湯とかお茶を出せるなんて、水魔法っぽくないかも。
《すごいデショ? いろんなこと出来るんダ! フリーゼもお湯を出してたデショ?》
ん?
なんでお湯なんてリーたんに出してもらったんだっけ。
《……あ》
なにかやらかした?
《な、なんでもナイヨっ!》
怪しいなぁ。
《細かいことは気にするなんて、ミースらしくないヨ。うん、そうだヨ》
うーん。
確かにそうか。
……でも、何か引っかかるなぁ。
《ネエ、アナタは水を何に使いたいノ? 飲み水が欲しいイ? 敵を溺れさせたイ? 撃ち殺したイ?》
そんな物騒なことには使う気はないかなぁ。
ちょっとお洗濯したいだけ。
洗濯場の主に捕まるのはもう勘弁だから。
《いいネー。お洗濯。ボク、お洗濯もダイスキっ!》
水の精霊にとっても、お洗濯って楽しいものなの?
《んー。キライな子もいるヨ? でも、好きな子はすごいヨ。ずっと洗濯場にいたリ!》
そうなんだ。
あー。
そうだ。
お洗濯と言えば、お天気大丈夫かな。洗濯物、ちゃんと乾いてるかな。
《ねえ、ボクと一緒にここにいようヨ。ずっとお茶も出せるし、遊べるヨ?》
それもいいなぁ。
……ふわぁ。
紅茶を飲んでから、なんだか眠たくなってきちゃった。
すんごくポワポワするし、幸せな気分。
――帰ってきて。
あれ?
誰の声?
とってもかわいらしい声だ。
こんな声に名前を呼ばれたら、最高だろうなぁ。
でも、今すぐ泣き出しそうなぐらいに震えてる。
何があったの?
《気にしなくていいヨ? この声はすぐに聞こえなくなるカラ》
――お願い、見捨てないで。ミース、お願いだから……。
すごく胸がザワザワしちゃう。
なんだか走らないといけない気がする。
そうしないと、すごく怖い。
《ここにいれば、怖くないヨ?》
怖くない、かぁ。
怖いことってなに?
《危なくないヨ? ずっと楽しくおしゃべりシヨ?》
――わたしを見捨てないで。
前世も含めて、一番怖かったことって何かな。
《辛いことを考えても、仕方ないデショ?》
辛いことかぁ。
いっぱいあったなぁ。
前世ではバスの交通事故で幼馴染が死んじゃうし、両足動かなくなったし。
頑張って生きてたら、お母さんが過労で倒れちゃって……。
あの無理してた顔、思い出すだけで涙がこみあげてくる。
この世界に来てからも、孤児院での扱いが酷かったし。
フリーゼ。
そうだ。
フリーゼに会えたのはいいことだった。
でも、人生って、辛いことばかりだよね。
――わたし、まだ何も返せてない。何もできてない。言いたいこと、いっぱいるのに……。
《もういいジャン。休んじゃないナヨ》
そうかな。
私って休んでもいいのかな。
前世のお母さんはあんなに頑張ってたのに?
僕のせいであんなにやつれちゃったのに?
《そんなの、ミースには関係ナイヨ。転生したんダカラ》
そうかな?
そうかも。
でも、う~~~ん。
――ミース。ミース……。ミースミースミースみースみーす…………。なんで……。おねがい……。やだよぉ…………。
……泣いてる。
フリーゼが泣いてる。
《いいジャン。無視しようヨ》
無視?
私が、フリーゼを無視するの?
……それってありえないよね。
私、フリーゼのママになるって決めたんだから。
僕――私、行かなくちゃ。
《ナンデ?》
幼馴染がいなくなるのって、すんごく悲しいことを知ってるから。
ママのつらい顔を見るのが辛いって、身をもって痛感してるから。
私って今、幼馴染でママだからね。
《本当にイイノ?》
わかんない。
私はフリーゼみたいにおつむがよくないし、未来のことを考えてもわかるわけない。
《後悔スルかもヨ?》
どうにでもなるよ。
人生って、流れに身を任せるしかないんだから。
でも、流れに乗るのって楽しいと思ってる。
今までの人生と比べると、どんな状況でも楽しめる自信があるのよ。
川みたいに流れて、穏やかな時があっても、激しい時があっても、笑っていられる。
笑えるものが無くても、見つけたり作ったり……私がみんなを笑わせればいいんだ。
そうすれば、みんなの笑顔で私が笑える。
最後に笑えれば、人生って勝ち。
私、そんな人生を歩んでみたい。
《いい答えダネ》
あれ?
試してたの?
《イタズラ。ただのイタズラだよ》
そっか。
よくわかんないけど、私、ピンチだったのかな。
《どうカナ。水って便利だけどキケンでショ》
確かにそうだ。
今、目を覚ますから待ってて、フリーゼ。
そうだ。目を覚ました時、何を言おうかな。
少しは気を遣った言葉を考えといた方がいいよね?
ま、いっか。
心に浮かんだ言葉を口にしちゃおう。そっちの方が私らしい。
今帰るよ、リーたん。




