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54_[意気投合]と[ある依頼]

 大体三〇分後かそこら。



[……っとぁー。なぁんか、随分ややこしいことになってんのね?]



 エイデュイアは妙な感嘆と一緒に、私たちの事情説明の感想を吐き出す。



『ホントそーでさ、なんか気がついたら全部私が抱え込んじゃってて。人間の新しくできた友達……正確に言うなら“同期”なんだけど、その人たちにも自分から正体バラして協力頼んだりとかね』


[……ねぇカオル、それはそれで思い切りすぎじゃないかしら? 別方向でちょっと心配になるわ]



 何はともあれというか何というか、とにかくエイデュイアの性格がお淑やか系というより清楚っぽく振る舞おうとしてるギャルって感じに近い設定で助かった。どういう理由かは分からないけど、私は昔からギャルっぽい性格の人と相性が良いのだ、本当にどういうワケか。



 場所は依然変わらずチュートリアルでたどり着く入江、ただし風景は最初からだいぶ変わってしまってるのは言わずもがなだ。リューナは呑気(のんき)に昼寝・スーは気ままに探索と各々説明にはモロにやる気なさげで、結局自分たちの身の上話については私がしていた。

 ま、今回は事態解決にあまり貢献出来なかったワケだし、今更それくらい何でもない。



[にしても、この……リューナだっけ? この子とか完全に寝ちゃってるけど、わたくしは自己紹介しなくて良いの? こんなナリでも一応は女神の端くれ、わたくしにだって異名とか“権能(けんのう)”って呼び名の特殊能力はあるんだけど]


『それは大丈夫、別のとこでこのゲームやった時に“ちゃんと教わってるから”』



 すかさず私は断りを入れておく。

 全く別の機会とはいえ本人から確かに何かを教わって、そして向こうにその記憶は無いというのは変な気分だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言えばそうなんだけどさ。



『何なら答え合わせでもしよっか? あなたの異名は“水鏡(みずかがみ)”のエイデュイア。確か水面と水底(みなぞこ)を司ってて、空中を水面みたいにして幻を映し出せる、でしょ?』


[うん、正解]


『でもって、海の神様から生まれた三〇〇〇かそこらいる水の女神たち姉妹の末っ子。……あー、だからまだ体が小さいことを気にしてたとかそんな感じ?』


[ちょ、ま! ど、どど、どこでそんなことまで……⁉︎]



 明らかにエイデュイアは狼狽(うろた)えだしたがこちらは動じない。

 下調べくらい、帰りの電車内で済ませてるんだから。



『まぁゲーム的には裏設定扱いらしいけど、ギリシャ神話モデルの設定なんだし元ネタ調べればいくらでも出てくるって。スタッフさん結構マジメに調査してんのね』


[っ…………ッああもう……! こちとら充分コンプレックスのつもりで抱えてんのに、一言で設定って言われんのって腹立つなぁ……‼︎ 何より、全部間違ってないのが余計に‼︎‼︎]



 確かに、いくら作られた“設定”だろうと本人からすれば立派な悩みなのだろう。そりゃ人間からすれば奇妙な話だけど、世界の全てが人間の手で作られた電脳世界の住人ならそうとは言えないのかもしれない。ましてやゲームみたいな、創作物の世界なら尚更に。



『え、あ、その、ご……ごめ——



 そう思って謝ろうとしたとき、不意に重なる声が二つ聞こえてきた。



[ふぁわぁぁ……あぁ、カオル。説明済みました?]



 一つは昼寝から目を覚ましたリューナの声。

 で、もう一つは……。



『突然ですが失礼します。私は……いえ、我々はこの「イーリアスODYSSAY(オデッセイ) - INFINITY(インフィニティ)」の制作スタジオであるオリュンポスゲームズという企業の代表でございます。先ほどまでの皆さまの活躍と事態解決の手腕について、我々は制作サイドとして拝見しておりました。その上で依頼があります、どうか、どうか我々にお力添えをいただきたいのです……!』





 二日後。Jackie-S(ジャッキーズ) in the(・イン・ザ・) Box(ボックス)の事務所運営の社屋ビルにて。

 私はビルの上の方にあるこないだまでの会議室とは別の、かなり内装も物々しい感じな会議室にいる。会社のスタッフさんはケーコさん・(はかり)さん・街山社長、その他重役っぽいスーツの人たち数名。

 対する“社外の人たち”は……。



「この度はお時間を設けていただき誠にありがとうございます。我々はゲーム制作会社(デベロッパー)のオリュンポスゲームズと申しまして、私は代表取締役(C E O)岡谷裕貴(おかやひろたか)と申します。ボルボックス社さんとは、Jackie-S in the Boxのメンバーさんたちの案件配信などでウチの作品であるイーリアスODYSSAY(オデッセイ) - INFINITY(インフィニティ)をご紹介戴いております。発売元(パブリッシャー)ではなく制作会社(デベロッパー)である我々とは初対面になりますが……」



 中年で眼鏡をかけた小男が歩み出て、名刺を差し出しながら挨拶する。

 要するに、長々とカタカナや英語の羅列を並べるこの人物はゲーム制作会社? の代表と他数名らしかった。

 いくら案件でお世話になっている企業とはいえ、こういうときに販売とかを担当するのは発売元のハズだ。制作スタジオが出張ってくるなんてそうそうあるとは思えない。まぁ、業界のことに詳しいワケじゃないからド新人の推測でしかないけど。



「こうして御社に直接(うかが)ったのは他でもありません。御社のライバーとして所属していらっしゃる浦賀カオルさん、彼女に依頼があるためです。単刀直入に申し上げます、浦賀カオルさんにデバッカーとしてご協力をお願いしたいのです!」



 岡谷社長はそこまで言ってから深々と頭を下げた。

 もちろん、ここまでのことは私だって一昨日急に話しかけられたゲーム内でのやり取りで既に聞いてはいた。


 リューナとスーの二人で事態収束まで導いたエイデュイアの暴走事件。何でも、あれは制作スタジオ内でも全くもって把握できていない事象だったのだという。運営しているネットゲームにおけるあまりに突然の暴走。恐らくAI絡みの問題だというのは誰もが分かったが誰も急に対処は出来ない。

 そんな折に、たまたま現場に居合わせて鮮やかに事態を解決したのが私(にスタジオの人々からは見えたの)だった。

 さらに始末の悪いことはもう一つある。今回の件で問題になったAIの挙動、実は何らかの“異常”があったのをスタジオ上層部も把握していた。しかし彼らはスペック以上の性能を発揮しているらしいAIを何も問題視していなかったのである。そしてゲーム全体に被害が及びそうになったところで現れた私に(すが)り付くことにしたらしかった。



「カオルさんはゲームをプレイヤーとして操作していただけに過ぎません。しかし見るも鮮やかにゲーム内で起きた問題を解決して見せたのです! 本来なら運営として断固たる手段を講じなければならないのですが、ここまでの活躍を見せられたのでは話が変わって参ります」



 調子の良いことを岡谷社長は(まく)し立てる。しかも私が逃げられないように悪者扱いもしてきた。実際言い逃れもしようがないのだけど。



「ところでですね、海外では名の知れたハッカーが刑務所で捕まると、そのハッカーの保釈金を名だたるIT企業が払って雇うことがあるそうです。ハッカーはシステムの脆弱性(あな)を知り尽くした存在ですから、彼らの力でセキュリティを強固なものにする狙いがあるのでしょう……もう、おわかりでしょう? 我々もカオルさんを同じように雇いたいのです!」



「ちょ、ちょっと待って下さい!」



 対する街山社長はモロに困惑しながら言葉を漏らす。



「彼女は大事なウチの新人です、そんな風に協力をすることは……」


「もちろん! 我々にだって譲歩の準備はあります!」


 そして、なおも岡谷社長は食い下がる。


「そもそも我々がお願いしたいのはわずかに手伝って貰う、それだけです。デビューまでの講習が妨げられるようなお時間を取らせることもありません! そしてカオルさんが我が社での仕事を成功した暁には報酬としてイーリアスODYSSAYの——


「あの、私やります」


「ちょ、え⁉︎」


「浦賀さん⁉︎」



 言葉の途中で私は歩み出て、ただ簡潔に“引き受ける”と宣言した。街山社長もケーコさんも相当驚いている。量さんに至っては声も出せないほどらしかった。そしてそれは目の前の岡谷社長も同じだ。が。



「ま、まだこちらの譲歩の話は終わっていませんが……」


「いえ良いんです。もちろんその話は後で街山社長としてくだされば良いんですが、少なくとも私は自分の意志でやりたいって言っています。そりゃ、大変かも知れないけど」



 私は自分が引き受けた理由を説明する。なるべく(よど)みなく、堂々とはっきりと。



「まず単純になんですけど、あのゲームは“友達”がすごく好きなんですよ。結構色々あった子なんですけど、あのゲームをやってる最中はすごく生き生きしてて。それに私とその子がちょっと仲良くできるようになった原因とか他の仲間とかもあのゲームが作ってくれて……だから、私が何かのためにやれるって言うんでしたら私やりますよ」



 そこまで言い切って、何やら涙ぐんでるらしい岡谷社長に私はお辞儀した。

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