53_[突発的口喧嘩]と[肉体的大喧嘩]
ヒゲ面の巨人が飛んでくる巨岩から逃げ回るのをやめたのは、当プログラムが岩肌の地面に刺さった剣を引き抜いてから程なくしてのことです。
別に“アレ”がただ飛んでくる岩に打たれていたワケではありません。
最初こそ逃げ回っていた巨人ですが、スーによる岩の撃ち出しが遅れたタイミングが契機でした。
『スー⁉︎ 何でそこで射撃止まんの‼︎』
[申し訳ないけど無限に撃つわけにいかないって! そりゃ撃つ岩自体はあるよ、でも下手に投げまくって崖崩れでも起こしたらどうすんのさ? リューナが巻き込まれてゲームオーバーになったら勝率は一気に下がる!]
土壇場で焦りが双方高まっていたようで、急に口喧嘩が始まってしまいます。
そしてここで悪いことは重なり、巨人の足下に砕けた小降りの岩が転がって……。そして巨人はハッとしたようにその攻撃の切れ間で立ち止まり、それから足を上げて真っ直ぐに岩を踏み砕いたのです。
……要するに、巨人自身が“気付いた”のでしょう。自分の足は岩よりも頑強だということに。
それから巨人はグルンと向きを変え、今度は真っ直ぐこちらに向かって走りだしました。さすがに岩の塊を真正面から投げつけられては無事ではいられないと思いますが、それを自分で対処できるとなれば行動も攻撃的に変わってくるのは当然というヤツで。
ガンっ、ゴッ、バごッ
三連、巨人は拳と蹴りを振り抜き、飛んできた岩を砕きます。拳法家のような洗練された動作ではないながら、それだけに獣みたいにがむしゃらでどこか凶暴性すら感じさせるような、そんな動き。
さらに次々と撃ち出された岩を踏みつけ飛び乗り着地して、巨人はあっという間に当プログラムたちの眼前にまで辿り着いたのでした。
目の前に着地して、姿勢を低くしながら無表情で当プログラムを見下ろします。
『あぁもう、しっかりしてよ! 追いつかれた‼︎』
[落ち着いて、こういうときのために役割分担したんだから! それに——
とうとう出番か、と当プラグラムが渡された剣を振り上げようとしたところで……、
頭上から大きめの岩塊が巨人めがけて真っ直ぐに降り注いで、そのまま真っ直ぐに押し潰したのでした。そうか、目の前のあそこはスーの位置から見ればちょうどいい位置でやっと巨人が立ち止まった地点ということですか。
それなりの質量が叩きつけられたためでしょう。巨岩が足元の岩肌に衝突した威力で、下から突き上げるような反動が地面深くから岩肌ごと地面を破壊し、当プログラムの体を跳ね飛ばします。まぁ、跳ね飛ばされたといってもそれは若干であって、当プログラムへの影響はやや宙に浮いたくらいでしたが。
遥か頭上から間近にまで降りてきたスーが吐き捨てるように呟きました。
[……反応は未だある、まだ死んでないのか。幸運なのか不運なのか……]
『ちょっ、スー? 幸運とか不運とか何の話⁉︎』
[あのまま体が潰されたとして、“まだ生きてる”と考えるなら幸運、“まだ死ねてない”と考えるなら当然不運でしょ]
『は、何? ここであの巨人のほうの心ぱ——
[こんなときにどうでもいい長話しないで下さい、二人とも。というか、あの巨人がまだ生きているなら戦闘不能どころか多分まだまだ無事だと思いますよ]
まだ先ほどの口喧嘩に折り合いがついていないのでしょう、カオルがスーに突っかかって行きそうになったところで当プログラムが止めに入りました。人間という生き物の性質なのか、頭の切り替えというものに何かと時間がかかるのは分からないでもないですが。
……と、目の前の巨岩にヒビが入って。
巨石を横中央で半分に割るように真っ直ぐ縦のヒビが入り、そして岩はそのままばっくり割れて左右に崩れ去ります。ヒゲ巨人は振り上げた右腕で岩を割ったようで、そのまま拳で当プログラムを殴りつけようと振り下ろしました。既に決まりきったことを行うように、無表情で真っ直ぐこちらを見下ろしたまま。
[マズい!]
至近距離からスーの叫びが耳に響きます、が。
直後に何かを金属を斬りつけたときの、ゲームらしいサウンドエフェクトが聞こえて、
[……この距離で、あまり叫ばないで貰えますか……!]
踏み出していた当プログラムはとっくに剣を振り抜いた後でした。
当プログラムは咄嗟に剣を構えて右側斜めに前進し、すれ違いざまにヒゲ巨人のヒザ下を斬りつけていたのでした。現実世界でなら鮮血が噴き出していたのでしょうが、ここゲーム世界ではそれに代わり斬りつけた痕が白熱した金属みたいな光の軌跡で浮かび上がり消えていきます。……流血表現は無いタイプのゲームということでしょうか。
一方、突然の被ダメージで一瞬頭が真っ白になっていたらしい巨人でしたが、すぐに正気に戻ったように身を翻して体をひねってこちらに殴りかかってきました。
[おっと、よそ見は厳禁!]
しかしスーがまた叫びます。今度は心配などではなく攻撃の掛け声として。
空中にまだ浮かべられていた残り数個の岩が巨人の頑丈な肉体へと撃ち出され、そして派手に衝突して砕けたのでした。
[……ぐ…………ぁ……]
巨人は呻き声を上げてばたりと倒れ、動かなくなります。
『待って! エイデュイアは⁉︎ あと一応、野盗のオッサンも!』
カオルが一声叫んで当プログラムとスーははっと顔を上げて巨人に駆け寄りました。
巨人の体はみるみるうちに小さくなり、やがて元のゴロツキの身長まで戻ります。そしてその傍らには二〇センチほどの人形のように小さな女性の姿も。
[エイデュイア!]
当プログラムが彼女を揺り起こすと、自称女神はゆっくりと目を開きました。
[……あたた、あれ……? わたくし寝てた? てか何、この状況……]
『良かった起きた! ……えっとその、事情を説明すると……いやどういえばいいんだろ、その隣に倒れてるオッサンとエイデュイアが、なんか突然合体して巨人になって……』
[へ、合体……巨人? ……こ、このムサいのと⁉︎ それどういう状況よ⁉︎]
カオルからの状況説明にエイデュイアが動揺して取り乱すのが面白いように分かりました。
すかさずここにいる中では一番説明が上手いであろうスーが会話に加わります。
[分かった、説明する。まず前提として、このゲームには何か普通じゃあり得ない“何か”があるみたいなんだ。会話内容にAIが若干関わってるらしいのは分かるんだけど、君の受け答えは優秀すぎる。そういうわけで僕らが調べに——
[ちょ、ちょっと待ってって! 大体さっきからアンタもなんだけど、出てきて自己紹介もせずによく分かんない状況説明だけして自分たちだけ安心しようったってそうは行くかっての! まずアンタらは誰なのかから言いなさいよ‼︎]
怒り心頭でエイデュイアは捲し立てました。当プログラムとスーは思わず顔を見合わせます。
……それもまぁ、そうですね。




