52_[剣]と[岩]
『……いや、影響はあるんだってカオル。いくら全世界で発生してるって言っても、カオル自身がポルターガイストと初めて出くわしたのはついこないだだったんだろ? つまり実際には世界中で起きちゃいるけど頻度自体それほど多くないって程度なんだよ』
スーは通信でまたカオルと話を始めたようでした。発言内容から見て、先ほどの言葉についてのさらに噛み砕いた解説といったところでしょうか。
『……そう、単に発生した例が悪目立ちしてる状態。…………イヤそれはそうだけどさ、このゲームでエレガイストが暴れるんなら話は別だって。何せネットゲームだよ? どうせ今のご時世なんだし、複数言語くらい対応してるんでしょ? つまり世界中からのアクセスに対応してるってことであって……もしこのゲームから各ユーザーのいる現実にポルターガイストが発生すれば——
[スー、サポートする気がないのなら当プログラムの聴覚に話しかけないで下さい]
頭の中に直接流れてくる会話に、当プログラムは苛立ちながら吐き捨てます。
いくら相手が暴れづらい場所に立てこもってるからといって、こんな長話で時間を浪費されては堪ったモノではありません。
『いやリューナ、そうは言ってもこっちとしては手詰まりに近いんだよ。僕の今の服装見たろ? このゲーム空間ではいつもの服装だって持って来れない、ゲーム中に3Dデータが無いんだから。つまり前に使ってた十字架の銃なんかも転送できないワケで、だったらキミが自力で何とかするしかない』
[ならゲーム内の適当な武器データでも引っ張ってくればいいでしょう!]
『初めて見る武器を何もなしで今すぐ自在に使いこなせると? キミは武道の達人か何かかい?』
ぐ……スーに毅然と言い返されました。実際、いま問題なのは当プログラムがこのゲームのキャラみたいに武器を振り回そうにも何の心得も補助も無いということ。つまり向こうの言葉通りです。
しかしだからといって、当プログラムが危機的状況にいるのは明白。そして何よりも、スーがあんな立ち話しか出来ないなんてことはないハズ。
ばきっ ガゴッ
と、いきなりの重い衝突音が周囲の岩を抉っては砕きました。バラバラになった岩の欠片は当プログラムの顔めがけて散弾みたく飛んできます。そして引っかき傷まみれの肌を波飛沫が洗っていく痛み。
何が起きたかというと至極単純で、あのヒゲ巨人が先ほど蹴り砕いた岩の破片を投げてきていました。
[何のためのサポート役ですか……!]
一口に破片といっても大きさはレンガ並みです。頭部にでも当たれば一撃でゲームオーバー扱いにされてもおかしくはありません。そしてゲームオーバーになればここからスタート地点にまで戻され、現実世界のプレイヤーを襲う無差別なポルターガイストを食い止められないということに……。
[ああもうッ! いつまでグズグズしてッ‼︎]
当プログラムは焦りよりも怒りを覚えて叫び散らします。
最初会ったとき、アレほど攻撃してきたクセに!
『……ふぅ、間に合った』
頭上。
いつの間にやら、スーが空中から巨人を見下ろしていました。
周囲の大地に広がるだけだった、とんでもない量の岩を背後の空中に従えて。
『やっと解析が終わったよ。僕はこれでも色々やってたんだ、ちょっとは大目に見てよ』
[遅い、高カロリーの動画ファイルでもないと許せませんね]
『あ、やっと通じた! ……あとリューナさぁ、そういうの用意するの結局いっつも私じゃん』
スーとカオルふたり揃っての声がやっと当プログラムの耳にも届きます。そして、スーの背後に浮かぶ巨岩群のうちの二つが巨人に向けて放たれました。一方、岩の欠片をさっきと同じように投げようとしていたヒゲ巨人は飛んでくる岩を見て、それから猛然と真横に駆け出します。
[もうこっちで話してもいいか。いいかい、アイツの弱点は“人の形をしてること”だ]
目の前の光景は無視してスーが話し始めました。その間にも背後に浮かぶ巨岩は次々に打ち出されて、巨人の駆け抜けていく位置を次々と潰していきます。
巨人はどう見ても岩の砲弾の回避に必死なようでした。
[人の体って正面に弱点が多いんだよ、構造上ね。まず目は正面向きについてる、喉仏も鳩尾も正面を向いてる、おまけに骨が無くて内臓が詰まった腹部もある。元は四足歩行だった人間の祖先が直立二足歩行を始めたからなんだけど]
いつものやや回りくどいウンチクが垂れ流される中で、ふと当プログラムの足元に鋭い剣が宙から降ってきて地面に突き刺さります。
[まぁ、そういうわけで僕は岩を撃ち出して相手を追い詰める。時間があれば一人でもっと手の込んだことも出来たけど、今はそんなもの無いし。……あと、そこに刺さった剣あるでしょ? それはこのゲームのデータベースから僕が引っ張り出したヤツで、今のレベルのリューナが扱える最強の剣だ。身体の動作にもバフかける機能を付けてる。それでトドメを刺して欲しい]
そして当プログラムは大役を頼まれたのでした。
[……スーがそのまま岩で何とか出来るのでは?]
[巨人のあの岩の避け方見てから言ってよ。向こうも必死みたいだし、そもそも身長が五メートル強もあるんだからその分だけ動きも速い。というか逃げてるけどデカいぶん体も頑丈だろうしさ。つまりここにいる二人で協力した方が確実だろ? それにこのゲームのキャラが剣を振り回すときと同じ動作ができるように補助まで付いてるよ。至れり尽くせりだ]
『………………』
こちらは当然の疑問というヤツを口にして、向こうは軽口っぽく返してきます。それとカオルは黙ったままでしたが、マイク越しに小さく歯噛みしたのが聞こえた気がしました。
[それじゃ、剣を引き抜いて]
スーからそんな風に指示されて、当プログラムは地面に刺さった剣を引き抜きます。
構えた剣の刀身に、向こうの巨人が映ったのが見えました。




