51_[断頭台]と[拡散の兆し]
正面真っ直ぐに迫る足の甲。
風圧で肌に突き刺さる砂粒。
そして何よりもまず、殺気。
[フッ‼︎]
その突き出される断頭台の刃じみた巨大なつま先を、右に身を躍らせることで何とか避けたのでした。そして背後で命中した岩が砕かれる音。
巨人と化したヒゲ面の女神(?)に襲い掛かられた当プログラムは、タイミングを合わせて横に飛び退くという手法で回避し続けています。……というか何故スーは向こうで浮いているのに全く襲われていないのでしょうか?
空中に漂うスーは向こうのほうで何やら呟いていました。たぶんモニターの向こうのカオルと会話しているのでしょう。正直腹が立ちます。
と。
ジチッ
『聞こえるかい? プログラムとしての君の“聴覚機能”に直接話しかけてる』
[話しかけるタイミングくらい考えて下さいよ! とい、うか‼︎ 何でそっち、は! 襲われてッないんですかっ⁉︎]
少しのノイズと共にいきなり、当プログラムの耳にスーの声が届いたのでした。対するこちらは半ば怒り狂いながら反応します。
巨人は前蹴りからさらに足を振り上げて、その踵で踏みつけようと躍起になっているようです。まるで頭上から降り注ぐ破城槌。スーに視線をやる余裕なんてあるハズもなく、咄嗟に後ろへ飛び退いて急場をしのいだのでした。
ちなみに常にどこかをぼんやり眺めている彼の声は、やはりというか何というか、あまり焦りが感じられません。
『…………ぁーごめんごめん、君の声をこっちに繋ぐのを忘れてた。何て?』
[呑気ッどころの! 話じゃ、なッいっでしょうが‼ 何なんですかッこのヒゲ女神巨人!]
『もう大声を出さなくても聞こえてるから声抑えてよ。案外、遠慮無いねキミ』
[どっちが‼‼⁉]
明らかに危機感の足りない調子の声に、跳ね回りながらももはや半狂乱で叫びます。まぁ、当プログラムの喉が壊れかねないのでもう声を張って抗議するのはやめたほうが良さそうですが。
『今のエイデュイアさん? とあの野盗と、彼女らが急にストーリー関係なく合体して襲ってきてるのは報告されてた会話用AIが悪さしてる。それでイレギュラーの僕らに反応したネット回線のセキュリティソフトが動いて、そこに例のAIがゲームデータごと合体してこんなことになってるっぽいね』
[はっ……はぁ……っぽいって、何ですか……]
巨人から少し距離を置いて岩場に逃げ込み、報告を聴きつつそこで息を整えます。
岩場は足元が悪く、また刃先みたいに縁が鋭く尖っていて巨人も攻めあぐねているようでした。
そして売り言葉に買い言葉、揚げ足取りも良いところですが当プログラムはまだスーに噛み付きます。ですが、そんなムキになったこちらの態度なんてお見通しとばかりにスーはこちらを無視。反応すらせずに言葉を続けます。
『こんな動きをするAIなんて僕のデータには無いけど、それ言ったら僕らだって常識目線から見て充分オーバースペックだ。この場合、問題になってくるのは“何でそんなモノがこ、こに……』
と、スーが突然当プログラムへの報告を途切れさせました。イヤな予感がします。
『——どおりで機械離れした動き方するわけだ……コイツ、AIだけじゃなくて霊が絡んでる! “エレガイスト”だよ、しかもバレづらいように意図的に偽装してる‼︎』
[へ? ここでそれが絡んでくるんですか……? 高機能AIがどうこうとかそういう問題ではなく?]
正直、思いもよらない方向から突然殴られたような心地がします。
今までの話は当プログラムやスーといった人型電子存在の起源を探るための行動だったハズです。ならば何故、先ほど話で出てきたばかりで、何なら呼び名も先ほど決まったばかりのエレガイストとやらが絡んでくるのか?
今さら心霊現象と関係してくることに疑いがあるワケではありません。でもだからって、ここで急に話がそちら方面に転んでいくのは一足飛びにも程があります。
『イヤでも変だ、変だろこれ……何で自分の正体を隠す必要あるんだ? 人間からは観測されないんだぞ……そもそも誰から、何から正体隠してるん————あぁもう、何だよカオル! 何で急にそんな顔してんのさ、なんか口元引き攣ってるって。そりゃいきなりあんなの出てきたら驚くもんだけど、今はそういう場合じゃ……え、は? 何で恥ずかしさ……?』
ですがスーは発言直後に何か疑問点が浮かんだのか、ブツブツと独り言を呟いたり恐らく関係のない言い合いをカオルと始めたりと要領を得ません。もう色々と話の細かい部分が抜け抜けになっていてワケが分かりませんでした。
これで解析役を買って出たというのは冗談でしょうか?
『ってそうじゃない、注意が必要なことがある‼︎ これを言わないといけないんだった! ソイツを早く黙らせないとマズいぞ‼︎』
[もう! さっきから報告がめちゃくちゃです‼︎ 要点を絞ってください]
当プログラムは思わず苦情を叫びます。急に血相を変えて叫び返されたってそうは問屋が卸しません。
しかしスーはふざけているワケでも勿体ぶっているワケでもありませんでした。
『あれにエレガイストが絡んでるとしたら大変なことになる! いいかい、ここはネットゲームだ。もしこの空間でエレガイストが暴れでもして、このゲームに世界中からアクセスしてきてる全PCに影響が出たら?』
あ、と漸く当プログラムにもその危険性が思い当たります。
『ここを起点に全世界へ無尽蔵に、ポルターガイストがバラ撒かれかねないぞ……!』




