49_[洞察的]と[懐疑的]
海の真ん中にリューナ……つまり祓戸シシィのアバターが浮かんでいるのを私が見るのは今日で二回目だった。
要するにゲームのチュートリアル、海難事故現場シーンをもう一度最初から見ているワケだ。
まぁ正直言って、ゲームの同じパートを繰り返して見るのなんて何も楽しくないけど。……ただ、さっきと決定的に違うのは、
[あー、リューナがこうやって海面に浮かぶシーンは二回目なのか。お気の毒]
リューナを眺めている私の視点にスーの実況が付いている点である。
「どういう目線のコメントだよ」
……というかまたアバターとしてゲーム内に潜入したリューナはともかくとして、何故スーの方までこうして第三者ヅラで彼女を眺めてるんだ?
[ん? 随分と不思議そうな顔だ。ふーむ、大方“なんで僕がリューナみたいになってないのか疑問”とかそんな感じかな? ま、確かにこのチュートリアルは全プレイヤーがシングルでプレイしなきゃならない。でももう一つ、僕はそもそもプログラムを自由に書き換えて再構成する能力があったことは覚えてるかい? つまり僕はゲームのデータを書き換えてチュートリアルを終わらせてることにしたってわけ。そうしないと二人同時で別々にチュートリアルを終わらさなきゃいけないわけだから、それを見るカオルが大変だと思ってさ]
……ということらしい、長々とどうも。
声だけで目には見えないが、何だか得意げにスカしてる雰囲気は伝わってくるスーは置いといて。
リューナは昼間と同じく奴隷商人? の近くまでわざわざ泳いでいく。ゲームの進行上、たぶん強制的に近寄ることにでもなってるのだろう。
[お前はウチの奴隷じゃないか! 助かった、全員溺れちまったのかと思ったぞ。ボサっとしてないで、わかったら主人を早く助けろ!]
で、主人はまた昼間のゲームプレイ時と全く同じの横柄な態度で大声を張り上げてから、
[いい加減黙りなさい! 何回もそれを言われる身にもなって‼︎]
ある意味では非常に理不尽な理由でリューナから一喝されていた。
で、結局あの船の残骸から逃げ出してから例の入江まで移動して、それでまたあの古代ギリシャ兵崩れみたいな野盗に見つかるなど昼間に体験した流れを忠実に追体験した後。
問題の人物(?)のお出ましである。
[お待ちなさい]
聞き覚えのある高い声が響いてからまた昼間と全く同じように空気が止まって、目の前の風景には海の底みたいなレイヤーがかかった。彼女は虚空から浮かび上がるように現れる。
[あの船の残骸から岸まで泳ぐのを、いえ、奴隷としてあの船に乗せられるよりも以前から海の底より貴方を見ていました。生まれた国の敗戦が原因で、幼き頃から捕虜・奴隷として売り渡され続けたという不遇の生涯……これも所詮は気まぐれでしかありませんが、わたくしがお救いしましょう。その代わり、貴方にお頼みしたいことがあるのです]
そしてエイデュイアは徹頭徹尾変わらないセリフでもって、リューナ扮する主人公を憐れんだ。
[……これが例の?]
「そ。キャラとしての名前はエイデュイアなんだけど、この子の言動がプレイした中で一番違和感があった。つまり発言が一番“人間クサかった”キャラ。こっちの発言にも流暢に、そんで柔軟に会話してたワケ。まぁ、それを言ったらそこのゴロツキもそれっぽいことは口走ってたけどね」
んで一方の私とスーは構うことなく会話を続けていた。そりゃそう、今のところの私たちはプレイヤー目線であってゲーム内の会話とは一切関係ない……ハズなんだけど——
[おや、話しかけている“貴方”と“それに繋がっている貴方”の他にもう一人のどなたかがいる……? 何者です? 姿を顕して下さるかしら]
製品版のエイデュイアは私たちの存在にもいち早く気がついた。というか今の発言から考えて、たぶんゲームキャラと操作者の関係すら全部わかっているのか……?
[二人の会話も知覚できるんですね]
[あら、貴方も自分だけで話せるのかしら? 初めてのパターンですね]
[なるほど……もともと発言内容の調整にAI積んで発現させるタイプのゲームみたいだけど、確かにそれにしては精度が高すぎるね。あぁ、申し遅れた。僕はスー・ナクルフって名乗ってるAIみたいな存在だ。君と同じくね]
リューナとエイデュイアの会話に続いて、如何にも余裕ありげなリアクションでスーは姿を表す。
姿は何度も対面しているオレンジ髪と灰色の肌の少年の姿だ。服装だけはゲームの作風と同じギリシャっぽい服装だったけど。さすがに存在するものが全て決められているゲーム空間で、服までいつもの格好という具合はいかなかったらしい。
というか隠したりオブラートに包んだりしないでAIってところまで言って良いんだろうか?
[AI? そんな存在が何で……こほん、何故プレイヤーと一緒にここで出てくるのでしょうか?]
[ん、無理してるのなら別に丁寧な口調で話してくれなくてもいいよ。僕みたいなこれをゲームだって分かってる“裏方スタッフ”みたいなヤツ相手に、今さらそういうの気にするモンでもないでしょ]
……別に言っても良いらしかった。AIの事情がどうとかはよく分からないが、取り敢えず“古代ギリシャ時代のゲームだから現代の話は通じなくて……”とかそういうことはない様子だ。
[単刀直入に言おう、僕たちは君を調べにきた。いや、もっと正確に言うならこのゲーム、及びここのプログラムに使われてるらしいAIについてってのが本丸なんだけどさ]
「あぁ、もうそこまで言っちゃうんだ」
スーは真っ直ぐに切り込んで目的を明かす。思った以上にスピーディな展開だ。
[遠慮なく普段の口調で行くけど……何でよ? アンタたち何を嗅ぎ回ってんの?]
当然ながら、いきなりそんなことを言われたエイデュイアは懐疑的な態度だったけど。
[いや、そこはこっちの事情なんだ。僕らには過去の記憶、いや記録って言った方が良いかな? そういうものが何一つ無いわけさ。だからどういう目的で自分が作られたのかも分からない。それで——
スーは言葉を次ごうとして急に押し黙った。どちらかというと呆気に取られた感じというか……。
[カオル、リューナ。こっちの顔じゃなくて前を見てみろ]
明らかに余裕の消えたスーの声に従い、私たちは前……つまりエイデュイアと向こうで停止しているゴロツキを見る。
何故か、視線の先でエイデュイアと野盗は“合体”していた。
……図体が三倍くらいに巨大化した状態で。




