48_[ある仮説]と[命名権]
[で、この辺りの情報を踏まえた上での僕の仮説なんだけど]
「まだ仮説じゃなかったのか……」
スーの発言に私はちょっと面食らう。今までの全部ひっくるめて前振りなんかい。前々から思ってはいたけどやっぱコイツ、語り口調が若干ってか相当クドい気がしてならなかった。
一方のスーは気にせず話を続ける。
[まぁね。そんでとにかく肝心の仮説の内容を説明しとくと、なんだけどさ。僕自身とリューナはまぁ置いといてだ、幽霊とか影助とか、そういう方面の話関係には恐らくさっき言ってたように御影石……つまり花崗岩の電気的性質が関係してる。たぶんポルターガイスト現象自体にもね]
「それって要するにさ、ポルターガイスト云々ってホントに心霊現象だったとかそういうオチ?」
[そうなるね]
[ダウンロード状況、八〇%超えましたよー。あと、ちょっとずつ読み込み速度が上がってますね]
[みゃあ]
私とスーの会話に重ねてくるように、リューナの報告が聞こえてくる。ひょっとしたら影助も一緒に何か喋ってるのかも知れない。ともかくリューナの言葉通りだとして、この調子ならもう幾分と時間は掛からないハズだ。
「やーっとそこまで来たか。PCのネトゲとかも始めるまでこんな時間掛かるもんなの? ゲームだとパッケージ買い切りのヤツしかやったことないからソシャゲってよく分かんないんだけどさ」
[いや知らないよ、人間側の社会インフラどうこうなんて。このゲームのデータ容量が特別大きいってだけかも知れないし、逆にみんなこんな物なのかも知れないし。まぁ、ブラウザでやるゲームとはさすがに違うんじゃない?]
[ふみゃあ]
スーからの不平に、影助も相槌を打つみたいに一声また鳴く。
[話の続きといこう。花崗岩……墓石の何が原因で電気が発生してるかってのが分からないけど、とにかくこの石材から出た電気的な信号が世界中の電子機器に影響を与えまくってるのがポルターガイストの真相なんじゃないかな。特に現代はインターネットなんて便利な代物まである。そうやって世界に“電子的幽霊”がバラ撒かれ続けてるってのが僕の仮説]
「ネット空間で“電子的な幽霊”が大量に、ねぇ……」
大人しく聞いてはいたけど、聞けば聞くほど珍妙な都市伝説にしか聞こえなかった。
だいたいポルターガイストなんて、都市伝説とか伝承とかそういうもの自体は大昔からあったハズだ。なんで現代で起こってるものにだけそんな発生メカニズムの話がくっつくのか? ……とはいえ、ネットの向こう側に“電脳世界”なる別世界が広がっているのを見ちゃったのも一応事実ではあるし。
[一応この仮説の提唱者として、この仮説を指して『ウェブパンデミック仮説』って名づけることにしたんだ。インターネット上で無尽蔵に増え続ける電子的幽霊、それによって現実世界に引き起こされ続けるポルターガイスト現象……まさにパンデミックって言うにふさわしいと思わない?]
「なるほどねぇ。まぁ、“パンデミック”ってそもそも伝染病とかに使われる言葉だからちょっと間違ってる気がするけど」
[……痛いツッコミではあるけど、事実こうやって無尽蔵に被害は広がってるんだから別にいいだろ。それにちょっとは良くない言葉を使って危機感を煽るのも必要なことだと思ってね。ここにいる三人と一匹でしか通じない言葉ではあるけど]
「何じゃそら」
[ダウンロード状況九〇%、到達しましたー。思っていたより早く片付くかも知れませんね]
私のぞんざいなツッコミにまたリューナの間伸びした報告が被せられる。
彼女に話に加わる気はやっぱり無いようだったけど、やはり同じPCに押し込められている都合から聞かないということには出来ないようだった。律儀に報告が飛んでくるのはリューナなりの抗議なのかも知れない。
あとそれと、私に唐突な思いつきが一つ。
「あのさぁ、その仮説についてはいいんだけどさ。……その“電子的幽霊”って呼び名、もちょっと何とかならない? なんか全体的にもっちゃりしてる感っていうか説明的過ぎる感じっていうかさ。危機感を煽るのも大事とか言うんだったら、もっと使う単語の“わかりやすさ”ってヤツも大事なんじゃないかなーって」
[単語の? ……まぁ、それも確かに大事ではあるけど……何だい? 急に話に食いついて来たね?]
うっ、やっぱりこの辺りのことに関してスーは勘が良いようだ。もっと言うなら“スーなりに危機感を覚えた”とでもいうべきだろうか。
「その“電子的幽霊”って部分の命名、私がやってもいい? 覚えやすいの考えるからさぁ」
[えぇ⁉︎ ヤだよ、そういうとこだけ一枚噛んでくるのは違うでしょ⁉︎]
思ったよりも大声での抗議が返ってきた。やっぱりスーはこういうところで“凝りたい”タイプの性格らしい。うん、やっぱ私と同類だ。だからこそ何となく分かったことなんだけどさ。
そしてここで私は自分なりの論理を展開する。……屁理屈、ともいうけど。
「命名権、って知ってる?」
[は?]
「要するに、新しく名前をつけられる権利のことなんだけどさ。ここでその“電子的幽霊”って存在に名前をつけるってことは、今の今まで存在してると思われてなかった“新しい概念”ってヤツに名前をつけることに等しいワケよ」
[……それがどうしたって?]
スーの声に不安がよぎったのが私にだって分かる。チャンスだ、畳み掛けるなら今しかない!
私は必死に頭の中にある雑学知識を正確に思い出そうとフル回転させていた。
「命名権っていうのは人間の世界だと厳密でさ? 例えば、新しい星の名前とかだったら小惑星だけ発見者に命名権があるけど、それ以外は専門の国際機関にしか命名権がないのね? 同じように新しい生き物なら論文で“これは新種ですよー”って証明した人だけ。でもこの“電子的幽霊”の場合だとそもそも『生き物かどうか』ってところから議論が必要になるから、もっと別のところで名前が決まると思う」
[何だか大仰な話になってきましたね]
[みゃあう]
リューナと、彼女に遊ばれ続ける影助の声も返ってくる。
「ってなると命名権について決めるのは国際機関の中にあるズバリ“命名法委員会”っていう人たちなんだけど。で、ここと交渉できる人間にしか命名権は渡らないハズ。……そしてスーは“電子存在”っていうそもそも議論される対象である扱いになるから、そうなると命名権は人間である私にしかないワケよ!」
自分が言ってて、内心自分で“何じゃそら”と二度目になるツッコミを入れてしまっていた。最初に自分で屁理屈と認めていただけあって理論にも穴がめちゃくちゃある。気がする。というかそこまでして名付け親になりたいのか? 私は……?
[なんだよ、それじゃカオルは何て命名したいのさ?]
もはや呆れ気味でスーは言葉を吐き出す。もはや最初と全然別の感情で相手されてるけど関係ない、というか今さら止まれない。急に恥ずかしくなってきても私は声を振り絞った。
「えっと、その……じゃ言うけど! “エレガイスト”‼︎」
[……思ったより、なんか……。そうか、ドイツ語を使ったか……]
うわぁ、なんていうか、反応が……うわぁ。
「…………ごめん、やっぱ今のなしで…………」
[何で?]
ん?
[いやいや、恐れ入ったよ。気に入った! それ採用させて貰うね]
[フム、決まっちゃいましたね。命名センスについては我々ではよく分かりませんが]
「ふみゃあ」
そんなこんなで命名云々の話は、私によるその後の必死の制止空しく決定する。
ちなみにいつの間にやらダウンロードはとっくに完了していて、後は【はい】をクリックするだけになっていた。




