47_[待ち時間]と[発生メカニズム]
「アプリの取得状況は?」
[あー、現時点で七〇%以上終わってるってさ。万事順調、問題ないよ]
[みゃあう]
私の呼びかけにリューナではなくスーから反応が返ってくる。やっぱりというかなんというか、このことに関してウチの電子存在たちは前のめりだった。そりゃ、元々は普通の子猫だったとかいう影助は知らん顔でみゃーみゃー鳴いてたけど。
彼は私が動かすマウスカーソルに猫パンチでちょっかいを掛けている。まぁ、手慰みに相手する分にはちょうどいいかもだけどさ。
[やはり元々のデータ量が膨大なぶん時間が掛かりますね。取得さえ終わってしまえば後は一瞬だと思いますが……さすがにメモリが圧迫されるほどこのPCは使われてないですし]
「何ならこないだスーと影助のためにって、なけなしのバイト代はたいて外付けHDD増設したばっかでしょ。こんな早くから満杯にされてたまるかっての」
ちなみに言っておくとリューナとスーも今のところやることは特に無い。現在ゲームアプリ「イーリアスODYSSEY」製品版の取得・格納の完了待ちだ。あまりにやることがないので私たち三人(?)は黒猫:影助で遊んで時間を潰している最中。
ボーッとマウスを滑らせて影助をあやしつつ、私は頭の中で状況を整理することにした。
……というかそもそも、である。
影助が子猫の幽霊というのは分かる、いや、幽霊とか未だに納得いってないけど形式上分かったってことにしといて。……で、何でその幽霊の子猫が電子的な存在としてPCの中に存在しているのか?
そしてもっと言うのなら、件のネトゲの中にその正体の鍵があるとして、それはつまりゲームと同じく電子存在も全て人間によって組み立てられたものってことになる。要するに電子存在が霊的な存在だとは考えにくいワケだ。なら結局リューナとスーの二人は一体“何”なのか? でもって何故そこに幽霊なんて非科学的なものが絡んでくるのか?
全くもって理解が追いつかない。
[随分と難しい顔だ。カオル、何か問題でもあった?]
ふとPC音声の向こう側のスーに声を掛けられた。どうもまたモニター備え付けのカメラでこちらを覗いているらしい。
「んー、勝手にこっち覗かれんの怖いなぁ」
[それは済まない、けど今の僕らが現実世界を見るにはそこのカメラを使うしかないんだ。正直言うと大目にみて欲しい。で、何でそんなに眉に力が入ってるのさ?]
「そ、そんなに変な……ってか機嫌悪そーな顔してた?」
[してたしてた]
スーからの真っ直ぐな指摘に、私は若干の恥ずかしさというかバツの悪さを感じる。
色々と見透かされているような、そんな感覚。
リューナと違って(なんて言うとなかなか角が立つかも知れないが)、彼の言動には普段から世間のことについても見知っているかのような余裕を感じていた。ただ視界に入れるだけでも私たちより多くのことを読み取っていそうというか、どこか超然としているというか。
……まぁこの辺りは、単に普段の口調が余裕ありげに聞こえるってだけなのかもだけど。
「……スーとかリューナとかもだけどさ、そもそも電子存在って何なのかなってなってただけ。挙げ句、影助みたいに子猫の幽霊? が同じような存在として出てきたワケじゃん? 意味分かんないなぁ、って」
[一応、僕なりの仮説みたいなのはあるけど。暇つぶしにでも聞いとくかい?]
[その辺り、当プログラムはあまり考えなくてもいい気がしますけどね。当プログラムたち人型電子存在のほうは“何も分からない”って話にしかなりませんし。残った獣型電子存在も本人……人? 影助自身があまり気にしてる様子無いですし。猫が自分の存在を気にするっていうのも変ですが]
リューナがやっと反応を返してきた。
まぁ同じPCにいる以上、仮にリューナが無視したくても出来ないからちょい迷惑、ってだけだろうけど。
[まず前提なんだけどさ、ここ東京が世界屈指のポルターガイスト多発地域っていうのは知ってる?]
スーは問いかけてくる。
「そりゃ住んでる人間として知ってるけどさ……でも私が知ってるポルターガイストの前提ってのは“放送の電波が電磁誘導で云々……”っていう間違ってる知識なワケでしょ? その状態でそんな前提の話されても正しいかどうか分からんっていうか」
[いやいや、そこは間違ってないよ。これはそういう話じゃない]
彼は軽く笑いながら否定した……のは良いけど、それが何だってんだという話。
ここまで話が通じているのを確認したように、スーはさらに続けた。
[テレビ、もっと言えばラジオ放送が始まって以来ずっと東京は“電磁的”ポルターガイストの世界的最前線だ。世界各地の先進国もみーんなそう。まぁだからこそ、人間はずっと勘違いを続けてるんだろうね。……でも、だ。近年のポルターガイスト事件の発生件数は日本、特に東京がダントツだ。何でだろうね?]
「うー、相変わらず話し方がクドいなぁ……!」
[クドい⁉︎]
「うん、ちょっとクドい」
思わず私がこぼしたところで、PCの音声から吹き出す声が聞こえてくる。どこか呑気な子猫の鳴き声も一緒だ。
[ちょっと、笑うなってリューナ、その笑い方は性格悪いぞ……‼︎ コホン、気を取り直して……ここで全然違う質問なんだけど。“人魂現象”って知ってる?]
……出し抜けに今度は何だ?
「人魂ぁ? あの火の玉がフワフワってやつ?」
[それ。その発生原理って色々言われててね。古くは死体から発生するリンの化合物が燃えるだとか蚊柱に光が反射したものとかさ。……その中の仮説にこんなものがある。人口の多い都市部には必ずある墓、正確には墓の石材である御影石、つまり花崗岩だね。これには石英が多く含まれていて、何らかの圧力が掛かると微弱な電流を発生させる性質を持つ。これが瞬間的にプラズマ発光を引き起こしてそれを人が誤認してる、だってさ。もしこの仮説が事実だとしたら……?]
「……つまり?」
私はまだ何が言いたいのか分からない。
[要するにだよ、墓石が人魂現象の原因だとしたら、さらに条件付きで電気を発生させる性質も何か関係してるとしたら。……僕ら電子存在っていう妙な生き物と、何か関係してそうに思わない?]
スーは一気に声を低くしながら、そしてちょっと得意そうに言った。




