46_[疑問点]と[彼らの渇望]
私がチュートリアルをたぶん終えたところで、また量さんからアナウンスが入る。
まぁタイミングから考えて、これはきっと……
『浦……っ、シシィさん。えっとその、区切りが良くなりましたら、一旦セーブして……あっ、PCの電源も落としてから、隣室に戻っていただけますか? フィードバックとか指導だとか、そういうのがありますので』
何となく予想はしてたけど、聞いているこっちも緊張で身震いしてきそうな“ガチガチ”っぷりだ。たぶんそもそも敬語を使い慣れていないんだろう、先ほどから発言自体にたどたどしさを感じる。
「あ、はい、わかりました」
短くそう答えて電源を落とす準備を始めたのはいいけど、ハッキリ言って不安でしかない。
そりゃそう、今までリスナー側だった小娘が(いくら練習とはいえ)ゲーム実況である。しかも前にチラッと言ったように、私の前歴は歌い手であって実況の実績は全くない。要するに、さっきまでのなんて見よう見まねであって、特に真似した大元の人たちをよく知るマネージャー陣からすれば……。
ただ、いま頭の中にある“暗雲”はそれだけではない。
何がって、さっきのゲーム内のNPCたちだ。マネさんたちの話ではあのゲームはオンラインで外部と繋がってはいないらしい。つまり誰かがNPCのフリをして別の場所からやり取りしていたワケではないということ。
けど、それならあのやり取りの流暢さと正確さ、何より情緒の豊かさは説明できない。それこそ流行りの生成AIでも使ったとかそういうのだろうか? そりゃあんまり詳しくないけど、セリフの全てにそんなのを適用していたら一瞬とはいえ発言前にいちいち入るラグとかで酷いことになりそうなもんだけど。
そんな疑問を抱きつつ、ふと尻ポケットからスマホを取り出す。
リューナは今のゲームをどう思っているだろうか。さっきやり取りに使ったメモパッドを開いてみた。
[エイデュイアが、というかこのゲーム自体が何かおかしいです]
……メモにはそう一言だけ書き残されている。
肝心のリューナはここが会社ということでダンマリモードらしい。
どうもコイツの目から見てもあのゲームは怪しさの塊だったみたいだった。人間から見ても違和感があったのに、電子存在から見てアウトならもうその時点でかなりの赤信号だろう。イヤまぁ、実際の正確なところなんて何もわかんないけどさ。
結局のところ疑問点は尽きず、しかもどれも解消できない。こんな頭がいっぱいで重い状態で、新入りとしてダメ出しを受けなければいけないというのは中々に地獄と言えた。
溜め息をつきつつ防音室を出る。……はぁ、気が重い。
[ようやく帰宅ですね、では起動させてください]
「そんな急かさんでも、てか何もなくてもそれくらいいつもやるでしょーよ。はぁ、今月から電気代エラいことになりそう」
帰宅後、私は追い立てられながらもさっそく自宅のPCを立ち上げる。アクセスするのはもちろんイーリアスODYSSEY - INFINITYの製品版サイトだ。……ちなみにあの後のダメ出しは惨憺たる有り様というヤツだったが今は置いとかせて欲しい、割と凹むから。
因みに同期たちとも会ったハズであるエイデュイアのセリフだけど、やっぱり全員それぞれが違う言葉をかけられていた。マネージャー陣がモニターしていた映像にバッチリ残されているんだから間違いない。みんなして『AIを巧みに使ってるんだろう』とか言って誰も変だとは思ってなかったけど。
私と、そしてリューナの二人は帰りの電車でのメモパッド筆談で、このゲームタイトルについて独自に調査を行うことに決めていた。理由は単純に“気になったから”というのも大きいが、そんな素朴な疑問以上に調べるべき理由が、特にリューナ側には存在していた。
電子存在、つまり我がPCに我が物顔で住み着いているリューナたち二人と一匹が“自身のルーツ”についての調べるためである。
[“これより我々はイーリアスODYSSEY - INFINITYに関する捜査を開始します”……一回言ってみたかったんですよ、これ]
「……あのさぁ、どっからそんな知識仕入れてんの?」
リューナたちは自らの“発生理由”については一切記憶を持っていなかった。ある意味でそこは人間と同じようなものかも知れない。誰だって自分の生まれた時の話なんて親から伝え聞いたくらいでしか知らないから。何よりの違いは[親]とされる存在そのものがいないことくらい。
また電子存在たちは現実世界での肉体を持っていないために、生き物が当然持っている三大欲求(いわば“生存欲”)に代わって知識欲が旺盛だったことも大きく関係している。この二つが合わさるとどうなるか。
[とにかくです、これで私たちがなぜカオルのPCに発生することになったのか分かるかも知れません]
「まさか事務所の運営企業と提携してるネトゲに原因があるかも知れない、なんてねぇ……こんなん誰も想像つかないでしょ」
つまり電子存在たちにとって、自分達について何も知らない・知れない現状は“無限に等しいノドの渇き”みたいな苦しみが続く状態だった。人間がそうならないのは親という存在と触れ合って自分の存在を確立しているからだ。そして、彼らにはそれが出来ない。
だからか、リューナはこのことに対して並々ならない関心があった。
[にゃあう]
[あぁ『おかえり』、二人とも。今日は影助も……っていきなりどうしたのさ。そんな血相変えてPC起動させてさ]
そんな様子がモニター越しにも伝わっていたんだろう。スーが心配そう(?)に呼びかけてくる。リューナはともかく私はそうでもないっての。
[スー、手伝って欲しいことが出来ました。電子存在のことが分かるかも知れません]
[……へぇ?]
こころなしか、スーの目に何かの眼光が宿った気がした。




