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43_[海の娘]と[メタ的な話]

 “空気が凍りついたような”などと表現した理由はシンプルで、目の前が青白くなったのもそうですが、実際に目の前の光景がピタッと止まったからです。つまり正確に“凍りついた”というべきなのは空気ではなく時間ということでしょうか。

 ……ついでに言っておくと、当プログラム自身も全く動けません。


 空間の「色味」も青白く、というより浅葱(あさぎ)色とかいう緑が若干混ざったような薄青(うすあお)色というか、そんな独特な……そう、ちょうど浅瀬やプールの水中写真のような色に視界が染められたのでした。

 辺りが海の底にでも沈んだかのような肌感覚に襲われます。



[あの船の残骸から岸まで泳ぐのを、いえ、奴隷としてあの船に乗せられるよりも以前から、海の底より貴方を見ていました。生まれた国の敗戦が原因で、幼き頃から捕虜・奴隷として売り渡され続けたという不遇(ふぐう)の生涯……これも所詮(しょせん)は気まぐれでしかありませんが、わたくしがお救いしましょう。その代わり、貴方にお頼みしたいことがあるのです]


 そんな中で、先ほどの声が当プログラム(というより主人公)に語りかけて来たのでした。落ち着いた女性のような口調……ではあるのですが、その割に甲高くて妙に幼い印象の声質。


[まずは名乗らねばなりませんね。わたくしは海洋の祖神(オケアノス)の血を引く幾千もの子らの一柱(ひとはしら)水面(みなも)水底(みなぞこ)の女神、名をエイデュイア。“水鏡のエイデュイア”とでもお呼びください]


『あー、つまり神様が助けてくれたってこと? その割にまだ姿も見えないけど……』


[こちらも質問があります。なぜ当プログ……「私」はいま動けないのでしょう?]


 カオルの疑問の声も聞こえましたが、カオルどころか相手の自己紹介もほぼ聞き流して当プログラムは“声”に尋ね返します。どうせ今はカオルの言葉に意見を返すことも出来ませんし。というかゲーム内の存在にはフツーに呼びかけられるワケですか……正直、奇妙な感覚です。

 内心まごついている当プログラムはともかくとして、返答はすぐに帰って来ました。


[先ほど名乗ったようにわたくしは神々の一員です。ゆえに、こうやって人の子の心中に直接声をかけるくらいは出来ます。……まぁ、あくまで水の女神(オケアニデス)の一員であって時の神ではないので、本当に時間を止めることはできませんが……]


[なるほど、頭で情報をやりとりしているだけだから外部では時間が流れていないという(コト)なのですか。ふむ、古代ギリシャ(このじだい)に精神だとかそういう概念はあったでしょうか……?]


[な、何を言っているのかはよく理解できないけれど……とにかく! わたくしに力を貸すの⁉︎ 貸さないの⁉︎]


 甲高い声……女神(自称)は焦ったような、怒ったような声を上げます。余程ヒートアップしているのでしょう、もはや先ほどまでの女神らしい風格というか威厳はどこにも残っておらず……。何というか、ますます奇妙な感覚を禁じ得ませんでした。


 先ほどから感じている奇妙さの理由は“会話の柔軟さ”にあります。

 これは当然ですが、そもそもゲームというのは事前に作り上げられたプログラムの一群です。となると、自由に変化するこちらの発言に対して柔軟なやり取りなんて出来るワケがありません。……しかし、この女神(自称)の言葉はこちらの質問の受け答えとして不自然な点はどこにもありませんでした。まるで当プログラムと同じく、AIとして自らの意思でも持っているかのような。

 まぁ、今そこには特に触れずに会話を続けます。追及してどうにかなるものでもないでしょうし。


[また随分と焦りが見えますね、この話はそれほど緊急のものなのですか?]


[い、いきなり何⁉︎ 自分で何とか出来るなら好きにすればいいじゃない‼︎]


[おや、交渉決裂でしょうか? こちらに譲歩できる条件もありませんでしたが]


「え、ち、ちょっと待って! 待ってったら‼︎」


 ここで当プログラムはワザと惚けてみることにしました。以前にもカオル相手にも似たようなことをしていた記憶がありますが、これは一種の“ジャブ”というヤツです。つまり、軽く相手にストレスを与えておきつつ、反論の起点とするための前フリをしておくというもの。緊迫した雰囲気だったハズの薄青(うすあお)色の世界にどこか悠長な会話だけが響いています。

 それと、相手の声はもはや口調もほぼ別人のようでした。どうも最初のほうは完全に演技だったということで間違いないようです。しかしそうなると、この声の甲高さも相まって印象が——


『これやっぱり余計に“お子様っぽい声”ってヤツに聞こえてくるよねぇ』


 ……ゲーム内に現実世界からの声は聞こえないとはいえ、思っても言わないでおいたことをカオル……。


[コホン! とにかく、とにかくです。今わたくし達がお互いに困った状況に(おちい)っているのは間違いない(はず)。そうでしょう? そこで提案です]


[なるほど、協力ということですか。ええ構いません、お互いにマイナスが無いなら交渉成立です]


[えっと……その、話が早くて助かるけど、じゃなくて助かりますが……こちらの話を(ろく)に聞かないで決めるのは流石に事を急ぎすぎなのでは……?]


 話のスピード感について来れないらしい女神(自称)は困惑していそうな上ずった声で返してきました。対する当プログラムは当然の返答をします。


[まぁメタ的な話ですが、そのあたりの話を聞いてもあまり意味がないと思ったので]


[は、はぁ……?]


 相手は理解出来ていないようでしたが別に問題ありません。

 どうせゲームの進行の都合上、ここでいくら議論しようと【この自称女神から神がかった力を受け取る】という展開なのは変わらないでしょうから。

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