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41_[海難事故]と[衝動的な逃亡劇]

 ちょっと腹の立つことに、祓戸シシィ(リューナ)の顔はゲームの中でもなかなか可愛かった。

 まぁそれも当然、あんまりイメージ違いにならないよう注意深く要望を出したのは私だけど、そもそもキャラデザしたのはプロのイラストレーターさんなんだし。

 ……そういえばだけど、たしか彼女も最近は配信者としての活動もしてたハズだから、デビューしたらコンタクト出来るか考えてみよっと。閑話休題(それはさておき)


「うーしっ、完成っと! 長いこと見守ってくれてたリスナーさんもお疲れさまー、ようやく本編やってくよ!」


 取り敢えずセリフでだけでもそういう(てい)にしておいて、私はゲームの本編へと進んだ。

 どうもいきなりゲームが始まるんじゃなくて、チュートリアルとして特定のパートを済ませなければいけないタイプのゲームらしい。ここまでストーリー性を重視してるPC向けネトゲって案外珍しい気がする……ってまぁ、そもそもネトゲ自体あんまりやったことないけど。


 画面が仰々しく真っ白になっていって、それから『イーリアスODYSSEY - INFINITY』と例のタイトルロゴが表示された後、今度は逆に暗転する。それから放射状に画面の縁がうっすら青くなっていき、放射状にグラデーションが伸びて……画角が急に上昇して、水飛沫と空。

 でもってバシャッ、と水面から何かが跳ね上がる音も。

 あぁそうか、これは一人称視点の映像だ。目の前に高い青空が広がって、それからゲームアバターが海の中から顔を上げたという状況がやっとプレイヤー(わたし)にも理解できる。

 ……そして画面はゆっくり引いていき……ゲームアバター(つまり現在のリューナ)が青々とした海面にポツンと浮かんでいるのが映し出された。





 まさか開幕からこのような状況とは。


 当プログラムは泳いだことなんて当然ありませんが、それでもこんな海原に一人で浮かんでいるという状況がどういうことかくらい理解出来ます。このゲームのシナリオとやらは一体どうなっているのでしょう?

 一応キャラクターに設定されている動作の通りの立ち泳ぎで辺りを見回してみると、自分の周囲にはプカプカと大量の木材やらロープが浮かんでいます。中にはマストらしき布も。なるほど、帆船(はんせん)の海難事故ということのようでした。さすがに他船員の死体というようなものは省略されているようですが。


『うーわ、ちょっとー、これいきなりどうなってんの? 開幕ど真ん中で海じゃん』


 カオルの困惑した(ような大げさな演技でしょうか?)も聞こえてきました。


【↑/W ←/A ↓/S →/D F/決定】


 周りの様子に気がついたところで、画面上に基本的な操作方法が表示されます。それからキーボードより操作指令。鏡の反射のように、当プログラムはそれに従って大量の木片の間を泳ぎ回っていきました。


(随分と基本的なところから操作説明するんですね……とはいえ)


 当プログラムの意識はマイクの向こうに向かいます。

 声ではなく、用があるのは物音。

 カオルが実況という体で話しかけ続けているマイクには軽快な打鍵音が聞こえてきました。PCでゲームをする様子を見ていなかったので専用のゲームパッドでも使うのかと思っていましたが、さすがにキーボード操作自体はある程度慣れているようです。

 まぁ、配信者ですから当然といえば当然。いい加減カオルの心配はよしたほうが良いでしょうか。



 そんなことを考えつつ指示通りに動いていると、


『あ、他にも人いた! 海でいきなり一人きり、とか何かと思ったよー……』


 近くに主人公と同じように生き残ったらしい壮年の男が大きめの木材にしがみついているのを見つけました。彼は主人公を見るなり横柄に怒鳴りつけます。


[お前はウチの奴隷じゃないか! 助かった、全員溺れちまったのかと思ったぞ。ボサっとしてないで、わかったら主人を早く助けろ!]


 ……フム、態度が気に入りません。

 確かにこのゲームの時代設定的にも奴隷制はメジャーだったハズです。となればコイツの言うように大量の奴隷を従えていた者もいたでしょう。でもだからって、これが他人に物を頼む態度でしょうか? イヤ、それが奴隷制と言われればまぁそうなんですが……。


『あー、なるほど……プレイヤーは奴隷って立場なのか。で、主人がコイツで……えー、待ってよもー、こんなん従いたくないんだけど‼︎』


 カオルもゲーム内の事態を理解して、そして同じように拒否反応を示したのが聞こえてきます。ここで大人しく従うような性格の人とタッグは組めていません、予想通りのリアクションでした。

 と。


【主人を見捨てて逃亡しますか?】


『お⁉︎ ……へぇ、なるほど♪』


 そんな確認メッセージが出てきて、カオルの語尾が心なしか上がります。

 同時に、そしてついでのように当プログラムも突然駆け出したい衝動に駆られました。自分で何か考えるような“意思”とは明らかに違う、もっと外部から押し付けられたような“衝動”。

 もしや、この時の主人公の感情がそのまま当プログラムの中で再現されているのかも知れません。


 でもまぁ、その前から自ずと従いたくないと思っていたのはそうですし、そもそもメッセージに【はい / いいえ】のような選択肢が与えられていないのです。この時点で制作側がプレイヤーに選ばせるつもりもないのは明白というヤツで。

 なら簡単。


『よし、逃ーげよっと』


 カオルは上機嫌で決定キーを押し、当プログラムもゲームからの指示通りに……いえ、それ以上に自分から嬉々として作り物の海に飛び込んだのでした。

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