40_[カットイン]と[プリセット最後尾]
さて、現在カオルがあれこれプレイを始めたこのゲームはオンラインゲームのオフライン版という話でした。
……ということは、です。当プログラムが“干渉”してもシステム的な影響というものは、それこそ同期生たちくらいにしか(というか干渉する領域を上手く調整できさえすればもはや「誰にも」)出ないということであって。
「んじゃ手早くキャラクリからやっちゃおう! ってもなー、私こういうのメチャクチャ凝っちゃうからなー……ってんでさ、凝りすぎて無言でカチカチやりだしたら皆ゴメ——
[フム、キャラクターのアバターデザインでしたら当プログラムが『祓戸シシィ』アバターに近いものを瞬時に作り出すことも可能ですがどうしますか?]
「いっ、ぇ、うぇ……ガッ、ゲホ⁉︎」
つまり、当然ヘッドホンに直接喋ることも出来ます。
カオルはというと、配信(の体)で張り切って声を張っていたところでヘッドホンから当プログラムの声が突然響いてきたワケで、喘息の症状みたいに咳き込んでいました。
さすがに半分パニックになっていたようで、たぶん慌てて唾でも飲み込んでむせたのでしょう。
『浦っ……シシィさん⁉︎ えとその、どうしました⁉︎』
[あ、ご安心ください。当プログラムの“声”でしたらカオルにしか聞こえていません、通話相手の選択ですとか、それくらいの調節は出来ますから。当プログラムがいるのは正真正銘“この防音室のなかにだけ”ですよ]
あまりに私が慌てたもんだから、チェック役の量さんもパニックに近い声色で呼びかけてきた。
……でもって腹が立つことに、リューナのほうは慌てるサブマネージャーやこっち側をヨソに、(んで付け加えるならどこか呑気に)今の状況の解説を量さんの声に被せてくる。いや、今あんたが喋ったら指示・指摘も聞き取れないっつーの。
「ゲホゴホッ、かは……いやあの、だ、大丈夫です! 大丈夫ですから! ちょっとツバが喉の変なとこに入っただけで……」
取り敢えず私はリューナの声だけ無視して量さんに言葉を返した。彼女の声は通話でアメリのほうにも繋がっているハズだ。ならここで場を収めとかないと向こうにだって心配をかけるだろうし。
一方で弁明しながら私はスマホを開き、適当なメモパッドに慌ててカタコトみたいな文章を打ち込む。どうせリューナはこのスマホの“中”にいるのだ。なら……
[なに急に話しかけてきてんの 焦るわ]
[当プログラムの声には反応せずとも大丈夫ですよ。さすがに今の状況は分かってますから、気にせず聞き流しておいてくれれば良いので]
……やはりというか、どうもオフラインのメモパッドでも充分会話は出来るらしい。ヘッドホンからの声という形でリューナから返事が返ってくる。
『いえ、そういうことならだいじょ……まぁ、その、ご無理が出るようでしたらちゃんとお知らせ下さいね……?』
で、リューナとかそういう事情を一切知らない量さんは心配そうだ。
「い、いえほんと大丈夫ですから……! まぁその、変にツバ飲んじゃったのは改善しなきゃいけないポイントですよね、ハハ……」
[ドッキリだか何だか知らないけど変に脅かすなっての バレたら大変なんだから!]
おかげで私はこうして量さんとリューナに、それぞれ並行して全然違う感情を向けなきゃいけなくなるワケで。何だか、普段使っていない頭の部分を酷使してるような気分になった。脳の変な位置に血が通ってるみたいな、頭がそういう感じのムズ痒さに襲われる。
「つ、続きからやります!」
でもまぁ中断するワケにはいかない。
気を取り直し、私はそう宣言しておいて……もうここからは元のテンション。
「——こほん……ゴメンゴメン、喉は大丈夫だから気にせずやってくね。んでキャラクリなんだけどさぁ。私こういう要素めっちゃ凝っちゃうから、本当はキャラクリ回だけ枠を分けようか迷ってたんだけど、やっぱキャラ作り上げた勢いでゲームやりたいから分けずにやっちゃって良い? アーカイブ勢でそういうの気になる人は三分の一〜半分くらい吹っ飛ばして見てね! で、配信勢は諦めて付き合ってねー」
そうやって軽い咳払いを挟んでから、今日やることの説明へと話題を移した。
ド新人が本当に無言でこういうのをやりだしたら危険だろうけど別に今は構うもんか。そもそも別に本番じゃないし、てかむしろ、こういうとき場を繋ぐような喋りには自信が——
『シシィさん、もう一回ストップです。今はプレイ実況のスキルを見たいのでプレイのほうを優先して下さい。ついでに紗夜さんも含めて言っておくんですけど、キャラクリに関してはゲームで用意されてる初期設定例とか、そういうのを使って下さいね』
「え、あ、すみません」
……運営からの指示なら仕方ないか。
私は諦めて、事前に作成されたサンプルの顔グラフィックを眺めていく。今どきのゲームらしく人種も年齢もバラバラに一〜二〇まで、いかにもアニメの主人公顔からクール系、幼いのや老け顔に悪役顔まで様々な顔グラフィックが設定できるようだった。細かい調整もできるようだけど、そんな時間が用意されてないのはさっきのツッコミの通り。
ならこの二〇パターンから選ぶしかない。が。
(……これ、似てるな……)
初期設定例の最後尾、つまり二〇番目の顔。
事実を先に言ってしまうと、あまりにも『祓戸シシィ』のアバターの、あのお転婆っぽい金髪少女の顔に似ている。ちょっと吊り目なところまでそっくり。偶然にしても似過ぎだ、もはやこんな偶然なんて奇跡じみてるとかそういうレベルじゃ……
ちらっ
さらに簡潔に、目の前で起こった事実を先に言ってしまうと、向き以外は全く動かせないはずである設定中の顔グラフィックが一瞬だけこちらに“目配せしてきた”。こんな心霊映像じみたことが出来る存在なんて一人しか思い当たらない。
[あんたアバターの顔使って何でそこにいんのさ]
スマホのメモパッドに出来る限り高速でメッセージを打ち込んだ。
[アバターの顔というか、当プログラムにとっては正真正銘自身の顔です。お忘れですか? そしてカオルがプレイするゲームデータというなら当プログラムだって無関係ではないハズ。だってこの電脳世界で活動するなら、当プログラムもその内容を把握する必要があるのですから。コントローラーで動かしてみて下さい、当プログラムだってデータの端くれ、指示通りの動きをトレースして見せますよ]
[何だよその理屈!]
淡々と解説してくるリューナの声に、私はなるべく音は立てないように(でも苛立ちは伝えるべくなるべく早く)打ち込んで抗議する。けど、いくら“!”と打ち込んで言葉の勢いを伝えたところで、主導権が電子存在のものなのは間違いない。
だって人間が電子空間で彼らに勝てる日なんてそうそう来るワケがないのだから。
「…………」
観念して、私は二〇番目のデータを選択してからENTERキーを押し込んだ。




