39_[オフライン環境]と[『実践編』開始]
「……そのパンフ、MMOのネトゲのヤツですか? 見たことある」
四期生で一番余裕がありそうな態度のアメリさんが尋ねました。どちらかというと、混乱していた我々全体が事態を飲み込みやすくするために質問を投げてくれたのかも知れません。
一方のケーコさんも、まるで質問されるのは想定内とでもいうような反応を返します。
「そ、てか隣の部屋のPC四台にこれもうインストールしてあんのよ。……量ちゃん、これみんなに配って。——で、今から隣の部屋で“これ”を四人協力プレイしよう、ってね。実況プレイ中の様子なんかも動画で撮っていつでも見直せるようにするから、後々からも“こういう発言良くないよね”ってところあればチェックしてくよ」
「ネトゲで配信練習……? あの、確認なんですけど、ワタシたちって社内でも今のところまだ存在隠されてるんですよね? なのにオンラインみたいな環境で活動して大丈夫なんですか?」
ここで疑問を口にしたのはサーナさん。ですが間髪入れずケーコさんは言葉を続けました。
「あー、そこは安心して、中身のデータは同じなだけで環境は完全にオフラインだもん。よくある売り方でね、開発企業がオンライン版に追加要素やら何やらを入れて家庭用機向けにこれから出す予定の家庭用版用意してくれたのね。しかもオフライン専用の。ま、これ正しくは先行試作版? って言った方が正しいっぽいけど」
ですがいくらスラスラと説明されたところで、サーナさんはまだ釈然としない様子でボソリと呟きます。
「逆に、なんでそんなのがあるんでしょう……?」
一方問われたケーコさんはというと『これはあんまり言いふらさないで欲しいんだけど』と念押しした上で、
「このタイトルは先輩たちが前々から案件で宣伝してたヤツでね、長期間継続して宣伝キャンペーンさせてもらってるんだ。んで一応、さっき言ったみたいに家庭用版も出るくらいには今でもまぁまぁ流行ってる大規模なネトゲなんだけどさー、宣伝してるってんでキャンペーンやってる間は制作スタジオから色々提供してもらえてるってワケ。その一環としてこういう形でも使わせてもらってんの」
……という具合に、そして特に焦った様子もなく淡々と説明したのでした。
フム、業界的な細かい契約とか取引とか、そういう複雑なものが絡んでいるのは間違いありません。要は部外者の我々がそんなもの知りようもなく。
まして世間知らずなAIでしかない当プログラムにとっては完全に未知の領域の話です……が、まぁ取り敢えず、問題がないと言うのなら大丈夫なのでしょう。たぶん。
『イーリアスODYSSEY - INFINITY』(やたらと派手な飾り文字によるロゴマーク)
偉大なる神々と数々の怪物が支配する古代ギリシャをベースとした舞台で、神話の英雄となって大地を、大海を、大空を駆け巡れ!
極限まで引き出された高精細美麗グラフィックと、オープンワールドとしてシームレスに繋がり広がっていく幻想的で広大な地中海世界——。モバイルゲーム・MMORPGの垣根すら飛び越えた無限のキャラクリエイトとありとあらゆる選択肢を選び取っていく独自のシナリオシステム『C.H.A.R.I.S.(*1)』により世界は無限に拡張され続ける!
またゲームモードもシングル・マルチという単純な枠組みだけじゃない! 複雑で深淵なストーリーが展開されるキャンペーンモード・マルチプレイ用モードでは各陣営に分かれて軍人として神話世界の統一を目指すインフィニティウォーフェアの他、学術師として世界の秘密を解き明かしたり、為政者として独自の都市国家を運営したり、鍛冶師としてクラフトに明け暮れたり、剣闘士として一対一での強さの頂点を目指したりと遊び方も無限大!
今、“無限”に挑む旅が始まる——。
(※当プログラムの独断でティザーサイトより抜粋)
十五分後、先ほどの小会議室の隣の、やはりやや手狭な会議室にて。
部屋の中には隣室のような会議を行えるようなスペースはなく、代わりに三メートル四方くらいの防音室が四つ、所狭しと並べられているのでした。
カオルたち四期生はそれぞれこの中にいます。そして彼女たちは内部に運営が用意した四台のPCの前で、各自が指示された通りに件のゲームを起動中だったのでした。各防音室内部には一様に、PCの静かな駆動音がホワイトノイズみたいになって響き渡っています。なお各防音室からも他からも音は漏れようがないので、自然、四期生はそれぞれほぼ無音な孤独に晒されているワケで。
一方、PC画面上に開かれた通話回線からはケーコさんの声で指示が飛びました。
『この通話はちゃんと聞こえてんね? じゃ早速、みんな「イーリアス」起動して。この通話だってちゃんと記録してるし、取り敢えず思うように実況やってみてよ。先輩たちなりヨソの事務所なり、とにかくゲーム実況見たことないってワケじゃないでしょ? チェックすんのは分担で、歌楼羅ちゃんとミヤビちゃんの二人はアタシが、シシィちゃんと紗夜ちゃんは量ちゃんがそれぞれちゃんと聴いてっからさ』
この指示を受けるのと同時に、カオルが小声で「……よしっ」と気合を入れるのが聞こえてきました。確かにVライバーとして実績のないカオルからしてみれば、自分の実況に初めて直接フィードバックが返ってくる経験です。それは気を引き締めたくもなろうというもの。
とはいえ誰にだって初めて挑戦する経験はあるものです。怖気付いてはいられないでしょう。
「えっと、それじゃ始めますね」
そう言ってカオルはゲームを起動させたのでした。




