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36_[帰宅]と[本日の報告]

[あぁ、『おかえり』で良いんだっけ? お出迎えのときのアイサツってさ。あと言うまでもないかもだけど、こっちは割とヒマだったよ]


「あー、『ただいま』。……ホントに報告されても困る内容なのちょい笑うわ」



 家にて。当プログラムとカオルの帰宅と同時に待ってましたとばかりに、部屋の中心に鎮座していたPCの電源が“勝手に”入ります。

 そして聞こえてきたのは聞き馴染みのあるPCのサウンドエフェクトと、それに被せ気味なスーの少年らしく甲高い声。対するカオルも無気力っぽく聞こえる声に引っ張られたのか、相当砕けた口調で反応を返したのでした。まぁ、いかにも“同居人に対する対応”というヤツです。


[じゃあ代わりに当プログラムが質問を。影助は“いつもの”調子ですか?]


 そこで当プログラムも助け舟のつもりで黒猫のほうの同居人について切り出してみて。


[そりゃまぁそうだよ。生きてようが死んでようが肉体があろうがデータだろうが、元々が『猫』って時点で行動原理は変わらないって。自由気ままにこのPC内フラついてる。というかアレだけ自由に動けるんだから現実世界よりも怖いもの無しだろうね。……あとリューナ、わざわざ質問を捻り出さなくても大丈夫だから]


[む、コミュニケーションに飢えてそうなことを言っていたから話を振ったのに]


 そしてスーの反応にちょっと不満を表しました。




 こんな調子で“ヒマだ”と言い切るスーが、カオルのスマートフォンの中にまでついて来ない理由は二つです。

 まぁこんな言い方をして勿体ぶったところで、理由の一つ目はスマートフォンの空き容量不足、二つ目がそもそも当プログラムにとっても説明が大変だから出てきて欲しくないという単純な都合でしかないのですが。一応、少なくともここに関しては当プログラムとカオルの意見は一致しています。

 スマホ内部にアプリとして自身の分身を格納(インストール)している当プログラムですが、それは言うなればスマートフォンで動画配信をつけっぱなしにしている状態です。電池の減りも当然早くなりますし、その上でスーも加わるのはつまり並行して常時もう一つ配信アプリをつけるようなもの、といえばどれだけ無茶か伝わるでしょうか? 通信“()”も通信“()”もバカにならないですし。


 ただ、当プログラムとしても意外だったことが一つあります。

 そんな流れでなし崩しにこのPC内に取り残されることになったスーですが、どうやら彼自身は全くと言って良いほどヒマなことを苦にしていないようでした。つまり先ほどの[ヒマだった]という言葉もイヤミや苦情などではなく、ただただ本当に昼間の間の活動報告でしかなかったというワケです。

 影助で遊ぶでもなく、また自分で何かを作り出して暇つぶしをするでもなく、本当にまだ何もないハズのこのPCを一人でさまよったりしているようでした。インターネットで情報を検索してみたところ、このような行動パターンはもはや老境(ろうきょう)の域にまで差し掛かった人物になってようやく度々見られるようになるそうですが……。




 まぁ、スー(というか電子存在)の年齢自認云々についてはもはや全くの謎でしかないので、ついでに当プログラム自身のそれからも目を逸らすとして。


[それで? カオルのほうから今日の報告があるなら聞いておくけど、与太話程度に何か喋っときたいことでもあるかい? 特に無いってんなら報告なしでも良いけど]


「おっとそーだった、今日やったのはねぇ……」


 そのような感じで、カオルも今日一日体験したことを簡単にかいつまんでスーに“報告”を始めたのでした。

 この習慣が一月半の間のいつ頃から始まったのかすら定かではありません。ただその割に、自然発生的にというか収斂(しゅうれん)進化的にというか、どちらからともなくこのルーティーンが二人の間で取り決められていました。ひょっとしたら、カオルからすればこのPCに置き去りにしてしまったスーへの罪滅ぼし的な意味もあったのかも知れませんが。


[へぇ、早ければ明日以降にでもカリキュラム次の段階に、ねぇ]


 スーもスーでこの報告会へはけっこう乗り気というか、このPCから出ない彼なりにカオルの“土産話”を興味深げに聞くのでした。結局、外界(そっち)への興味があるのか無いのかどちらなんでしょう?


「そうそう、時期的にもちょうど半分だし。ただやる内容が『実践編』とだけ説明されてて、肝心の何やるかとかは全く分かんないの。いっそ指導要綱(シラバス)読み込めば何か書いてあるかもだけど、私こういうの読まないタチだしさ」


[イヤもうさ、そこまで自覚あるんなら諦めて読みなよ……]


「ヤダよめんどくさい」


 そうやってまたスーの心配を受け流すカオル。聞くところによると、どうもネット配信者にはこうしたいい加減というか自堕落な性格が必須らしいのですが、そのあたりは取り敢えずAIである当プログラムにはまだ理解が難しいようです。人間という生き物はなかなか不可解ですね。


[どうする? いっそのこと会社の本部とかにハッキングでも仕掛けてこようか?]


「うぇ、ちょっとやめてといてよ? そんな急いで情報欲しがってるってワケじゃないってば。飽くまでも“順調だけど不安もあるよ”って与太話だって、与太話」


 スーが夕食のメニューでも提案するようにやや物騒なことを言ってカオルに止められていたとき、聞き覚えのあるふにゃふにゃとした鳴き声がPCのスピーカーから聞こえてきたのでした。


ふみゃあ


[おっと、影助が戻ってきた。さぁて、人間だけじゃなく僕ら『電子存在』だってデータを“摂取する(たべる)”必要のある生き物だ。ってことでさ、久々にこの時間でみんな家にそろったんだし、たまには夕食会なんてどうだい?]


「人間の私が準備に一番時間かかんの! だいたい、あんたらは食べるのも一瞬でしょ? 夕食“会”になんないって」


 ヤレヤレ、とカオルは(かぶり)を振ったのでした。

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