35_[指導要綱]と[第二段階]
四期生の指導カリキュラムについては、一月半前の講習一日目(つまり四月十一日)の時点で文書データとして受け取っていました。
カオルとめぐみさんはそれぞれ自分のスマートフォンでそれを呼び出します。
「やっぱ講習期間の前半もそろそろ終わりってなると色々やってきてるなぁ……」と改めて感慨深げに漏らすカオル。
「どれも大事なことだけど、とはいえ逆に“これだけやってまだ半分なのか”とか思っちゃうけどね。それだけ準備しなきゃいけないのはずっと前から知ってたつもりだったのに……」とまだ不安は隠せない様子のめぐみさん。
正直、これからは今までよりもずっと大変になることは予想できたので、このリアクションもやむなしというヤツなのは当プログラムにもよく分かりました。
指導要綱曰く、三ヶ月の間の指導内容は大きく二つの段階に分けられています。
一つ目は配信ソフトの使い方おさらいからトラブル発生時の対処法・SNS運営法・身バレ対策法を学んだり、またさらに配信上キャラクターのセールスポイント整理・他者との差別化・視聴ターゲット層の設定や彼らへの訴求ポイント考察……というようなことを組み立てていく『事前準備フェーズ』。
そしてこれから取り組んでいくことになる二つ目が、これらを踏まえて実際に配信の予行演習を実践していくことにより深く身につけていく『実践編フェーズ』。
また本当のことをいうとその他にも、企画書の書き方から企画の練り方そのものに至るまでを学んだりする必要だってあります。こういった、会社内での立ち振る舞い方を教えるチュートリアルもまた企業所属Vライバーとしては重要だそうで。
集団生活からは逃れられない、ある意味で一番人間らしい講習内容だなとか当プログラムは思いましたがそれはさて置き。
「ほんと『実践編』って結局何やるんだろうね……?」
やっぱり不安そうなめぐみさんが疑問を口にしました。とはいえ質問を受けたカオルもその部分は分からないようで。
「字面そのまんまだけど、“予行演習”って書いてある以上はそういうことをやるんだろうね、ってのが分かるくらい? なんか実際の配信みたいに、配信ソフトで使わせながらライン越えのコメント捌かせたりとかやらされそう……」
という具合に、四期生最年少の少女はそんな発言で歳上の同期を怖がらせたりしていたのでした。
何にせよ『実践編』と名乗っているのは事実である以上、今までのような座学で知識だけ勉強するのとはワケが違うというのもありありと分かります。それこそAIである当プログラムにだって。
「にしても、社内研修ってどんなもんだろうって思ってはいたけどさー。フタ開けてみたらモロに高校と変わりなくてちょっと拍子抜けしたっていうかさ? そりゃ、会社によってそのへんは変わってくるんだろうけど」
「ね。少なくともヨソでは配信者ビジネスって“自分で勝手に実力つけて下さいねー”って言ってる印象だったのに……JSB(当プログラムが補足しておくと、Jackie-S in the Boxの略称だそうです)はそのあたり手厚くってビックリしちゃった。まだ収入も貯金のないカオルちゃんに多くはなくてもお給料払ってくれるのとか、他ではあんまり聞かないくらいだよね」
これについては受け取った当初、カオル自身もかなり驚いていました。家でもかなりこの話題の独り言をブツブツ呟いているくらいだったので。一応高校を卒業した“社会人”としてここまでして貰えるのは相当意外だったようでどうしても慣れないとのことでした。
それに、三ヶ月だけとはいえ学校に通っていた頃とほぼ同じ拘束時間の『授業』を受けて、その上で給金を受け取れるというのも参照した限りではあまり例がありませんでしたし。それこそ自衛隊の防衛大学校の制度だとかでやっと聞くくらい。しかも利益を追求するIT企業でこれがまかり通るとは。
「何にしても助かってるのはそうだから使わせて貰うけどね。でも自分自身、そんな価値がこんな小娘にあるのかなぁってやっぱり……」
[それに関しては、相手がそうする価値を見出した以上、カオルがそのように口を挟むのも違うように思いますね。そのまま相手の審美眼を否定することになりますから]
こうは言っていても未だに自信を持てないらしいカオルに、当プログラムももう何度目かになるセリフを今この場で思いついたみたいに言うのでした。言われた当人はやっぱり釈然としていない顔でしたが。
「イヤまぁ、そりゃ分かってるけどさぁ……よく言うじゃん? “理屈では分かってるけど心じゃ納得できない”っていうか……」
[それは納得どうこうよりも単に自信がないというだけでは?]
「う、ぅうぅるっさい‼︎」
そんな感じで、当プログラムはカオルに茶々を入れることでお茶を濁していました。
と、ここでめぐみさんがスマートフォンの通知に気づきます。
「ん、四期生チャットにメッセージ来てるよ。サーナちゃんから。居残り作業とかの関係でこれからここに来れるような時間無くなっちゃったみたい。それで、“来れるとしたら夜になっちゃうし、そうでなくても明日には講義の続きもあるから今日はもう集まらないどこう”って」
「あー、ならここはフツーに解散ってしといたほうが良いっぽいね。帰って英気を養っとく、ってことで」
そんな感じの言葉で、当プログラム含む三名はカフェ・ガリアーノを後にしたのでした。駅も近いのでほとんどその場での解散に近いといえます。
これからカオルの部屋まで帰ってから、また別の一人(と一匹)の相手をしなければなりませんし、そうでなくとも学校らしく『宿題』だって出されていますから時間はカツカツというワケです。
まぁ、この辺りも改めて解説が必要ですしね。




