32_[爆発的怒号]と[感情的反省]
[信用を失うというのはこうも一瞬なのですね]
「ホンっトこいつ…………何よりッ、お前が言ってんじゃねェよ!」
さも他人事のように言い出したリューナに対して私は叫びそうに……というかほぼ叫んだ。一応小声ではあった(と思う)けど、それ以上に怒りで頭がいっぱいだったし。
「ちょッッッ……⁉︎ ……か、カオルちゃ……?」
「待って待って! 一応抑えて……‼︎」
さすがに焦ったのか、反射的にめぐみちゃんもアメリも声を張れないなりに語気を強めて私を諌めようとする。……が、ここまで積み重なった不満が一気に爆ぜてしまった私は止まらない。というより止まれない。
「そもそもこんなことになってるの誰のせいだよ⁉︎ そりゃさ! 最初の方はずっとアンタのこと庇ってたよ! 右も左も分からないトコにいきなり放り出されてこうなったんだと思ったし、てかアンタ自身もそんな感じのこと言ってたからさ⁉︎ ……なのに何だよ、同情してたらいきなりみんなの前で隠れるでもなく喋り出してトラブル起こして、言うに事欠いて『信用失うのは』だぁ⁉︎ 自分から信用裏切りまくっといて何フザケたこと言ってんだよ‼︎ こうやって矢面に立たされる身にもなってよ! さっきまでのアンタの行動のせいで私は“信頼”を失った、もう“信用”だってして貰えないかも知れない‼︎ こんなことされた私の、何が今さらアンタに分かってたってんだよ‼︎‼︎‼︎」
気がつくと自分でも驚くくらい、目から流れて落ちだすほどの涙をボタボタ垂らしながら私は絶叫していた。
たぶん自分でも意識すらしてなかった不満点というのがあったんだろう。それもゴロゴロと、足の踏み場もないくらいに。きっかけはコイツへの優しさだったかも知れないが、その結果がさっきめぐみちゃんから受けたヨソヨソしい態度である。そしてどうなろうとコイツにその不利益は降り掛からない。
それが何より許せなかった。
「……ごめん、ワタシたちも周りが見えてなかった」
謝罪は思わぬ所から返ってきた。サーナだ。
「……え、イヤ、なんで……」
「そりゃワタシたちの立場も危なくなるのはそうだとしてもさ? こんな悪戯めいたことしても誰にも何にも利益にならないじゃん。同業他社からJackie-S in the Boxへの嫌がらせ、みたいな話が成り立つんならまた別だけど。でもそうだとしたら、カオルちゃんを雇ってスパイとして送り込まなきゃなんない。……それなりの額のお金をかけてまでそんなみみっちいことする社会人っていないでしょ? いたとしても少数、まして企業規模で実行されると思う? いないよ、そんな物好き」
だしぬけに飛び出た私の問いかけに対しても、やっぱり冷静にサーナは説明していく。
「それより何より、ワタシはカオルちゃんの今の怒りっぷりを見て思った。たぶん今の状況で一番怒ってて、実害も出てるのはカオルちゃん自身だと思うもん。でないと今みたいな叫び方なんて出来ない、あんな泣き方だって出来っこない。……まぁそれこそ、カオルちゃんがどこかの優秀な演技派スパイか何かだったりしたら前提の部分からワタシが騙されてることになるけどさ?」
ここまで言ってから、冗談を飛ばすみたいにサーナは軽く笑った。それから彼女は語り聞かせるように他の同期たちにも目配せする。
「まぁ要するに! 疑うことに必死になりすぎてカオルちゃんが一番困ってるのに気づいてあげられなかったってのが今の謝罪の理由。確かに信じづらいことではあるんだけど、これが間違いなく事実なんだとしたら、一番困ってるのは目の前にいるずっと歳下の女の子ってことになる。ならワタシは信じてあげたいかなって」
というようにここまでサーナから説明されて、なぜか私は妙に顔が熱くなっていた。涙はもう出ていないのは分かるが、それよりも何で私は顔が赤くなってる? というかこの人は何でこんなやたら気障なセリフが出てくるんだ?
「カオルちゃ、ん……えぐっ、うぅっ、ごめん……ごめんなさぁぁ……」
次はめぐみちゃんが人目も憚らず(そもそもここは間仕切りで囲まれていて、というかそうでなくても聞きつけられるのはマスターだけだけど)大粒の涙をぼろぼろと流し始める。
どうも今のサーナの発言を受けて、自身の行動に感じるものがあったらしい。というかタイミング的にも、さっき目を合わせてくれなかったこと関係だと思って良さそうだ。
「ま、待って! そんな、みんなに謝ってもらいたくて今の言ったワケじゃなくってぇ……」
慌てて私は口を開く。しどろもどろになり気味ではあるが、何にせよこれは実際間違いではない。私が謝ってもらいたかったのは飽くまでリューナのほうであってこんな……。
「ごめんなさい、あたしも配慮が足りてなかった」
そしてアメリにまでも謝られた。言うまでもなく、先ほどまでは三人の同期で一番怒りをにじませていたのが彼女だったワケだが、それも今では見る影もない。もしかしたら私が叫んだことで、彼女から見たときの“悪役”がリューナに移っただけなのかも知れないが。
「そうだよね、そこのリューナってのがあんたと別の存在なら間違いなく困ってるのはあんた自身なんだもんね……疑ってごめん。こういう言い方するのも変な気するけど、怒るのに夢中になってた。本当はあたしが一番歳取ってるっぽいのに、情けない……」
「え、ちょっ」
というかアメリまでこの調子になってるとは。というかこの人がやっぱり一番年齢が上……じゃない、今はそういう話じゃない。みんなのさっきまでの怒りはどこへやら、加えて私は周りが一気に湿っぽくなってしまったことでほとんど別ベクトルの心境がないまぜになってしまっていた。要するに、焦りと困惑と恥ずかしさ。
そして。
[……当プログラムは無自覚に人を頼りすぎたようです。申し訳ないことをしてしまいました。いわゆる”調子に乗る”という態度が過ぎてしまった事実は消えません]
やっとお前が謝るか。正直ちょっと意外にも思いつつ私は内心溜め息をつく。
[つきましては、当プログラムはここにいるべきではないと考え、当プログラム自身を削除していただくのが一番確実だと判断しました]
イヤまぁ、ようやく謝ってもらったのは良いけど、だからって…………え?




