31_[スラスラ]と[ツラツラ]
やはり同期たちの中で一番納得できていないのはアメリで間違いないみたいだった。てか他のみんなも納得するどころか、さっきまで確かに同期扱いしてたハズの私を敵視しかねない状況なワケだけど。
「取り敢えずいい? ワタシは聞きたいことが一つある」
今度はサーナが話を切り出す。
「リューナさんに聞きたい。……何で今、わざわざこのタイミングで切り出してきたの? 明らかにこうやってトラブルになることを自分から話し出したのはリューナさん自身ってことになると思う。だってそうでしょ、そもそも黙ったままいとけばこんなことにはなってなかった。あそこで喋り出した時点でどうやってもワタシらは警戒するしかないしさ。意図を教えてほしい」
たぶん意識的に、そしてつとめて理論的に、サーナは頭の中の疑問を説明した。
今まで快活で活発な人だとは思ってたけど間違いない、彼女は相当頭のいい人だ。自分の感じた疑問をこうして言語化できる人はそれだけ考える力があって、なおかつ常に頭を使っている人だと私は思う。人間、普段からやっていないことは簡単にできないものだ。というか私だったら、自分の感じた疑問をこんなにも理路整然と、しかも言葉にも詰まらないでスラスラ説明できないし。
対するスマホの中のリューナもAIらしく、ある程度以上にはツラツラと答える。
[それは貴方がたがカオルと同じ立場にあるためです。つまり四期生……“配信者プロダクションに所属するタレント”という立場ですね、ここに属している以上はカオルと同等の条件であるため、この事実を共有しても問題ないと判断しました。後々どうなるのかが分からない以上は情報の共有先は一人でも多いほうが良い。それに——
「それに? まだ何かあるっての? そもそもあたしが一番説明してほしい部分を説明されてない!」
業を煮やしたらしいアメリが噛み付いてきた。そりゃ不機嫌になるのももっともではあるが……。
「ごめん、申し訳ないけど今はワタシの質問中なんだ。全部答え終わるまでは口を挟まないで貰っていいかな?」
しかし、詰問中のサーナ自身からリューナへの助け舟は出される。どうやら彼女は徹底的に自分の感情を挟まないようにしているらしい。議論とか討論にも相当強い人種なようだ。まぁ当然、
「なんで? そっちの肩持つわけ?」
アメリのほうは不服のようだったが。
「別に肩を持つワケじゃないよ? でもここで感情的になったら話も聞けなくなる。裁判中に裁判官が感情的になったりしないみたいに、ワタシはリューナさんにどういう弁明があって何て説明するのかを聞いてるの。……怒るのはそれ聞いた後でも良い」
「う……わ、分かったけど……」
アメリはサーナがまた理詰めで冷静に説明するのを見て大人しく引き下がった。本当に理解したというよりは、説明しながら微かにだがだんだん目を細めていくサーナに気圧されたというほうが正しいが。
リューナは途切れた部分から再び言葉を続ける。
[……それに、現状では当プログラムの存在に不満があっても“黙認する以外に方法がない”とも判断しました。当プログラムの存在を告発すれば不利益を被るのは貴方たち、さらに言えば運営元であるJackie-S in the Boxです。彼らは四期生のデビューが遅れるのを回避したがっている、ならばここで正体を明かしてもそちらには何も出来ないハズです。当プログラムを黙認すると決定した刃禰谷ケーコさんと同じく]
あ、こいつ……! また悪びれもせずにこういうことを……。
「ちょ、そんな言い方……‼︎」
今まで静かに話を聞いていためぐみちゃんですらこの反応だ。
「あんたやっぱり……いい加減に——
「二人とも一旦ストップ!」
ここで明らかに怒りに火がついた二人を制したのもサーナだった。当然テーブルの視線はサーナ一点に集まる。
というか喫茶店内の視線全てが、と言ったほうが正しいか。向こうのカウンターの奥でラジオをいじることで関与しないようにしてくれていたマスターまでもがたまらず顔を上げたのを、衝立のすりガラス越しの端のほうに私は見た。
「……ごめん、大声出しちゃった。でも、そりゃワタシもめっっっちゃ悔しいけど、そこのリューナが言ってることは間違ってないよ。何一つ。ワタシらの3Dにも対応してるアバターの製作期間のこともある。いくらヨソよりも“早く”仕上げられるらしいってのがあっても、今の状況で、今から全部作り直すのはそれこそどうにもなんない……従うしかない」
言葉自体は穏やかだったが、外見上では苦虫でも噛み潰しているような形容し難い顔でサーナは言う。というかもはや、リューナって呼び名に“さん”も付けてないし。
ここで説明しておくと、今の状況は事務所から見ても最悪の部類に入るくらいである。さっきケーコさんから受けた“細々した連絡事項”の中の一つが大問題だった。
実はこの会社のアバターを製作する部門はかなり少人数で回されている。というか、中心的人物が実質一人いるだけ。何でも相当凄腕のプログラマー兼CGデザイナーとかで、アバターの制御プログラムや製作ツールを全て自力で組み上げてしまった人物だという。そしてそれの何が問題なのかというと、今までの驚異的なスピードでアバターを作り上げられる人物はこの世で一人だけ、そしてその人物が件の社会問題:ポルターガイストの被害により大怪我を負ってしまい仕事が出来なくなってしまったのだ。仕事の鬼というレベルでPCの前に張り付いていたこの人物に事故を回避する手立てはなかった。
さらに始末の悪いことにここで外部のクリエイターに頼ろうにも、今まで一人にずっと任せていた事務所にそちらのツテはなく、仮にあってもそちらに任せていては今までの何倍もの時間がかかってしまう。つまり今あるアバターで何とかしろ、というのが会社の方針だった。要はどうにもならなかった。
「みんなごめん、こいつホントに……」
「カオルちゃんが謝ることないよ、事情が本当なら事故みたいな話なんだから、ね?」
思わず謝った私にめぐみちゃんがフォローを入れる。が、その視線はまだ伏せられがちで、私の目を見て言ってくれた言葉でないことは明白だ。
窓の外の曇り空は相変わらず灰色で、よく見たら小雨まで降り始めている。外の湿気を店内に伝えないためにエアコンが忙しなく不快な音を立てていた。




