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30_[事情説明]と[曇天]

[当プログラムの居場所はカオルの所持しているスマートフォンに格納(インストール)されている状態です、本機のスピーカー機能を使って喋っておりますのでご確認下さい。それとも、もう少し落ち着いたタイミングで話しかけた方が良かったでしょうか?]


「コイっツぅ……いけしゃあしゃあと……!!」


 あまりにも見当違いな気遣いを見せたAIの非人間しぐさに私は恨み言を絞りだす。自分でも驚くほど低い声だった。よりにもよって周りの人間まで巻き込んで、お前は何いきなり喋り出してんだ、リューナぁ……!


「か、カオルちゃん? ……これ冗談か何かでいいの?」


「あんたちょっと分かってる⁉︎ このタイミングでこういうことやると信用下がるよ⁉︎ 場合によっちゃ守秘義務とかそういうのにも抵触しかねないって! 悪ふざけにしたって限度が————


「お客様、いかがなさいました⁉︎ 何か問題がありましたら遠慮なくお申し付けを!」


 サーナとアメリの二人から[声]について問い詰められかけたところで、またマスターから私に助け舟を出された。イヤまぁ、多分この老人にそんなつもりは特にないと思うけど。こんな“明らかに何かあった”って感じになったらそりゃ声も掛けるだろうし。


 で、慌て気味だったマスターの登場により、


「あ、その、えっと! すみません、そういう問題が起きたわけではないので……」


 アメリはすぐに剣幕を引っ込めてまたマスターに頭を下げた。


「……左様でございますか? 何かありましたらお呼び下さいね」


 マスターとしてもこう言われては引き下がる他ないのだろう、最低限の言葉だけ残してカウンターに戻っていった。ほどなく、ちょっと店の隅っこの高い棚に置かれていたラジオからノイズまじりのジャズ番組が聞こえ始める。

 一方のテーブル席には静寂が戻ってきていた。


「じ、じゃあカオルちゃん。どういうことか説明してもらえないかな?」


 気を取り直して切り出してきたのは隣に座っているめぐみちゃんだ。さっきこそ明らかに怯えた様子も見えてた彼女だが、図らずもマスターに出鼻をくじかれたアメリに代わって私を問い詰めるつもりになったらしい。ならこっちだって観念して説明するしかない。


「う……うん、分かった」


 おっかなびっくりではあるが求めに応じた、ところで。


[そろそろ当プログラムも喋り始めてよいタイミングでしょうか? 事情説明となると発端である当プログラムから情報の開示を行ったほうが適切かと判断できますが]


「アンタはいま黙ってて!」


 リューナがまた要らんことを言い出して、私はたまらず声を上げてしまった。本当に、今一度コイツには改めて遠慮とか(つつし)みというものを叩き込んだほうがいいのかも知れない、と思う。

 けどまぁ、今それは後だ。




 そして十五分くらい後のこと。


「——で、カオルさんにも協力してもらって活動方針とかを決めたのが三日前くらい。どう考えても信じろってほうが無茶なのは分かってるけど、事実なのは間違いないし今のところはリューナも全面協力してくれてるからある程度は信用も出来てる。“信頼”とはまた違うと思うけどね。ここまで良い?」


[“信頼”ではなく、まだ“信用”ですか。とはいえ今は良しとしましょう]


 淡々と、私はなるべく事実に基づいて今までの事情を話した。

 リューナ自身も(喋るたびに私が顔をしかめはしたものの)ちょいちょい話を補足する形で口を挟んだりしたおかげで、ひとまずこの[声]の正体が録音とかちゃちなイタズラアプリみたいなものの類ではないことは伝わったらしい。とはいえ……。


「うーん、分かったような、納得できないような……」


 めぐみちゃんは困り顔で目を伏せる。


「話を理解できたかって意味ならイエス。話に疑いを持ってないかって意味ならノーかな」


 サーナは冷静に、そして明らかに疑念がこもった目で私のスマホを見つめている。


「聞けば聞くほど、言葉も出てこないくらいどうしようもないっていうかさぁ……」


 アメリに至ってはまた怒りのボルテージが上がってきている。


 明らかにこれはマズい。

 そりゃ、こんな反応も当たり前ではある。私が逆の立場なら確実に騒いでると思うし。でも今はこちらが疑われて当然のことを言って向こうを困らせている側なワケで、となれば相手に信じて貰えるよう私が手を尽くすしかないワケだ。はっきり言って地獄というか、針の(むしろ)ってヤツだとは思うけど。


「まず言わせて。……そのスマホから喋ってる『存在』がいるのは認めるけど。でもさ、それって明らかにあたしたちと会社の人以外に四期生の事情が知られてるってことだよね⁉︎ さっき言ってた守秘義務の話にこれでもかってくらい真正面から違反してると思わない? これで安心しろってほうが無理なのはあんたも分かってると思うけど?」


 アメリは早速自分の中にある怒りの出どころについて理屈を述べた。ぶっちゃけかなり理解しやすい言い分だ。

 やっとの思いでオーディションに受かったのに、よりにもよって自分の同期にそれをブッ壊されそうになっている状況である。怒りもごもっとも、というヤツで。


 喫茶店の窓から見える空に、灰色の雲が(にわ)かに出てきているのがよく見えた。

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