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28_[先行き不安]と[避難先]

 ()めの挨拶の後、社長はそそくさと会議室から出て行った。

 たぶん他の仕事だろう、というのは私でも分かる。特に最近は会社の規模が膨れ上がって相当忙しくなっているらしい、というのは私がリスナーとして配信を追いかけていたときから聞いていたから。

 結局その後、ケーコさんからライバーとしての講習のカリキュラムやらざっくりした予定を受け取って細々(こまごま)した話を聞いたあと、“ま、今日のところはこんなトコかなー”と解散宣言されるまで社長が戻ってくることはなかった。




「社長さん、話に聞いてた感じとはだいぶ感じ違ってたねぇ」


 帰り道、本社ビルを出て駅まで歩く道すがら、隣を歩くめぐみちゃんはつぶやく。


「まぁ、最近は忙しいらしいって先輩たちの配信でも話に出てくるし、時間なさそうだったのも仕方ないんじゃん?」


 もちろん他の四期生二人も一緒だ。そのつぶやきにあっけらかんと反応したのはソーナだった。


「とはいえあんだけ聞いてた話と食い違っちゃうと正直戸惑うというか……上手くやってけるかなぁ」


 あ、これを言ったのは私。


「安心しなー、初日からそういうの判断するのはさすがに無茶だからね。ただでさえ不安なタイミングなんだから、そんな状態じゃ余計に先のことなんて分かりっこないでしょ?」


 でもって、たぶん歳上・年齢不詳系先輩のアメリさんがそんな冷静なことを言いながら笑った。うーん、やっぱりこういう反応からもなかなかの貫禄がにじみ出ている。気がする。



 ……とはいえ私が、いや私たちが受けた違和感は将来のことへの不安を掻き立てるのには十分だった。

 先に述べた通り、事務所先輩たちの配信でも街山社長の人となりについては噂話程度に耳にしている。そんなこともあってか、彼はリスナーたちからは(というかもはやライバー陣からも)ある種のマスコットみたいな扱いをされている人物だった。


 (いわ)く、新興の業界人にしては珍しいくらいの中年後半くらいのおじさん。


 (いわ)く、割と熱血感で情にアツいタイプ。


 (いわ)く、隠し事ができない性格でスタッフからはいつも口を滑らさないように注意されている。


 そんな前情報があったので、彼を一目見るまではどんな人物なのだろうと少し期待していたのだ。もちろんある程度は好感を持った人物として。

 しかしそんな期待は真っ向から否定された気がしていた。

 つまり、実際には予想していた様子を毛ほども感じさせないくらいに“隙がなかった”。予想していた親しみを感じさせるような雰囲気も、話に聞いていたそそっかしさを感じさせるような言動も、そんなもの期待すらさせない程度にはどこにも無い。あるのは学校の先生みたいな型通りの発言とIT企業の社長みたいなセカセカした動作くらいだった。


 他の四期生たちも感想は私と同じようなものだったらしい。ここにいる以上はみんなも先輩の配信だとかで彼のことは知っていただろうに、扉を開けて社長が入ってきたあの瞬間に表情が固くなってしまったくらいには。


 先輩たちが語っていた社長の人間像って何だったのだろうか。まさか外部向けの嘘というか虚構みたいなものだったのか? さすがに先輩たち全員で口裏を合わせるとは考えにくい、でも彼女らも企業勢である以上は従うしかないってことなんじゃないか? こんな感じの不安が私の頭からどうしても追い払えなかった。



「まぁ今はワタシたちのこと考えようよ、社長の人柄についてはワタシらで考えてもどうにもなんないしさ! それより、明日からはみんな本社通いの講習始まるし、駅までは帰り道一緒でしょ? どっか駅前のカフェとかに集まれるようにしとくのとかどうよ?」


 そんな不安を吹き飛ばすようにサーナは明るく言う。なるほど悪くないアイディアかも知れない。


 ……あ、それよりも先に説明をしておくと、私たち四人の家はバラバラだ。だから駅からはそれぞれ電車でバラバラの帰り道をたどることになる。ここまでは全くおかしいことはないが、しかし以前に自分の住むあの部屋について“事務所支給のアパートの一室”なんて書いたことを覚えているだろうか?

 住む場所が事務所支給、だけど住む場所がバラバラとかいう状況になっているのは配信業という特殊な職業であることが関係している。

 というのも配信者というのはとにかくうるさい。そりゃもううるさい。防音室なしの普通の部屋や家とかでは騒音を辺りに撒き散らし、(ある程度“芸風”によるとはいえ)確実に周辺へと被害をもたらすくらいには。なのでJackie-S(ジャッキーズ) in the(・イン・ザ・) Box(ボックス)においては防音や通信・その他諸々の設備が整った部屋を事前に東京の各地に用意されているのだ。何でも、引っ越しのたびに配信環境を考えて住む場所を整えなくてはならない問題をなくすための福利厚生の一つ、らしい。またそういう場所を頼らず自分で探すことも可能でもあるという。閑話休題(それはともかく)



 ここで話を戻して、オフィスビルやら雑居ビルが立ち並ぶ駅前にて。

 私にはサーナの提案はとても魅力的に聞こえた。まだ先輩たちに存在が隠されている以上、社内で四期生が集まるワケにはいかないだろう。


 となれば、どこか外でなおかつ目立たないで集まれるような場所があればとても便利だ。ただただ駄弁(ダベ)るにしても情報交換するにしても、そういう拠点があるに越したことはない。であるなら、立地はどういう場所がいいかというと。


「ならもっと裏のほうの……ほら、あそことか良いんじゃない?」


 駅のそばを歩き回ること三〇分くらい、駅からの距離は工夫すれば徒歩五分くらい。やや込み入った裏路地の先でアメリさんが目ざとく見つけた喫茶店。ちょっと埃っぽい外観だけど、そのぶん上手い具合にヴィンテージ感もあって、でも適度に目立たない店構え。まさにうってつけの喫茶店だった。

 お店の名前は……Caffe(カフェ) Galliano(・ガリアーノ)。ずいぶん気取った名前だとは思ったけど。

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