27_[祓戸シシィ]と[激励]
元々、私がこのVライバーの世界にハマって、あまつさえ目指そうだとか思った理由はその“自由さ”にあった。
有名になることが命取りになることもある現代の世の中で、それらを全く考えなくて良い!
実を言えば小学生時代から、“未来にこんな職業が出来てれば良いな”と空想してたこともあった。だからこそ本当にVライバーというものが出現していたと知ったときには当然興奮を隠しきれなくて変になりそう、というか当時は本当に変になってたと思う。
『いよいよこの時代が来たんだ、じゃあ絶対になってやる!』みたいな感じで。
まぁ、本当に小学生の自分が時代に先んじてそんなことを考えてたのか、それともジャリガキが周回遅れで思いついていただけなのかはもう分からないけどね。
何にしても、その一歩目を踏み外すワケにはいかない、そう思って私は会議室を見渡した。
「はいはーい、皆さん! ごきげんよう‼︎」
まずは呼びかけから入って、それから挨拶はちょっと仰々しく……ちょうど、お転婆娘が調子に乗ってる感じで。
滑り出しはまずまず、元気よく出来たハズだ。それにアメリさん……紗夜ちゃんみたいに第一声からオリジナルの挨拶を持ってくるのも悪くはないが、私はいきなり独自のワードを出すよりも誰でも知ってる挨拶から入ったほうがいいと思った。彼女みたいに、役作りして押し出していけるほど設定固めてないし。
「とにかく自己紹介から言ってかなきゃねー! まず最初に、私の名前は祓戸シシィ! 一人旅で武者修行中の十九歳見習いシスター、アーーーンド、新米ゴーストバスターってのやってるの。まぁ、早い話がエクソシストってヤツ! 修道院育ちなんだけど、そこの“マザー”……育ての親から世間知らずって言われちゃってさ、『社会勉強してこーい』ってんでバーチャル東京に来ちゃったワケよぉ。だから早く一人前になって、“マザー”みたいなみんなから尊敬される立派なシスターになってやるんだ! じゃあじゃあみんな、以後よろしくね♪」
……と、こんな感じで自己紹介は終わった。ちょっと張り切りすぎた感じは否めないけど、ライバー新人がこの出来で自己紹介できるのはなかなか貴重なのではないだろうか。もちろんこれで良いのかは分からなかったけど、自分なりにはそんな手応えがある。相変わらずスタッフさん達からの拍手は何だか気の抜けた音だった気もするが、ともかく初心者としては満足だった。
逃げるみたいにそそくさ席に戻ると、めぐみちゃんとサーナからは興奮した様子で迎えられる。
「すごいすごい! 声優さんの演技みたいだったよ⁉︎」
「いやいやぁ、ほんとにVライバー初挑戦? だとしたら堂々としすぎだって! ワタシより何倍も将来有望じゃんよー、このこの! ははっ‼︎」
「あ、いや……あのテンションで配信なんかしたらすぐに酸欠になりそうだから、私としてはもっと方針とか考えなきゃなぁって」
一方の私はというと謙遜、なんていうにはちょっと切実な課題点を口にした。これは本当に謙遜じゃなくて、もう現時点で息が上がっていて油断したらゼーハー言いそうだったからだ。このテンションを維持しなきゃいけないとしたら重労働なんてもんじゃない。
「イヤちょっと待って、は、初挑戦⁉︎」
アメリさんが驚いた様子で会話に加わってくる。
「真面目に大型新人じゃん! キャラになりきって自己紹介なんて、それこそ演技に慣れてないと難しいんだよ⁉︎ それであのクオリティでしょ? いやー、同期として鼻高い、っていうか恐ろしいわぁ」
そして彼女は嬉しそうに、そしてしみじみと言った。……あれ?
「やーマジで、最初ちょっと心配だったんだよ。タイミング外しちゃったみたいだったけど、あんた多分この四人の中で一番若いでしょ? そこ考えずにあたしが先に挨拶やっちゃったもんだからさ、大トリ押し付けたみたいになってさぁ……。本当ゴメンね? だから気合い入れるつもりであんなイヤミみたいなこと言ったんだけど、それでまさかあんな挨拶お出しされるとはね……いやー、面白いわぁ」
うん、前言撤回。『対人性に難アリ』どころかメチャクチャ良いおねーさんだ、この人。何歳なのかは結局よく分かんないけど。
本人が説明したように、どうやら一番経験のなさそうな私に発破をかけるつもりであんなことを言ったらしい。事実として私はそれでかなり気合が入ってしまったワケだが、その結果として私は自分を四期生の中での注目株に押し上げてしまったらしかった。
「はい、注目して下さい! いやぁ、四期生の皆さんの将来が楽しみです。ひと通り“挨拶”も終わったので皆さんに三枚、同期のキャラクター資料を渡しますね。デビューまでの三ヶ月後までにしっかり覚えるようにして下さい。あと各人三部ずつしかないのでうっかり自分の資料を持って行かないように気をつけて」
先ほどから思っていたが、社長のコメントが何だかいちいち学校の先生みたいだなぁ。
そんなことをぼんやり考えつつ資料を四人で回していく。えーと、結局それぞれの設定は、めぐみちゃんが『ミヤビ・テレプシコラー』、サーナが『歌楼羅』、アメリさんが『夜差紗夜』か。
うーむ、この設定全部覚えるのはなかなか骨だぞぉ……。
「さぁ、泣いても笑ってもデビューは三ヶ月後、しかもそこはゴールではなく全てのスタートです! ここから出来る限り長く、それこそ続く限りずっと何年も配信者としての生活は続くことになります。我々も全力でサポートします、ですから、この“研修期間”を有意義に過ごして下さい!」
くにゃっとした目尻のまま、社長は言った。




