26_[天女]と[魔法少女]
「ども! 初めまして、ワタシは『歌楼羅』! まぁ、わかりやすく言うとワタシ仏教系の生まれってやつでさぁ、仏っての一員をやらせてもらってるんだよね。そんな生まれだったから出身も極楽なんだけどさ、この国の“音楽シーン”っていうの? 歌の世界に圧倒されちゃってね、ワタシも関わりたくってバーチャル日本に来ちゃった! だから今は歌いたいかな、オリ曲とか出したりしてねー。そんな感じ、よろしく!」
サーナは元気よく、そしてテキパキと挨拶を述べた。
目の前の即席スクリーンに映し出されている彼女のアバターはいかにも快活そうな笑顔のキャラクターだ。本人の肌とよく似た褐色の肌に薄ピンクの髪色で、頭にはハスの花みたいな冠を載せている。そしていわゆる天女と呼ばれるような、仏教画の女性みたいな“羽衣”とか呼ばれる長いヴェール状の布を身につけていた。上半身の露出度はまぁまぁ高め、下半身はゆったりと膨らんだ長ズボンで身を包んでいる。そして、若者っぽい手首や腰にもハスの花モチーフのアクセサリーが揺れていた。
スタッフさんたちからまたパラパラと拍手が起きて、その後にサーナがお辞儀から姿勢を起こすのを待ってまた街山社長が司会進行として口を開く。
「はい、ありがとうございました。お二人ともキャラクター性を上手く前面に出せていたと思います。とても良いですね! さて、それでは続いての挨拶ですが——
「あたしが行きます」
私が反応するよりも早く、というか社長が発言を言い切るよりも先にアメリさんがすばやく挙手した。当然、社長も笑顔で「どうぞ」なんて返す。イヤ待って、これじゃ私が大トリってことで……。
そんな私の焦りを全く気にせず、アメリさんはツカツカと前に出ていった。ホワイトボードに三つ目の画像が映し出される。アバターの頭にはとがった黒っぽい山高帽、つまり魔女っ子系キャラらしい。色の明るい若草色の髪の毛に深い色味の赤い瞳、かなり幼く見える白い肌。そして若干ヴェールの部分が多い活動的な衣装の少女だった。山高帽以外は魔女というより踊り子というような見た目だ。
「はっじめましてー、こぉ〜んさよ! ボクの配信へようこそ‼︎ おーっと焦らないで、まずは自己紹介からだね! ボクは夜の国から来た魔法少女Vライバー『夜差紗夜』って言うんだぁ〜。あ、でもボクに優しさなんて期待しちゃダーメーだーぞー? 流れ星を追ってバーチャル東京に来たんだけどココはいいね、面白そうなことがこんなにもたくさん! さっき言った夜の国なんて陰気なところでさぁ、ボクが支配した途端に何でもかんでも思い通りに出来過ぎて退屈になっちゃって……ってイケナイイケナイ。君たちは何も聞かなかった、良いね? とにかく! 今のボクの目標は配信を通じてみんなを支配、じゃなくてみんなに知ってもらうことだよ! よろしくね〜」
他二名と比べるとちょっと文章量が多かった気もするが、特につっかえることもなくアメリさんの“自己紹介”も終わる。またパラパラとどこか気の抜けた拍手が聞こえてきた。
……一方、私は驚いていた。声がさっきまで聞いていた冷静そうなアメリさんの声とはまるで違う。まさに本職の声優がVライバーになりに来ました、と説明されても全く疑う余地のないくらい別人の声だ。それに、(その声自体も含めて)設定のキャラクター自体が設定過剰なまでに”造られた部分”を多く持っていたことも驚いたポイントだった。
普通、Vライバーに設定の多さは求められない、というより必要とされない。
理由は簡単、配信をしていく中でそういった要素は邪魔になるからだ。いちいち大量の設定を頭の中に入れて配信していたのでは咄嗟に言葉を出せなくなる。そして長く配信者として活動すればするほど、設定というメッキはボロボロと剥がれていくことになるワケだ。
だから、ある程度の大まかな設定部分以外の要素は全く作られないのがVとしての常道であるハズだった。
ところが、アメリさんのこのキャラクターは少なくとも私が分析して結論づけていたそんな常識とは全く違う。今の自己紹介だけでもバックボーンだけで本が書けそうなくらい要素盛り盛りだ。普通ここまでガチガチに設定を固めていてはスタッフさんからもストップがかかると思うのだが……あるいは、それでも問題なくやれるくらいアメリさんが“達者”な人なのか。
自分の席に戻ってきた彼女は私にそっと耳打ちしてくる。
「ゴメンね、遅れてきといてトリまであたしがやるのはイヤだったから先にやらせてもらっちゃった。じゃ、最後の最後で大変かもだけどガンバってね」
うっわぁ、ここでこういう人が来るとは思ってなかった。しかもよりにもよって同期とは。
たぶんというか間違いなく、この人は『対人性に難アリ』のタイプらしい。そうでないと今みたいな、“ほぼ勝利宣言”じみた耳打ちなんてしてくるハズない。何がどう勝利なのかは上手く言葉にできないけど。
「では、最後は浦賀さんにお願いします」
社長も社長で全く悪気のなさそうな笑顔で私に話を振ってくる。
けど、ちょっと怒りの感情すら湧いてくる状態で、私はこの黒い感情を“一番ちゃんとした自己紹介をすること”に昇華させて発散させることにした。だってそうすれば、この自信に満ち溢れているらしい先輩配信者の同期の鼻を明かすことになると思ったからだ。全く注目してなかったド新人に飛び越えられる気分はどんなものだろうか。良いじゃん、やってやろうじゃんさ。
「はい」
私は短くそう答えてから前に歩み出て、スクリーンに見慣れたリューナの顔が映し出されるのを確認した。それからくるりと回って会議室を見渡す。そして一息吸い込んで。
「はいはーい、皆さん! ごきげんよう‼︎」
そんな感じに、そしてつとめて明るく“自己紹介”を始めた。




