25_[コンプレックス]と[設定詳細]
「んじゃ遅ればせながら……ってホントに遅刻しといてこういうのもアレだと思うけど。あたしは戸次愛芽理、元々配信業界出身の人間で経験はまぁまぁあると思う。あと同期だしフツーにアメリって呼んでくれりゃ良いから、よろしくー」
最後に来た同期さんはちょっとした仕切り直しとか三人の自己紹介二回目とかがあった後にそう名乗った。
彼女……アメリさんの人となりを説明すると“妙齢な人”というのが一番的確なように思う。
アッシュ系っていうんだっけ? グレーっぽく染めた髪にセルロイドの黒と赤のフレームのメガネはかなりトガった服装に見えた。妙に堂々とした態度といい、サブカル系の気が強そうな感じに見えるというか。しかしその一方で色白かつ小柄な背格好のせいで幼く見えたというか、単にちょっと目つきが攻撃的なだけの子供みたいにも見えなくもないというか。パッと見で何歳かすぐに判断できない、そういう意味の妙齢。
まぁ、ギリギリ十九歳の私と比べたら多分みんな歳上だとは思うんだけど……。
にしても私以外、三者三様とはいえちょっと美人すぎないか? 最初のめぐみちゃんにも思ったけどVライバーにあくまで中身の容姿なんてものは関係ないハズだ。なぜこんな一線級のルックスの持ち主たちが集まることになるのだ? 思わずコンプレックスを刺激されそうになる。
そんな私たちを笑顔で見守っていた街山社長はパン、と手を叩いて会議室にいる全員の注意を自分に集めてから口を開く。スタッフさんは正面のホワイトボードにプロジェクターの光を当ててスクリーンの調整をしていた。何かを映すということだろうか?
「はい、四人目の四期生である戸次さんも間に合って良かったです! ……さて、では次に戸次さんも含めて四人全員にはやって貰いたいことがあります。というのもですね、皆さん各々で配信上の『設定』やデータはもう決めてあるハズです。今からもう一度、ただし四人それぞれの“設定”で配信上のキャラクターとして自己紹介をして下さい! このプロジェクターでアバターの画像は前に映しますから、それこそ今から初配信をするような気持ちで、同期のメンバーに“こんなキャラクターでやっていくよ”と伝えて欲しいんですね。これが社長として皆さんに出す最初の依頼です。それぞれの設定資料は後で皆さんにも配りますから、後でよく参照しておいて下さいね」
ちょっと垂れ目気味の目尻をさらにほころばせる社長からそんな指示は出された。
なるほど、確かにお互いの『設定』は把握しておかないといけないだろう。というかどの道その辺りは嫌でも知ることになるのだ、なら早いうちに知っておいて損するようなことはない。
「あ、はい! でしたら私から行きます」
最初に名乗りを上げたのはめぐみちゃんだった。小走りでプロジェクターの脇にまで歩み出た彼女にパラパラと拍手が起こる。それが収まるのを待ってから、社長の合図で男性スタッフがスクリーンに恵ちゃんが使うことになるアバターを映し出した。部屋の明かりも少し暗くなる。それとめぐみちゃんの軽い咳払い。
それからホワイトボードに映し出されたアバターは大人しそうな、それこそ女神様とかみたいな優しそうな見た目の美女という外見だった。いかにも“清楚”そうな印象の外見だ。くすんだ紺色で表現されているショートカットの黒髪に透明感のある肌、そして黒い縁取りで輪郭が強調された薄水色の瞳。服装は明治時代の和装のようにも洋風のドレスっぽくも見える独特の様式の衣装が、どこか掴みどころのない雰囲気に花を添えている。
「皆さん初めまして、どうもぉ。えっと、まずは名前から。私は『ミヤビ・テレプシコラー』っていう芸能の女神系Vライバーです。“テレプシコラー”っていう苗字はおばあちゃんからちゃんと受け継いだ“女神の一人ですよ”って意味なんですね。……まぁ、ホントのこと言っちゃうと、そのおばあちゃんとはお笑い芸人に憧れてること知られて大ゲンカしちゃったんだけどね……はは。今の目標は、おばあちゃんにお笑いを認めてもらうために女神として成功することです! みんなよろしくね」
そんな内容の設定を手元の資料無しで読み上げて、めぐみちゃん……いや『ミヤビちゃん』の自己紹介は終わった。
フムなるほど、さっき思った“女神様みたいな”という感想は正しかったらしい。しかしそういうキャラの割になかなかブッ飛んだことを言っていなかったか。お笑い芸人に憧れているって、そんな設定で良いんだろうかという心配が先立ってしまうが……。
と、ここまでサラッと聞いていて肝心な自分のことを思い出した。大変だ、私はめぐみちゃんみたいに資料を見ずに“自己紹介”出来るほど設定をまだまだ暗記できてない! 急いで自分のカバンから資料を引っ張り出して、最終確認という感じの体で素早く目を通しておさらいする。
そんなことをしている間にもまたスタッフさん達の拍手がパラパラ起きて、次の自己紹介の出番がやってきた。私がいくべきだろうか……?
「それじゃ! 次はワタシが行きますー」
次にサーナが挙手してそそくさとホワイトボードの前にまで進み出る。それからくるりとこちらに向き直ったとき、彼女が私に向かって小さくウィンクしたのに気づいた。……どうも、私が暗記不十分ということは今の動作でバレてしまっていたらしい。
私が思わず顔を紅潮させるのを見ながら、サーナはにこやかに設定の自己紹介を始めた。




