24_[ゆるめの社風]と[遅刻者]
街山社長の挨拶に続いて、今度はケーコさんが三人の前に歩み出る。
「皆いーい? まー取り敢えずはさ、三人……とここにいないもう一人、つまり四期生共通のマネージャーとしてしばらくはアタシが担当するからよろしく! 四期各人とは一対一で話してきたけど、全員の前で改めてこれ言うのは初めてだよね? そーいうことだから頭に入れといてよ」
ケーコさんはいつもの口調でこう告げた。
社長の前でその口調を使うのは正直どうかとも思ったけど、まぁ現状こうやって喋れている時点で私が気にすることでもないんだろう。考えてみれば、この会社はITベンチャー企業というヤツで、つまりそういう肩肘張った形式とかについてはうるさくない企業なのかも知れないし。
「うん、ライバーさん達との仲は良好みたいだね。さすが刀禰谷さん」
そして答え合わせみたいなタイミングで、社長は気にも留めていない様子で言った。私は内心で、そういえばケーコさんの苗字が刀禰谷だったってことを今更みたいに思い出してたけど。
……そういえば、いま確かに『“さすが”刀禰谷さん』と言われていたような気がする。ということは、この気安く下の名前で呼んでしまっている女性マネージャーはひょっとして想像してる以上に偉い人なんだろうか。ふとそんなことが思考の端をよぎった。
そんな私の頭の中は露知らず、ケーコさんは言葉を続ける。
「あとさ、アタシの他に見習いのマネージャーとしてこの子、量茉柚夏ちゃんもアタシの助手として付いてもらうからそれも覚えといて。話し相手が増えると喋れなくなったりするって人いる? いたら後からでも良いから言ってね」
そういってケーコさんはもう一人の小柄な女性マネージャーに視線を移して発言を促した。突然話を振られた彼女はつい一時間半ほど前までの私以上に緊張で硬直しそうになっていたが。
「しっ、ししし……すみませんっ、し、新人マネージャーの量ともっ、申します! ま、マネジメント業務に携わるのは初めてで、その……至らない点もしばらくは多いと思いますがっ、よろしくお願いしますっ!」
「ちょっと茉柚夏ちゃん、初めてなのはそうかもだけどタレントさん達の前で言わなくても良いっしょ?」
「ひっ、すっ、すみません!」
ケーコさんにやんわり嗜められて、量さんと紹介された見習いマネージャーは面白いほどに竦み上がった。もうその反応からして、ド新人という部分が隠れてもいない。そんなリアクションだ。
「見ての通り茉柚夏ちゃんは新人ねー、今年ウチに入ったばっかりの新入社員。けど“見習い”って付いてる通り、しばらくはアタシの助手として動いてもらってサポートしてもらうことになるよ。あと基本的な研修とかはばっちし終わってるから業務は大丈夫だから」
結局、量さんの自己紹介に対するフォローがケーコさんから入る。とにかくここの制度ではなのか何なのか、新人マネージャーとベテランマネージャーとで二人で私たちのマネジメントを担当するみたいだ。って、新人のマネジメントに新人マネージャーを?
と、ここでサーナが挙手して意見を述べる。
「あーはい、質問です! 新人のアタシたちにつくマネージャーさんも新人さんっていうのは、こういうのは角が立っちゃうとは思うんだけどその……大丈夫、なんですかね? こう、こっちとしてもある程度マネジメント経験があると安心するというか……」
言葉を濁しながらも、サーナは私が抱いた疑問とほとんど同じことを質問した。やっぱりそこは不安になって当然なんだ、なんて私はちょっと安心感を覚える。確かに、新人さんに経験を積ませるならもっと他に方法があるのではないだろうか。
質問を受けて街山社長が口を開いた。
「確かに、大切な四期生の皆さんにいきなり新人を担当させるのは不安かも知れません。ですが、当然不測の事態が万に一つも起きないように対策はしていますからご安心ください。まずマネージャーとしての権限はベテランマネージャーである刀禰谷さんにあります。量さんは説明にあった通り助手という立場なので、我々からのマネジメントが損なわれることはありませんよ。あくまでも皆さんをサポートするために最良となるよう考えて実施していることですから」
「なるほど、分かりました。お答えくださってありがとうございます」
社長の答えに納得した様子のサーナは引き下がる。なんだか社長に躱された気もするけど、これはちゃんと意図のあることらしい。よくは分からないけど、私も納得したフリをすることにした。
そしてバン、と扉が勢いよく、それこそ壊れかねないくらいのスピードで開けられて。
「遅れて申し訳ありま、じゃなくて申し訳ないです! よ、四期生……の戸次と申します‼︎」
そんな焦り通しの言葉と共に、グレーに染めた髪にメガネを掛けた小柄な女性が会議室に駆け込んできた。タイミング的にも発言的にも、遅刻していた四人目の同期の女性であるのは間違いない。相当急いできたようで、肩を上下させ呼吸と共にゼーヒューと風音じみた音を鳴らしている。
そのまま彼女が扉にもたれかかったせいか、扉から悲鳴にも似た軋みが上がった。




