23_[三人目]と[時間切れ]
そんな感じで、棚前めぐみちゃんと知り合ったのが午後一時五〇分ぐらい。午後三時の集合時間を考えるとめぐみちゃんも私と同じく、集合の時点で“張り切りすぎた”クチらしかった。
まぁ時間が余った以上はお互いにどうしようもないので、とにかく談笑で(無理やり)親睦を深めること三〜四十分ほど。実際はどうなのかなんて知らないけど、噂に聞くお見合いみたいな若干ぎこちない二人については取り敢えず省略するとして、そんな最中にようやく会議室に三人目の四期生が入ってきた。
私たちにとっては“ちょっと想定外”の姿で。
「お、やっぱり三十分前到着くらいだと先越されてたかぁ。ども、この部屋にいるってことは二人もここの四期生さん……なんだよね? ワタシもなんだけどさ」
ノックもなく扉を開けて颯爽と入ってきた女性は、彫りの深い顔立ちと褐色の肌の持ち主だった。要するに、明らかに純日本人の私やめぐみちゃんとは違う顔立ちだ。めぐみちゃんよりもたぶん歳上で、しかも女性にしてはかなり高身長なのもあったせいなのか、かなり堂々として見える。
「あ、えっと、そ、そうです! 初めまして!」
「はは、見るからにガチガチだぁ。まぁ、お互い緊張してるっぽいけどリラックスしてこうよ、同期なんだからワタシには敬語いらないし。……おっと、内密なんだから扉は早く閉めとかないとね」
気圧されそうになりながら私が反応を返すと、女性はカラカラと笑いながら後ろ手に扉を閉めた。
……参ったな、思ったよりも歳上っぽい人だ。実を言うと、私はこういう大人な同性相手に苦手意識があった。まぁ、単純にそういう人との付き合いが少なかったせいだと思うけど。そこまで理解はできていても、やっぱり不安になる部分はどうしてもあった。それに加えて性格の相性も気になる。私は陰キャだ陽キャだとかを気にする方ではないと思いたいけど、結局のところ、こういうことをそもそも気にしてる時点で陽気とは言えないなんて話はよく聞くし。
「うん、ワタシから先に名乗らせてもらうね? 見た目的にも色々気になってるだろうしさ」
女性は右の手首で自分の胸を叩いてそう言う。声の調子も身振り手振りもいかにも快活、そして利発そうな振る舞いだと思った。
「ワタシはサーナ・光瑠・ディーヴィー、二六歳。肌の色でも気づくかもだけど、父親がインド人で母親が日本人ね。ま、純日本育ちだから特に海外事情とかに詳しいワケじゃないけど」
なるほど、Vライバーなんてことになればこういうことだって何もおかしくない。そりゃ言語くらいは活動する国に合わせる必要があるだろうけど、そこさえクリアできれば後は“どうだって良い”となるのは理解できた。
「えっと、それじゃあお返しの自己紹介くらい私が先に言わせてもらうね。棚前めぐみっていいます、よろしくね」
「わ、私は浦賀カオルっていいます! えとその、高校卒業したてで働いた経験もバイトくらいしかなくって……」
めぐみちゃんに続いて私も自己紹介で返す。……って、いきなり何言ってんだ私。
「へぇ、ってことはまだ学校にいた時にオーディション受かったんだ! すごいなぁ、そんな一発で入ってこれるってことは配信者として優秀なんだよ、それかスター性っての? きっと光るものがあったとかさー。だから自信持ちなって。じゃこれから、二人ともよろしく‼︎」
そんなおどおどした私の反応を見てか、その褐色の女性:サーナ、さん、に励ましの言葉じみたものをかけられる。う、要らない気を遣わせてしまった。さすがに向こうも、Vライバー事務所の新人なら色んな人が集まるってのは織り込み済みだと思いたいけど……。
あと、それ関係で思っていたことがもう一つ。
「あの、そういえば……なんですが——
「ほらストップ! さっき言ったよ? 歳上だけど敬語はいいって」
思わず敬語で切り出してしまってサーナ……にスパッと嗜められた。でもめげずに私は続ける。
「え、あ、えと、そういえばなんだけどさ、私たちって新人とはいえ一応はここのタレントだよね? 普通は送迎とかやってくれるみたいな話だと思ってたんだけど、やっぱそういうのって売れてる人優先っていうか贅沢ってヤツなのかなぁ?」
「あ、それ私がスタッフさんに聞いてるよ。なんでも、送迎とかでスタッフさん集めるとやっぱり目立っちゃうから、私たちだとデビューまでは自分で動かなきゃダメみたい。ほら、社内でも私たちって秘密にされてるから……」
で、けっきょく聞きたかった情報はめぐみちゃんから教えられることになった。そうだった、新入りはデビュー発表まで先輩たちにも伏せられているというのは自分でも説明していたのではなかったっけか。情報は頭に入っていたのに忘れてしまっていたとはなかなか恥ずかしい。だからこそこの部屋にこっそり集められていたと言うのに。
……いやちょっと待って、それで集合時間は何時なんだったっけ?
と、扉がまた開かれて。
「さぁ、Jackie-S in the Boxへようこそ! 新四期生の皆さん。こんにちは、社長の街山光朗と申します。どうかこれから貴方たちと我々、新入生ライバーと事務所の管理者としての関係が末長く縁が続きますよう!」
そう言って入ってきたビジネススーツの中年男性を先頭に、ケーコさんや彼女より小柄な女性マネージャー、他数名の性別もバラバラなスタッフさんたちが並んで扉を潜ってくる。あれ、私たち四期生は全員で四人だったハズでは?
「おっと、一人は遅刻……でもまぁ気にせず行きましょうか。この業界ではサボりだって珍しいことじゃありませんから」
中年男性こと街山社長は笑顔でサラッと言う。
うーむ、なかなかの場所に来た気がするぞ? 私は嘆息しそうになった。




