22_[初めての同期]と[自己紹介]
「あ! 電話中でした⁉︎ ごめんなさい! すぐに——
「だだ、だ、大丈夫ですよぉ! うん、そいじゃねッ!」
会議室前に立っていたその女の子の反応で、私は誤魔化しもそこそこに慌ててスマホをしまった。……さすがに今のは切り方が不自然に見えなかったろうか? 秘密を抱えてしまっている都合上なのか、我ながらちょっと疑心暗鬼になっているみたいだ。リューナの方もさすがに空気を読んでくれたのか、突然のこととはいえ今は黙りこくっている。
「こ、この会議室ってその……アレですよね? 三ヶ月後デビューの四期生が集められてるっていう……」
「そうです、私も四期生! 早く入って入って、まだ事務所内でも私たち極秘扱いみたいですから……!」
おっかなびっくり尋ねてくる彼女の言葉に反応するように、私は彼女を急いで室内に引き入れてから扉を閉めた。部屋の外にも特に掲示があるワケではないからこうやって確認するしかなかったんだろう。
まぁこのあたりは事務所それぞれの方針というものもあるかもだが、少なくとも『Jackie-S in the Box』はデビュー直前まで新入りの情報は出さないタイプの事務所だったりする。そしていま私が言った通り、それはごく一部の関係者を除けば社内の大半にも教えられていないというワケだ。当然、事務所の先輩たちにも同じく。
「えっとじゃあ、まずは自己紹介……なんだけどね?」
「え? は、はぁ……」
同期の子がおずおずと切り出して、引きずられるように私もおずおずと声を上げながら観察してみる。Vライバーなんだから容姿は何でも良いと思うのだが……だとしても、目の前の彼女は美人だった。そりゃもう紛れもなく。
業界的に声の良さは当然としても、通った鼻筋によく似合うダークブラウンのショートカット、服装もベージュの春物ジャケットの下には紺のシャツと細身の白ジーンズという出立ちだ。主張し過ぎない桜色のアクセサリーを使っているセンスとかも含めて、まさに小綺麗なOLみたいな格好だとか思ってしまう。まぁVライバーなんてどこも前職不問で募集してるワケで、ひょっとしたら本当に元OLのおねーさんとかなのかも知れない。
でもその割にはこう、どこか浮世離れした雰囲気というかオーラというか、とにかく独特な“何か”をまとっている気がしたけど。
「Vライバーとしては、ね? 本名って何があっても言っちゃダメでしょう? でも私って昔からそそっかしいところがあって、だから何かの拍子にうっかり間違えて口走っちゃいそうで不安なんですよ」
それにどことなく、彼女からはその雰囲気で会話相手を巻き込んでしまうような押しの強さじみたものを感じた。気がする。何というか、話をちゃんと聞かなきゃいけないような気がしてくるというか……。なるほど、確かにこういう感じの喋り方が出来るのってVライバーとしては大事なのかもしれない。配信者戦国時代の現代、こういう特徴ってメチャクチャ強みな気がするし。
「なら、だったらもしかして、本名で自己紹介するよりも設定としての名前でだけ自己紹介しておいたほうがお互いに事故にならないのかなって思っちゃって。だってこれなら、そもそも本名を知らずに済ませられるワケじゃない?」
そんなことを考えながら、私は彼女の持論というかこれからの不安について耳を傾けていた。
まぁ正直、ちょっと考えすぎな気もしたけど。なので私なりにフォローっぽいことを言ってみる。
「な、なるほど? ……イヤでもなぁ、案外そういうのって大丈夫だと思うんですけどね……?」
「そう? ……でも私、実は動画メインの活動ばかりで、ライブ配信での活動ってしたことないんですよね。だから不安で仕方なくって……」
「あー、それでかぁ。でも大丈夫ですよ、意外とそこって何とかなりますから。配信者としてはちょっとだけ先輩の私が保証します! それに、そういうところで事故を起こさないためにもこれから三ヶ月もみっちり講習とか色々受けるんだし」
経験が乏しいのはお前もだろう、なんて自分で自分にツッコミを入れながらも私はその同期の子を励ました。
言い忘れていたが、私の配信歴は長くない。用意するのにそれなりの金額がかかってしまうアバターの類は使わず、顔を出さないタイプの配信者として高校時代の何か月かだけ活動していた。それだけだ。いわゆる“歌い手”という歌手のカバー曲中心に歌を歌うタイプの配信者。それに動機も不順で、ただ単にここへの応募でアピールになりそうな配信実績を作るための短い活動でしかなかった。
……まぁ、実家にいて大声で歌うワケにもいかず、結果小声気味にならざるを得ない歌のクオリティ自体は酷いものだったとは思うけど。けど反対に言えばそれでも受かったのだから、これからボイストレーニングなんかを受けていく中で成長していけそうな“何か”が私にあったのだと思いたい。
「それで……ってそうだった! 肝心の自己紹介がまだなんだった、ごめんなさい!」
同期の子は急に思い出したように口走る。イヤまぁ、その自己紹介をどうするかで不安だったワケだから、そこは気にしなくても良いような。
「じゃあ先に私から、本名のほうで。棚前めぐみっていいます。二二歳だけど社会人経験は一応あるよ。短大卒ってだけだから二年ぽっちだけど。これから長い付き合いになるかも知れないけどよろしくね」
「あ、やっぱり歳上だ! 私は浦賀カオル、高校も無事卒業できてここに来ました。でも四月二日生まれなんでもう十九歳なんですよ。妹分みたいな感じで、こちらこそよろしくお願いします!」
「あはは、卒業してるならもう年齢はあってないようなものだよ。それに同期なわけだし、私には別に敬語じゃなくたって良いって。だからお互い気安く呼ぼうよ、ね?」
そんなこんなで、私たち二人は改めて同期というか、友達になることにした。




