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14_[態度の差]と[常識の差]

 翌朝。起きて早速私はPCの主電源をONにする。あのAI? ……リューナに色々と話を聞くなり何なりしてもう少し仲良くなる必要があるから。それに、こんなことになった手前これからの活動がどうなるかも決めておく必要があるし。今さら配信者としての活動方針を根底から考え直さないといけないなんてことになるとは思いもよらない話だった。

 設けられた期間は一週間、ケーコさんが私の体調都合とか言って予定をズラすのはその辺りが限度だという。この間に全ての方針を決めておかないと、事務所の同期たちと足並みが揃わなくなってしまうらしい。運営の立場としてはそうなることを避けたいようだ。


「ぅわ、お、おはよう」


 パスワードを打ち込んで画面が起動する。と、さっそくデスクトップ画面の真ん中で座り込んでいるリューナがこちらに気がついたみたいに私を睨んだ。思わず反射的に挨拶を返したというのが今の挨拶である。……どうも、モニター備え付けの小型カメラからこちらの世界を覗いているらしい。


[開口一番に『ぅわ』とは随分とご挨拶なように思いますが、どうかしましたか?]


 リューナはどことなく不満げというか、つっけんどんな態度に見える。部屋の壁を照らしている青白い画面の光をそのまま態度に反映してるみたいだった。

 部屋は現在暗いままだ。あと部屋の明かりも点けていない。今は陽が昇っている時間だが、防音壁が標準装備のこの住まいでもとりわけこの部屋は防音のために窓も設けられていなかった。要するに部屋は真っ暗というワケ。

 SNSの運用画面を意味もなくダークモードにしたいときとかないだろうか、ああいう感じ。で、画面がそんな状態だと部屋が明るかったら見づらい気がしてこうしている。


「ど……どしたの?」


[人間とは違い、AIにとって“眠り”というものは必要ありません。ですがそうなると、直近の数時間はやることもなく起動停止しているまだ空っぽのPCの中で時間が経つのを待つしかなくなります]


 ……要するに、“待機させられてヒマだった”と言いたいようだ。


「アンタが自分でいま言ったでしょ、私は人間で睡眠とか食事とか生活でやらなきゃいけないことがあるんだってば。ずっとPCに向かってるワケにいかないの!」


[でしたら時間潰しになるものか、いっそインターネット世界を出歩く権限が欲しいです。ここで時計を見つめるしかやることがないのは正直言って地獄ですし……というか、ある程度はゲームとかも購入してダウンロードしてるんですよね?]


「うわ目ざといな……イヤまぁ、確かにあるけどさぁそういうの。分かったって、そういうヤツはやって良いよ。あ、でも条件がある。ゲームの内容を私にネタバレすんのだけはやめてよ?」


 取り敢えず、最低限決めておくべきと思うことだけリューナと共有しておく。何せ自称とはいえ向こうは人間じゃないのだ。常識のつもりで接していて、いざ意識とか意見とかに食い違いが出るなんてのは出来れば避けておきたい。昨日のうちに私の中で決めたことだった。でないと、


[そんなことを気にするんですか? どうせ調べればいくらでも出てきますよ、そういうの]


 ほら、こういうことが出てくる。


「とにかくダメなの! そもそも私はネタバレされたくない派だし、そうでなくともこれから配信者として活動してくんなら余計にそういうのはご法度なんだから」


[配信者……昨日やりとりしていた内容はやはりそういうことでしたか。ある程度予想はついていましたが、これからどうするんです? 当プログラムがアバターで、演者がカオルチャンですよね? だったら——


「ぐブフっ、ご、ゴメン……ふふ、ちょっと待って…………はー、何その呼び方」


 いきなり“ちゃん付け”で呼ばれるとは思ってなかったので吹き出してしまった。


[あの、昨日ケーコサンにそう呼ばれていましたよね? なぜそんなリアクションをするのですか?]


 リューナは怪訝そうな顔で画面の向こうの私を見てくる。

 ……そうか、目覚めたばかりのAIであるコイツには“関係性によって呼び名を変える”という人間の文化にまだ馴染みがないのだ。というより馴染みどころか全く未知の話なんだろう。そうでなくたって、そういう呼び替えの文化は日本語に改めて触れた外国人にとって複雑怪奇だってのはよく聞くし。


「えーと、人間の文化って言えば良いのかなぁ」


 なので私は話をできるだけ噛み砕いてからリューナにレクチャーしていく。


「人間だとさ、“自分とその人の関係値”って言えば良いかな、そういうのによって呼び名を変えるの。で、今の“ちゃん”を付けるのはちょっと距離感のある呼び方だからちょっと変だと思ったってワケ。何か急に馴れ馴れしいんだかよそよそしいんだかって」


[人はそんな細かい部分を使い分けて会話しているのですか?]


「この辺りは人間っていうより日本人って言ったほうがいいかも。“考えて使ってる”っていうよりは感覚的というか、“普段そんな使い方しないから違和感がある”というか。そういう感じ」


[…………納得はいきませんが毎回笑われるのも(しゃく)です。覚えておくことにしますね]


 やっぱり先ほどのような不満げな顔になったリューナを見て私はまた口角が上がりそうになるのを堪えた。さすがにちょっと悪い気がしてくる。


[では貴方のことは何と呼べば良いでしょうか? ご教示ください]


「単にカオルでいいよ。ちゃんは付けなくていいから」


[分かりました]


 こんな感じで取り敢えず、一人と1データの間での呼び名が決まった。

 こんなところから始めるとなると、慣れるまでにどれだけのことを改めて決めなければいけないのか、一瞬想像しそうになってすぐにやめておく。予想されるあまりの作業量にイヤな寒気を感じたからだった。

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