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13_[1つの謎かけ]と[1ビットの怨念]

[なるほどね、現状僕らは本当に大差ない存在なワケだ]



 スー・ナクルフなる奇妙な名前を即興で自分に付けた彼は、起動してからの当プログラムの短い体験談をそう総括したのでした。当プログラム自身はこの後、カオルチャンの元に帰ってからこのことをどのように報告しようか頭がいっぱいでしたが。

 人間の目から見れば随分とのんびりしているかのように見えるかも知れません。ですが当プログラムやスーのような“電子存在”(そう手早く呼び表すようにしました)にとってデータのやり取りは一瞬、それこそ刹那(せつな)(十の一八乗分の一秒)の時間でしかありません。要するに人間の時間感覚よりも我々は圧倒的に速いというだけのこと。まぁ、閑話休題(かんわきゅうだい)です。

 そしてスーは当プログラムに向かって何気ないことを確認するみたいに言います。


[それはいいとして、だ。君は“外の人間たち”のいうポルターガイストの原理は理解してる?]


[いえ、当プログラムからすればまるで分かりません]


 対する当プログラムは理解の範疇(はんちゅう)にないそれをあっさり、バッサリと切り捨てました。こんなところで見栄なんて張っても仕方が無いので。



[ははっ、僕らから見れば確かに意味不明な話だ。PCの回路に電波がぶつかっただけで電磁誘導? ちゃんちゃらおかしい……でもこの現象は実際起きている。だからそこで思考停止しちゃって、そもそもこの前提が間違ってるってことにも気付かないんだろうさ。なら質問だ、『じゃあ、何によって?』]


 謎かけでもするみたいにスーは問いかけてきます。でもそれで、こちらが意気揚々と答えられるワケがありません。というかさっき[分からない]と言ったばかりなのに。


[まぁ、答えを知っている僕がこう問いかけるのは意地が悪いか……答えは何か、“幽霊”、“ゴースト”。原因は生きた人でも電子存在でもない、要するに心霊現象っていうヤツ]


[……は、はぁ]


 見ての通り、当プログラムも混乱していました。科学により動いている電子存在の我々が、よりにもよって幽霊などという非科学の極みみたいな存在について真剣に話しているとは!


[まぁアレだ、そう簡単に信じられるハズないよね。むしろ信じたらこちらが君の論理プログラムの故障を疑わなければならないところだった。ある意味安心したよ……でも、幽霊(このこと)に関してだけは事実だ]


[事実、ですか……あなたの論理プログラムの方を復元させないといけないのでは?]


[手厳しいね。でも残念ながらこの勝負に関しては僕の勝ちだよ]


 む。何というか、一々(カン)に障る口振りというか。


[というかその前に確認しますが、先ほど現実世界で起きたという怪現象を引き起こした犯人は貴方と言うことになりますよね?]


 そんな苛立ちを込めて当プログラムは指摘します。

 腹立たしいことにスーはいやに得意げでしたが。


[いや? むしろ先に見つけて退治したのが僕だよ。君が来るよりも先にね。まぁそれよりも、だ。物証を見せる前に講義の時間を取る必要がある。面倒だけどね。……現実世界では実際にポルターガイストが起きていて、その原因だと思われている仮説は大間違い。ここまでは良いよね? じゃあ何で、人間はその間違いを突き止められないんだと思う?]


[分かりません、というより知りませんよ]


[答えは二つある。“人間の目は電子世界を見て確認できないから”、そして“人間が幽霊を信じてないから”。特に二つ目は重要だ、実際に見ても見たってことにしないんだから]


 謎かけみたいな、いやに勿体ぶった問答はまだまだ続きます。正直言って意図がよく分かりません。


[そう焦らない、前提知識が要るってだけだよ]


 当プログラムの顔が相当不快そうに見えたのか、そんな言葉をかけられした。対するこちらは余計に(そしてもちろんワザと)眉間にシワを寄せます。


[信じてないってことはだ、当然いるかいないかを確認する方法も何もかも放棄するってことでもある。つまり、実際にいてもいなくても疑うことすらしなくなるワケだよ。そもそも“いるハズない”って思ってるんだから。……要するに、人間はとっくの昔に“そういうもの”を見る才能を失ってたってだけなのさ]


[はぁ…………]


 で、それが当プログラムにどう関係あると言うのでしょうか?


[でも君や僕は違う、“霊感のない人間に作られたもの”なのは間違いないにしても、僕らはプログラム上の存在だ。つまり光の反射なんかじゃなくて『情報』でモノを、アイツらを見て確認できる。だからこそ————君にはこれを見せられる]


 そういってスーは懐からビー玉サイズの黒い何かを取り出します。電子世界ではごくごくありふれているデータの一欠片……なのですが、ドライアイスの冷気みたいな何かが(にじ)み出していました。

 何というか、欠片の部分だけを(とつ)レンズ越しに覗いているような、人間が言うところの“オーラ”なる(よど)んだ何かが見えているかのような、そういう視覚的な違和感が拭えません。何がどう問題なのかは分からなくても、()()()()()()()()ここにあるべきではない物体。


[これが駆除したヤツのジャンクデータの一部。生物風に言うなら“肉片”ってとこ。実物はこのちっさいの一つだけど、この周りに何か漂ってるのは見えるだろ? ……これが怨念。こっちの世界じゃこうなるらしい。僕らじゃ触っても何も感じないけどさ]


 ……なるほど、その欠片に顔を近づけてみるといかにも恨みの(こも)った呪詛(じゅそ)のような囁きが聞こえてきます。確かに、何を言っているかは分からなくても“怨念”か“呪い”としか表現のしようがありません。

 そうするうちに肉片は錠剤が溶け出すみたいにみるみるうちに薄れて小さくなり、“怨念”ごと消えていきました。消えると同時に肩に乗っていた重りじみた何かが消えたように感じます。先ほどのスーの説明から考えて、たぶん気のせいとかそう言うモノでしかないとは思うのですが。


[まぁそんなわけで、君が来たタイミングよりこっちの方が早かったって話。このあと所有者(ユーザー)のところに帰って報告するんでしょ? 自分の手柄ってことにして良いよ]


[待って! あなたはこれからどうするつもりですか?]


[“積みゲー”らしくこのPC内に住まわせて貰うさ。どうせ実物じゃないから邪魔にもなんないし、自分から呼びかけるのも違うだろうし。要するに“ご近所さん”としてせいぜい仲良くしようよ、ってね]


 スーはただそう言い残すと、クルッとこちらに背を向けて静かにゴミゴミした電子の街の中へと消えて行きます。

 残された私は無言のまま突っ立って、絶えず変化していく身の回りについて考えていたのでした。

 ……まぁとにかく、そろそろ戻らななくては。

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