93 ここって一体?
ダグラス達勇者パーティーが旅立った。
幸いミザリー達と接触することはなく、トラブルは起きなかった。心配事と言えば、ダグラス王子がよそよそしいことくらいだろうか。何かあったのか心配になる。
というのもダグラス王子だけは、闇落ちのイベントがあるのだ。しかし、それは勇者に選ばれなかったときに起こるイベントなので、勇者となった今は起こらないはずなのだが。
まあ、今はストーリーがぐちゃぐちゃだから、一応は気を付けておこう。
そんなとりとめのない話をアイリスと会長室でしていた。もちろん、開拓村の関係についてもだ。
「なるほど・・・そうやって風のクリスタルを入手するんですね。でもそう考えたらここってその開拓村の完成形じゃあないんでしょうか?だって、他種族が共存しているし、魔王軍もいるし、悪魔までいますからね。
ところで、風のクリスタルを持ってくるハイエルフってどんな人なんですか?」
「ゲームではハイエルフは登場しないのよ。開拓村の責任者に風のクリスタルを預けて去って行くの。プレイヤーは開拓村の責任者から風のクリスタルを受け取るだけだから、会うことはないのよ」
「そうなんですね。どうせなら会いたいですよね?」
「そうね。FFQファンからすればそういったゲームに登場しない伝説の人物に会うのも堪らないわね」
そんな話をしていたところにスタッフが会長室に入って来た。
「バーバラ様とムリエル王女が連れだって来られています。それにエルフの方も一緒に来られているのですが・・・・」
あれ?この展開って・・・・
★★★
~ハイエルフの観察者ディートリンテ視点~
ハイエルフの寿命は1000年とも2000年とも言われている。寿命が他の種族と合わず、別れがつらいので、基本的には他種族と接することはない。しかし、それでは世界と隔絶された存在となるので、観察者という制度がある。観察者の任務は50年に一度、5年から10年かけて世界を回る。そして、その情報をハイエルフの里に持ち帰り、種族で共有するのだ。
僕が観察者の任務に就くのはこれで三度目だ。活動資金はしっかり出るし、外の世界をゆっくりと旅行気分で回れるので、僕は観察者の任務が好きだった。美味しいものが食べられるし、色々な種族と交流できるしね。前回も楽しかったな。もう100年以上前のことだから、そのとき交流した者達は生きてはいないだろうけど。
前回は三大国であるサンクランド魔法国、マリシア神聖国、ランカシア帝国を中心に回ったから、今回は別の場所に行こうと思っていた。そんなとき、ある噂を耳にした。他種族が共存し、急速に発展している町があるというのだ。
酒場で話を聞くと親切に教えてくれた。
「エルフのお嬢ちゃんはロトリア王国って知っているか?」
ハイエルフとエルフは見た目がほぼ同じだ。一般人から見ればどっちがどっちか分からないのは当然だ。僕も普通のエルフのフリをして旅をしている。エルフよりもかなり魔力が強いので、見る人が見ればすぐに分かるのだけど。
「うん、知ってるよ。初代勇者の国だよね。以前行ったことがあるけど、のどかな田舎の国といった印象しかないなあ・・・・」
「実はそこのムリエリアと対岸のバーバリアは一度は行ってみたほうがいいぞ。食い物は新しくて旨いし、珍しい商品も揃っているからな。もし行くならここからだと船でポートシティに行って、そこから街道を進めばバーバリアだ。街道も整備されているからポートシティからはすぐだぞ」
「親切にどうも」
特に決まったルートは考えてない行き当たりばったりの旅なので、とりあえず、そのバーバリアとかいう町に向かうことにした。
言われたとおりのルートでバーバリアに到着したのだが、バーバリアは衝撃の場所だった。500年以上生きてきた僕でも驚くことの連続だった。
かなり発展しているし、噂通り多種族が共存している。ハイエルフから枝分かれした種族であるエルフも楽しそうに暮らしている。亜人ということで迫害される地域もあるので、それだけでこの町は期待が持てた。しばらく町を見て回っていたところ、人だかりができているのを見付けた。気になって近付いてみると、黒いトンガリ帽子に黒のマントを纏った幼女とその後ろを付いて歩く同じくらいの身長の少年がいた。
少年は小さな角と小さな羽があるのだが、集まった野次馬達は特に気にした様子はないのだが、あれはどう見ても悪魔だ。この世界の者ではない。悪魔召喚をしているのか?
そんなことを思いながら野次馬の一人に聞いてみる。
「これから何が始まるの?」
「エルフのお嬢ちゃんはこの町は初めてかい?だったら見ていたら分かるよ。口で言っても分からないだろうからな。まあ、凄いことが起こるから」
しばらくして、悪魔の少年が幼女を抱きかかえて宙に舞った。野次馬からは歓声が上がる。そして、幼女と悪魔の少年が空中で停止した。そして、幼女が海に向かって氷結魔法を放つ。
「アルティメットブリザード!!」
みるみるうちに海が凍っていき、橋のようになって、反対側の大陸とつながってしまった。拡声の魔道具でその幼女が言う。
「皆の者!!すぐに渡らんようにな。これからスタッフがチェックをするからしばらく待て!!勝手に渡ろうとして海に落ちても助けんからそのつもりでな」
私が呆気に取られていると、声を掛けた野次馬の一人が話しかけて来た。
「言っただろう。バーバラ様は凄いんだから」
バーバラ?
その名前に聞き覚えがあった。そんなまさか・・・生きているはずなんて・・・・
そうか!!思い出した。研究中の事故で幼女の姿になり、寿命が飛躍的に伸びたサンクランド魔法国の魔法使いのバーバラだ。前回の観察者の任務でサンクランド魔法国で会っている。魔法や魔法薬について楽しく語り合った仲だ。
僕は急に懐かしくなった。
「バーバラ様って「氷結の魔女」のこと?」
「そうそう、それにここの領主様だよ。小っちゃいけど凄いんだ」
バーバリア・・・・バーバラの名前から命名したのか!!
僕は野次馬に御礼を言い、バーバラに近付いて声を掛けた。
「バーバラ!!覚えている?ディートリンテだけど」
バーバラはキョトンとしている。そして、しばらくしてから、こう言った。
「ディートリンテ!!あのディートリンテか?100年ぶりか?息災そうで何よりじゃ。ところでどうしてここに?」
「前と同じ観察者の任務だよ。素晴らしい町ができたって噂を聞いて来たんだ。バーバラが領主だなんてびっくりだよ。バーバラはあのときのままだね」
「ディートに言われたら世話はないわ。お主こそ何も変わっとりゃせんじゃろうが!!」
こういった再会は初めてだ。もうこれだけでここに来た甲斐があった。ハイエルフやエルフ以外で100年以上生きているなんてそうそうないからね。驚くべきことだ。
しかし、もっと驚く事態がこの後私に待ち受けているのだった。
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