87 人材育成 1
訓練所では壮絶な光景を目にすることになった。ギーガとドーラが戦っている。ギーガは巨大な棍棒を持ち、ドーラは「殲滅の鉄球」を持っている。模擬戦が開始するとギーガが鉄球に追い回され、逃げ惑っていた。しばらくしてドーラが叫ぶ。
「カービングショット!!」
鉄球は急激にカーブして、ギーガの頭にヒットした。ギーガの頭はグチャっと潰れた。
し、死んだ!!
しかし、訓練員達は何事もなかったかのように治療室に運んでいる。しばらくして、私達を見付けたレナードと治療室に詰めているクリストフがやって来た。
レナードが言う。
「これはクリスさん、アイリス王女、お疲れ様です。あの方が来てから訓練になりませんよ。またしばらくしたら帰ってきますからね」
クリストフも続ける。
「蘇生魔法は死亡時の前後の記憶が無くなるというデメリットがあるんです。パーティー活動をしていれば問題ないのですが、あの方はどうも自分は負けるはずがないと思っているようで・・・いつも登場シーンから始まるんですよ」
「そうなんですよ。無駄に強いのでこちらも手加減できませんからね。頼みの綱のドーラさんでも無理でしたね。グチャってなってましたし・・・・そろそろ帰ってくる頃ですね」
本当にギーガが訓練所に戻って来た。クリストフの治療術士としての優秀さを改めて実感した。そのクリストフでも死亡前後の記憶の欠落はどうしようもないみたいだが。
まあ、鮮明に残っていたら、その後フラッシュバックに悩まされたりするだろうから、一概に悪いとも言えないんだけど。
「貴様ら!!舐め腐りおって!!このギーガ様と知っての狼藉か?」
ギーガは巨大な棍棒を振り回している。
ここでアイリスが言う。
「私が行ってきます」
「アイリス、無理しなくていいからね。駄目そうならクリストフさんが何とかしてくれるからね」
アイリスとギーガの戦闘が始まった。圧倒的にアイリスのほうが強いのだが、流石に木剣ではダメージが与えられない。仕方なくアイリスは真剣でギーガを切り裂いた。
「五月雨斬り!!」
ギーガはおろか、棍棒も切り裂かれた。これに反応したのが、クリストフとトルデクさんだった。
「姫様やり過ぎです。ここまでバラバラにされると流石に蘇生させるの大変なんですよ。まずは繋ぎ合わせから始めないといけませんからね」
「今回はもう修理できんぞ。新しいのを買ったほうが安上がりだ」
「分かりました。ヤマダ商会で立て替えます。一番いい物を渡してあげてください」
「そ、そうか?だったら自信作を持ってくるよ」
しばらくして、アイリスが帰って来て、ドーラと話をしていた。
「無駄に固いんですよね。それに喉元に剣を突き付けても止まらないし。そもそもルールも知らないようですからね。ケルビン先生でも難しいんじゃないでしょうか?それにケルビン先生はキレやすいですから・・・今日、ケルビン先生がお休みの日でよかったと思います」
「アタイも難しいね。武器も武器だし。リルリラ祭でも相撲で負けを認めなかったしね。圧倒的に実力差があって、しかも致命傷にならないように加減できる奴じゃないと厳しんじゃないか?」
ミザリーはというと青ざめていた。
「四天王のギーガがこんなにあっさりと・・・あり得ない・・・」
★★★
またまたギーガは戻って来た。今回は新しい棍棒が手に入って少し嬉しそうだ。
「新型の「鬼棍棒」で全員ミンチにしてくれるわ!!」
仕方ない、私が行くか・・・・
「レナードさん、訓練員を全員帰らせてください」
レナードは慌てた様子で訓練員を帰らせていた。
「ミザリーさん、このことは他言無用でお願いしますね」
「は、はい・・・」
訓練所に降りて、私はギーガと向かい合う。
「なんだ、商人の女じゃないか?女でも俺様は手加減できんぞ。怪我したくなかったらすぐに立ち去れ」
女のアイリスに惨殺されたのは覚えてないのね。
「しつこい男は嫌われるわよ。いいからかかってきなさい!!」
ギーガは棍棒を振り回して向かってきた。何度もギーガの戦いを見ているので、動きも癖も理解している。力任せの攻撃ばかりで動きに無駄が多い。才能はあるようだけど、努力も工夫もしてこなかったのだろう。
私は右手に「女帝の鞭」、左手に「ミスリルの鞭」を持って構え、「ミスリルの鞭」にスタン効果のある電撃魔法を纏わせた。そして「女帝の鞭」で向かってきたギーガの棍棒を絡め取った。
「なに!!俺の「鬼棍棒」が!!」
すぐに私は「ミスリルの鞭」をギーガの右足に巻き付けて転ばせる。「ミスリルの鞭」には電撃魔法が付与されているので、ギーガは痺れている。
「もう降参しなさい!!」
「何を生意気な!!これくらい俺様には何でもないわ!!」
本当だ。無駄に頑丈だし、負けを認めない。レナードやアイリスやドーラでも苦労したのが頷ける。まあ、殺すのは簡単なのだけど・・・・
仕方なく「女帝の鞭」で滅多打ちにする。加減しているので死ぬことはないだろう。
あれ?気絶してない?
私は「ミスリルの鞭」から電撃魔法を放ち、電気ショックの要領でギーガの目を覚まさせる。そして、「女帝の鞭」で滅多打ちにする。
「もういいでしょ?降参して」
「何のこれしき、四天王最強のギーガ様には何の効果もないわ」
うーん・・・困った。
そこからは滅多打ちからの電気ショックを繰り返していたのだが、ギーガは一向に負けを認めない。仕方がない。少しコストが掛かるけどやるか。
私は滅多打ちにした後、すぐにライラ特性のポーションをギーガに掛けた。気絶させない作戦だ。このポーションはライラが開発中に失敗した傷に激しく沁みるだけのポーションだ。ギーガの悲鳴が響き渡る。かなり長時間、拷問のようなことをしていたら、とうとうギーガの心が折れたようだ。
「負けだ・・・頼む・・・殺してくれ・・・」
いや・・・「殺してくれ」はないだろう?
周囲を見ると全員がドン引きしていた。私は言う。
「このことは他言無用でお願いしますね」
「「「「はい!!!」」」」
★★★
訓練後、アイリス、リルとリラ、ドーラ、ミザリー、ギーガで会食することになった。ミザリーから事情を聞いたギーガは落ち込んでいた。そしてみんなが手加減していたことも聞かされた。
「そ、そんな・・・俺様は弱かったのか・・・雑魚クラスだ・・・」
ギーガが弱いわけではなく、相手にしたメンバーが強すぎるのだ。頑張ればギーガだってこのクラスにはなれるだろう。今までサボってきた分、苦労はするだろうけど。
しかし、ギーガの心はポッキリ折れていた。
「魔王様・・・今までお世話になりました。魔王軍を辞めさせていただきます。田舎に帰って畑でも耕すことにします」
「ちょっと!!ギーガ、何を言っているの?四天王として頑張ってもらわないといけないのに」
「もう四天王としてやっていく自信は無くなりました。こちらのクリス様やアイリス様、ドーラ様にでもやってもらってください・・・」
これは重症だ。
自信過剰な人ほど、心が折れたときは脆い。ミザリーも困っている。
「分かりました。魔王軍の立て直しには優秀な人材が必要です。私がギーガさんをきちんと育てます。それに最近態度の悪いリルとリラもこの際一緒に鍛えますよ。
リル、リラ!!四天王目指して頑張ろう!!」
「「はい!!」」
お酒が入っていることもあり、勢いでギーガを育てることになってしまった。ギーガはリルとリラと同じ秘書にした。ポンコツ秘書を三人も抱えるなんて、縛りプレイもいいところだ。
どうも私は、駄目な子ほど面倒を見たくなる性格のようだ。
それにしても世界平和、魔王討伐を掲げる私達が魔王軍の立て直しを図っていることは、非常にシュールな展開だ。
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