86 コンサルティング開始
エジル・プリガストンか・・・。
コイツがすべての元凶だったのか。いきなり「お前が犯人だ!!討伐する」とか言っても無理だろうし、まずは証拠捜しだろうな。それにエジルの一派もいるはずだし、その割り出しもしなければならない。これじゃあ、コンサルティングどころか犯罪捜査だ。
でも、まずやるべきことをクライアントに示さなければならない。
「エジルの一派を割り出すことも重要ですが、まずはピエール様の診察をさせてください。こちらには優秀な治療術士も錬金術師もいますし、200年以上生きている大魔導士(今はアイドルスターだけど)もいますから」
「それは有難いです。すぐに手配します」
「でも、エジルに気付かれないようにしたいですね」
「だったら私が行って参ります」
セバスはそう言うとすぐに消えてしまった。というか、魔王様を一人にしていいものだろうか?
「あのう、魔王様が御一人になられてもいいのでしょうか?ここは言ってみれば敵地のようなものですし」
「ああ、そうですね。こう見えてもそこそこ私も強いですからね。クリスさんには負けるかもしれませんが」
「そんな、私なんてか弱い女商人ですから」
「それは通用しませんよ。もう調べはついてますからね」
「そうなんですね。いつから私が怪しいと疑い始めたか伺っても?」
「そうですね。セバスをリルリランドに派遣して、セバスからの報告を聞いてからですね。それにリルリランドでも調査はしましたし。せっかくなんで資料もお見せしますね」
資料を読む。
まずはセバスが書いた報告書からだ。
「おかしい、なぜだ?こんな基本的な事務処理もできないなんて。この程度の能力で、ここまで領地を発展させたのはおかしすぎる。絶対に裏で糸を引いている奴がいるはずだ。今のところ、リルとリラが洗脳されている様子はない。可能性があるとするなら、リルとリラが潜入しているヤマダ商会の関係者だろう。私としてはクリス会長が怪しいと思うが、決定的な証拠がない。今の段階で問い詰めてもはぐらかされるだけだろう。もう少し粘り強く調査する予定だ」
更に続く。
「意図的に仕事を避けているのか?ボロが出ないように?なんとかして証拠を掴もうとするが、いつも逃げられてしまう。それとなく質問をしても『うるさい、忙しい』しか言わない。活動実績報告書の文体とクリス会長にしてもらった事務処理の文体が酷似している。ますます怪しいが『代書を頼まれただけ』と言われればそれ以上は追及できない」
これを見る限り、かなり早い段階で怪しまれていたのだろう。リルとリラが仕事をせずに逃げ続けていたのは偶然とはいえ、正解の行動だったのだろう。
続いて、リルリランドの住民から調査した内容を見る。
「リルちゃんとリラちゃんは昔からいい子だったよ。可愛らしいしね」
「頑張ってるけど、いつも残念な結果になってたから成功してよかったよ」
「多分、いい人に拾われたんだね」
「普段苦労しているだろうから、ここに来たときくらいは、王様気分にさせてあげたいね」
「商会の人もここに来たときだけは、リル達がトップのように接しているよね。あの二人がトップだったらすぐに倒産だろうけどね」
町の人もよく見ている。それに気付いた上で、リルとリラが喜ぶように知らないふりをしていてくれたのだと思うとなんだかほっこりする。
「貴方程の人がバレないと思ったことが不思議でなりません。どんな意図があったんでしょうか?」
「いやあ・・・単純にリルとリラの喜ぶ顔が見たかっただけですね。最初は下級工作員で止めておくつもりだったんですけど。昇格したり、評価される度に『やりましたよ!!昇格です』『私達が評価されてます。ありがとうございます』とか凄く嬉しそうに喜ぶんですよ。いつかバレる日が来るとは思ったんですけど、なかなか止められなくて・・・・」
「貴方は不思議な人ですね。冷静に計算ができるかと思えば、情に流されたり・・・嫌いじゃないですけど」
「ありがとうございます。それに騙してすいません」
何となくだけどミザリーとは上手くやれそうな気がした。せっかくなので、町を案内することにした。ついでにアイリスも誘ってカフェでお茶をしたり、買い物をしたりした。アイリスは凄く驚いていたけど、「もう、何でもありですね」と言って笑っていた。
「本当に良い町ですね。私もこんな町を魔王領にいっぱい作っていきたいです」
「そうできるように頑張りましょう」
日が傾き始めたころ、ギーガを訓練所に行かせたことを思い出した。
「そうだ、ギーガさんを訓練所に行かせたままでしたね。夕食はこちらで準備しますから、ギーガさんを呼びに行きましょう」
★★★
~ギーガ視点~
なぜだ?
このギーガ様が訓練だと?
まあ、魔王様に言われたのなら仕方がない。俺様は訓練所に向かうことにした。とりあえず訓練所で人間どもをサクッと倒して、魔王軍の威光を示さねばな。
リルリラ祭ではとんだ不覚を取ったが、今回は念には念を入れて耐久力も攻撃力もある「鬼棍棒」を持ってきた。前回はデザイン重視の物を持ってきたので耐久力がなかったようで、すぐに折れてしまった。
俺様達オーガ族は「鬼棍棒」にこだわりがある。軽さを重視する者もいればデザイン重視の者もいる。まあ、俺様クラスになると状況によって使いわけるのだがな。
訓練所に着くと大して特徴のない職員の男が声を掛けてきた。丁寧な言葉遣いと俺様を敬う姿勢は評価してやろう。しかし、他の訓練員がいただけない。この俺様に対して「朝の走り込みから参加しろ」とか「礼儀正しくしろ」とか言ってくる始末だ。腹が立ったのでぶん殴ってやった。
しかし、そこから俺様の記憶が無くなる。
気が付くと治療室のベッドに寝かされていた。まさか、俺様の強さに恐れた人間どもが不意打ちで、変な魔法でも掛けたに違いない。矮小な人間どもめ!!許さん。
訓練所に戻り、こう言ってやった。
「卑怯な人間どもめ!!皆殺しにしてやる!!」
すると特徴のない職員の男が俺様に近付き、こう言った。
「このパターンは初めてですね。まあ、いいでしょう」
そこからまた記憶が無くなる。気が付くとまた治療室のベットの上だ。しかし今回は特注の「鬼棍棒」が真っ二つに切り裂かれていた。そうか、あの親切そうな職員の男が俺様に魔法を掛け、「鬼棍棒」を壊したのだ。正々堂々と勝負すればいいものを・・・・
俺様が怒りに任せて訓練所に戻ろうとしたとき、ドワーフの男に声を掛けられた。
「こっちの棍棒を修理すればいいんだな。結構雑に作ってるなこれば・・・ほら、直ったぞ。あまりいい物じゃないから買い替えたほうがいいぞ。ウチに来てくれたら安くしとくぜ」
高級品の「鬼棍棒」が雑な作りだと!!
しかし、修理の腕を見るとこのドワーフはかなりの職人と見た。俺様は職人には敬意を払うことにしている。
「礼を言おう。その腕なら従者として召し抱えてもいいと思っているぞ」
「それは有難いことだ。でもまあ、今の生活も気に入っているからな」
馬鹿な奴だ。
俺様が誰か知らんらしいな。もう少し勧誘してもいいが、俺様はやらなければならんことがある。あの親切そうな職員の男に制裁を加えねば!!
「よくも卑怯なことをやってくれたな。本気を出してやろう」
すると今度は獣人の女が出て来た。
「ここまでしつこいとは・・・・レナード先輩、ここは私が」
「大丈夫ですか。結構強いですよ。キアラさん一人ではちょっと・・・・」
そうか、一人では俺様に勝てないということは、多分何か卑怯なことをしているんだ。しかし、本気の俺様は違うぞ。俺様は魔力を込めると体を2倍~3倍に大きくできる。それに合わせて力も2~3倍になるのだ。人間にこの姿で戦うのは初めてかもしれん。
「人間ども!!ごちゃごちゃ言わずに全員でかかってこい!!」
あれ?
なんでまたベッドの上にいるんだ?
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