85 魔王様からの依頼
「一介の商人でございます。仕事内容によりますが、ある程度のことは対応できると思います。料金は応相談ですが」
魔王ミザリーからの問いに私なりに考えて出した答えだ。
「日本から転生し、勇者パーティーに入らないためにした」なんて言えるわけないし、言っても「ふざけるな!!」とか言って殺されるかもしれない。
なので、あくまでも商人としてリルとリラに関わっているということにした。元々商社に勤めていたから商売は好きだしね。
「フフフフ、あくまで「商人」として、リルとリラに協力していたということですね。それでは、「商人」としてのポリシーを教えてください」
「ポリシーですか・・・商売を通じて関わった人を笑顔にすることです」
「なるほど・・・リルリランドの発展を見るとみんなを幸せにしたいという貴方の言葉に嘘はないと思います。
分かりました。貴方を信じて、魔王軍からヤマダ商会に正式に依頼を出します。内容は魔王軍の立て直しです。コンサルティングというのですよね?それをお願いします」
「はい?」
なぜか分からないが、コンサルティングの仕事を受けてしまった。それも魔王軍のだ。悩んでいたところ、ギーガが声を上げる。
「魔王様!!こんな人間に頼まなくても、四天王最強のギーガに任せてもらえれば・・・」
「黙りなさい!!リルリラ祭での貴方の言動も四天王失格です。四天王に相応しい力と態度が身に付くまで、修行でもしてきなさい。それまで、四天王を名乗ることは許しませんよ」
ギーガはショックで打ちひしがれていた。まあ、相撲でドーラに投げ飛ばされ、勝てないからといって武器を持ち出すような奴は四天王に相応しくないだろう。私はギーガに言った。
「ここには訓練所がありますから、そこで修業してみればいいのでは?来る者拒まずですから」
「そればいい考えですね。行ってきなさい!!」
「は、はい!!」
ギーガは怯えて出て行ってしまった。
「リル、リラ!!訓練所に連絡を!!それと今日の訓練所の治療術士さんを確認して、あまり腕が良くないようだったら、クリストフさんか分隊長さんに依頼をしてね」
「「はい」」
リルとリラも後を追う。
「流石にギーガも多少の手加減はすると思いますが・・・」
「いえ、逆です」
「はい?」
多分、ミザリーは知らない。ギーガ程度なら訓練所の職員にすら勝てないことを・・・・
「それではまず、魔王軍の現状と今後魔王軍をどのようにしたいのか?
またミザリーさんが感じている問題点なども教えてもらえますか?それと、ミザリーさんはお若いのに魔王なんですよね。魔王になった経緯も教えていただければ」
「そうですね。まず先代の魔王は私の兄ピエールです。病に倒れたので、私が魔王をすることになったのです。以前、リルリラ祭でクリスさんに言った通り、「ゴブリンやインプなどの弱小種族やハーフでも幸せに暮らせる魔族領にしたい」と思っています。問題点というか、何というか・・・・」
ミザリーは言いづらそうだった。代わりにセバスが言う。
「魔王軍の、それも幹部クラスに裏切り者がいるのです。
気付いたきっかけは、リルとリラの活動実績報告書でした。理路整然と書かれた報告書は各国の情勢が事細かに記載されていて、それまでの報告書と一線を画すものでした。私も先代のピエール様もミザリー様もこの報告書の素晴らしさには感心するとともにある程度人族の情勢が分かるようになったのです。人族も魔族や亜人、獣人と共生を目指している国もあれば、排斥しようという国もある。本音では他種族との共存を望みながら大国の意向に逆らえず、他種族排斥の政策を取っている小国もある。人族も一枚岩ではないことが理解出来ました。
そこで、一つの疑問が生まれました。しきりに人族領への侵略を提案する一派が上げてくる情報に偏りがあるのではと。百聞は一見に如かずです。こちらをご覧ください」
セバスが見せてきた資料を確認する。文章自体は以前見せてもらった酷いものではなく、それなりに整っていたが、内容が嘘だらけで悪意を感じる。
「人族は魔族を皆殺しにするため、協力して軍隊を編成している」
「すべての国で魔族や魔族のハーフは迫害されている」
という情報系のものや、実際に人間に魔族の村が襲撃され、蹂躙されたというのもあった。すべての国で、魔族や亜人達が迫害されているわけではないし、そもそも軍隊を編成できるほど協力関係にはない。勇者パーティーが編成されたのだって、「恐怖の魔王が誕生した」という教会のお告げがあり、何もしないわけにはいかないからというのが本音だ。悪い魔王だけをササっと倒して平和になればいいという感じだろう。魔王にとってみれば、勇者パーティーなんて暗殺者かテロリストみたいなもんだろうけど。
そして、襲撃されたという村だが、そもそもの原因が領土問題だ。最近始まったことではなく、もう何十年もやっている。双方の領地に魔族も亜人もいるし、だいたいが小競り合いで終わる。偶にやり過ぎてしまうことはあるらしいけど。そのやり過ぎた出来事を切り抜いて報告しているようだった。
更に読み進めるとあることに気付いた。やけに具体的な内容が書いてある。それはマリシア神聖国で人間至上主義のクラン派が起こしたクーデターだ。これは内部の人間じゃないと書けない内容だ。しかも締め括りにこう書いてあった。
人間至上主義者が大半を占めている現状では、こちらから攻め込む以外に魔族が生き延びる道はない。
人間至上主義なんていう極端な教義は少数なのに・・・・ということは悪魔神官となったパーヨックもある意味被害者なのか?
そういえば、「魔王様!!どうか私の無念を晴らしてください!!」と叫んでいたし・・・
更に気になることもある。
病に倒れたという先代魔王ピエールは病ではなく呪いではないのだろうか?
ゲームではミザリーが呪いを掛けられたという設定だったが、何かのきっかけでピエールが呪いにかかったのかもしれない。
そんな風に思いを巡らせていたところ、ミザリーから声を掛けられる。
「クリスさんどうでしょうか?」
「そうですね。明らかに間違った方向に誘導しようとしてますね。それにピエール様のご病気も人為的なものかもしれませんね。病に倒れた経緯を教えてもらえませんか?」
「本当ですか?兄が病に倒れたのはちょうど誤った情報が多数上がってきているのではないかと疑問を感じ始めた時期でした。そのころはまだ、リルとリラのほうが間違った情報を上げてきている可能性も否定できないと思っていたので、セバスはリルリランドへ、私は各地を巡って情報が正しいかどうかの検証をしていました。
どのように倒れたかは分からないのですが、従者が言うには前日まで元気だったのに急に倒れたらしいんです。治療術士がいくら頑張っても回復する兆しはありません」
だったら間違いなく人為的な何かだ。
「状況から考えて、誰かが薬を仕込んだか、呪いを掛けたか・・・・それも近しい人物でしょうね。魔王様にそんなことができる者なんて限られているでしょうし。リルとリラなら絶対できないでしょう」
「ミザリー様、やはりあの者です。エジル・プリガストン、四天王の一人で「闇の錬金術師」と言われている男です」
エジル・プリガストン。
間違いない。ゲームにも出て来た裏ボスの名前だ。
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