79 リルリラ祭 1
「旧転職神殿の関係も勇者パーティーの一件も片付いたし、そろそろリルリラ祭をやりますか?」
「やったあ!!」
「ありがとうございます」
リルとリラは大喜びだ。
リルリラ祭とは、リルリランドでリルとリラの「忍者」昇格祝いをするお祭りのことだ。色々と立て込んでいて、ここまで遅くなってしまった。少し申し訳ないと思っている。それにリルリランドの住民の要望もかなりあったので、大々的に行うことになったのだ。
「まずは食品関係だけど、アイリスのほうはどう?」
「こちらは準備万端です。クリスさんの「空間収納」のスキルだよりですけど、いい感じですよ。この日のためにアースドラゴンもかなり狩りましたしね。後はいつも通りの豚骨ラーメンと雲のかけら(綿アメ)、アイスクリームも用意してますよ。そして、リルリランドの名産のジャガイモを使ったフライドポテト、コロッケ、じゃがバターも販売予定です」
「販売スタッフは何とかなりそう?」
「住民達が手伝ってくれる予定です。基本的に調理済みで、温めるだけですから何とかなりそうです」
アイリスも頼もしくなった。
次はエンタメ関係だけど・・・・
「妾に任せておけば大丈夫なのじゃ。しかも今回の新曲はリルとリラも一緒に歌って踊る「忍者×2バーバラ」じゃ。リルとリラも振付をマスターしておるからのう。バックダンサーを連れて行けんからそこは不満じゃが、何とかなるだろう」
リルとリラもステージに立つのか・・・
そういえば夜遅くまで練習していたなあ。
ムリエル王女が言う。
「サマリスお兄様とドーラは既に現地で会場設営を行っています。それにライラさんも当日のスタッフに対して指導しています。特に問題はないようです」
今回からライラとムリエル王女、「謎の盗賊団」のメンバーを連れて行くことにした。
魔王軍には工作活動が成功し、優秀な錬金術師のライラ、ロトリア王国のムリエル王女とサマリス王子を取り込んだと報告している。それに諜報活動に必要な直轄組織という位置付けで「謎の盗賊団」の活動も報告していた。
ムリエル王女もサマリス王子も「すべての魔族が悪いわけではない。平和を脅かす魔王が悪いだけだ」という考えなので、今回のリルリランド行きも特に反対されなかった。逆に魔族領を見られると言って興奮していたくらいだった。
★★★
転移スポットを利用して魔族領に入る。転移スポットにはサマリス王子が待機していた。
「こっちは準備できてるよ。さあ、パレードの準備をしよう」
ここからリルリランドまでをパレード用のホバークラフトに乗って、移動するようだった。嬉しそうにリルとリラがホバークラフトに乗り込む。
私達はリルとリラの従者という立ち位置なので、ホバークラフトを運転するバーバラ以外はすべて歩いての移動になる。
街道の脇には多くの観衆が詰めかけていた。リルとリラは嬉しそうに手を振っている。
アイリスが私に話しかけてきた。
「一応、秘密で任務を遂行する「忍者」ってことなのに、こんなに大々的にパレードしていいのでしょうか?」
「まあ、リルとリラは「変身」のスキル持ちだから、諜報活動はそれで何とかなるし、魔王軍自体がその辺の関係がユルユルだからね」
敵対している私達が言うのも何だが、魔王軍の組織管理は酷い。功績を評価するのも基本的に自己申告だ。提出された活動実績報告書を確認して、特に問題がなければ評価ポイントが加算される仕組みなのだ。以前に執事のセバスに少し他の人の活動実績報告書を見せてもらったが、これも酷かった。
「○○村を占領した。領主が軍を率いて討伐に来るらしい。来たらまた返り討ちにする」
「○○王女を攫った。奪還に精鋭部隊が来るようだ。多分なんとかなる」
だから何?
というレベルの内容がほとんどだ。中には有名パーティーを内部崩壊に追い込んだりした優秀な工作員もいるようだが、組織として成り立っていない。魔王軍もトップがキチンと方針を示さなければ、上手くいかないだろう。だってこれじゃあ、営業マンが勝手に仕事を取って来て、仕事を進め、上手くいけば昇進させるって言っているのと変わりはない。
これで何とかなっているのは、実力至上主義の魔族社会で、絶対的な力とカリスマ性がある魔王がいるから成り立っているようなものだ。
「そうなんですね。だったら、リルとリラは凄く期待されてるんじゃないでしょうか?私が魔王だったらすぐに昇進させると思いますよ」
「そうね。リルとリラはもう「魔将」という幹部クラスの地位だし、魔王軍の運営にも参加するように打診があったしね。ちょっとやり過ぎた感じはあるけど、いきなり実績を落とすのも怪しまれるし・・・」
「悩むところですね。まあ、今日はリルとリラの喜ぶ顔を見ながら、私達も楽しみましょうよ」
パレードは進み、リルリランドに到着した。
ここでも盛大な歓迎を受ける。リルとリラは特設の野外ステージに案内された。ここでいきなりバーバラと三人のユニットが新曲を披露して盛り上げるようだ。
まあ、これ以上ない位にツカミは完璧だろう。
曲が始まり、会場の盛り上がりを確認した後、セバスと接触する。
「これはクリス殿、ここまで盛大に開催していただき、感謝しております」
「ところで緊急の案件とかはないですか?一応注意はしているんですけど、二人とも聞いてくれなくて」
「ああ、なんとか処理できておりますよ。それで今日は少しお願いがありまして・・・・。ミザリーさん!!こっちに来てください。リルリラ祭の間だけで結構なんで、少しこちらのミザリーに指導をしていただけないでしょうか?」
現われたのは、ダークエルフの女性だった。
ダークエルフは、魔族とエルフのハーフだ。透き通るような白い肌が特徴のエルフに対して、ダークエルフは褐色の肌をしており、エルフの特徴である長い耳はそのままだ。
ここで断って険悪な雰囲気になってもいけないので、受けることにした。
「分かりました。といてっても、見回りをするくらいで、特にすることはないのですが。準備も終わってますし、トラブルがあれば対処するくらいですので、ご希望に沿えるかどうか・・・」
「ある程度のことは資料を見て勉強をさせてもらいましたから、見回りの途中で質問に答えてもらえればと思ってます」
「ところでミザリーさんはどういった経緯でこちらへ?」
「実はですね。兄が病に倒れまして・・・・それで兄に代わって領地経営を始めたのですが上手くいかず、急速に発展しているリルリランドを参考にしようと思ったんです。リルさんとリラさんにはお手紙を送っていたのですが、なかなか返事が来なくて・・・」
ああ、リルとリラは書類の処理が全くできないからな・・・
ここに可哀そうな被害者がいた。
「それは大変でしたね。私で良ければ協力しますよ」
そこから実際に祭りを見て回りながら解説をする。ミザリーさんはかなり勉強しているようで、質問も的確だった。
「その地域にあった産業を興すのですね・・・初期に必要な資金はどうやって調達すればいいのでしょうか?」
「そうですね。借入になると思います。将来利益が見込めるのであれば、ヤマダ商会から融資してもかまいませんよ」
「分かりました。今のところ、騎竜と魔石の販売を考えてます。こちらの騎竜よりも優秀な騎竜を多く抱えていますし、領地には魔石が多く取れる地域もあるのですが・・・」
「それは本当ですか?よければ一度視察させてもらえればと思います」
なかなか優秀な領主になりそうだ。それに志も高い。
「兄も私もゴブリンやインプなどの弱小種族やハーフが虐げられていることは許せません。その者達も安心して暮らせる領地にしようと考えています。だから、ハーフや弱い種族を大切にしているリルリランドのことを学ぼうと思ってここに来たのです」
しばらくは祭りを楽しみながら、見回りをすることにした。
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