77 交渉
バーバリアでゲルダさんと会談することとなった。
メンバーは私とアイリス、ライアット、勇者パーティーの代表としてマリアが出席することになった。勇者パーティーの代表としてマリアが出席することにダグラスは難色を示した。しかし、こちらで説得をした。
というのも、交渉の鉄則として、いきなりトップが矢面に立たないというのがあるからだ。勇者パーティーは今のところ4人なので、ダグラスもある程度把握できているだろうが、大きな組織ともなると現場を全く知らないトップが交渉にあたると大変なことになる。トップ同士で勝手に決めてしまって現場が大変になることもよくある話だ。
それにマリアはかなり優秀だ。勇者パーティーの中で一番こういった交渉ごとに力を発揮するだろうし、臨機応変な対応も取れるだろう。
後はアイリスとライアットの立ち位置だが、一応サンクランド魔法国とランカシア帝国が仲裁に動いてくれているという意思を示すためだ。
よくある手段で、まあそこまで偉い人に言われたら、今回だけは・・・・みたいなパターンを想定してのことだ。
★★★
いよいよ交渉が始まる。
ヤマダ商会の応接室に入ってきたのは、小柄で黒髪、目元がアントニオさんに良く似ている美人さんだった。もちろんゲルダさんだ。
挨拶を交わした後、早速本題に入る。
「勇者パーティーのマリア・テレザでございます。この度はウチのリンダがご迷惑をお掛けしまして、本当に申し訳ございません。現在リンダは王都アリレシアで拘束されております」
とりあえず、こちらが反省している姿勢を示さなければならない。よくある失敗として、謝罪もそこそこに営業活動をして更に怒りを買うパターンがある。今回は船の入手は二の次で、とりあえず許しをもらうことが先決だった。
後は相手の出方だが・・・・
「マリア様、お顔をお上げください。今回は行き違いがあったことが原因のようですからね」
何とか謝罪は受けてもらえるようだった。
「祖父のアントニオから話は聞いています。まあ、世界平和に関わることですから船を提供すること自体は検討をしていました。当然、無償というのは承服できませんがね。それにそちらのクリス様は優秀な商人ですからそれなりの条件を提示していただけると楽しみにしていたんですよ。
どこまで、釣り上げれるか、又は安く買い叩かれるか・・・そんな勝負を楽しみたかったんですけど。今回の件で事情が変わってしまいました」
ゲルダさんは続ける。
「というのもここで勇者パーティーに船を提供してしまえば、シャーロック商会は「脅せば何とかなる商会」という風な見方をされてしまいます。全従業員の安全にも関わることになりますから船の提供はお断りさせていただきます。
しかし、謝罪は受け入れ、今回の件は不問にさせていただきますので、その辺は心配なさらないでください」
改めて思う。
リンダ!!本当に余計なことをしてくれたと。
しかし、ゲルダさんは交渉の余地はないと言いながらも、私との商談を楽しみにしていたと発言している。そこから考えるともしかしたら、交渉を有利に進めるためのブラフかもしれない。
まあ、駄目元で少し交渉してみるのもいいかもしれない。
「ゲルダ様、謝罪を受け入れてくれましてありがとうございます。ところで、こちらがシャーロック商会が権力や脅しに屈したのではないということを世間に知らしめれば、船をお貸ししていただくことが可能ということでしょうか?」
「まあ、条件にもよりますが、難しいでしょうね。話だけは聞かせてもらいましょうか」
これならまだ交渉の余地はある。
ここで私の立場を一度整理しておこう。ロトリア王国の使者であると同時に勇者パーティーとゲルダさんを繋ぐ仲介業者のような形になる。謝罪を受け入れてくれたので、使者としての使命は果たしたことになるから、後は上手く、交渉を進めることだけだ。
「ところでマリア様、船を入手したならどういったことに使う予定でしょうか?」
自分で言っておきながら思うのだが、その質問は愚問だ。ゲームの勇者なのだから好きに冒険を楽しむために決まっている。しかし、ここはゲームの世界であってゲームの世界ではない。「俺達は勇者だから船を寄越せ」では通用しないのだ。
マリアは答える。
「もちろん最終的には魔王を打ち倒し、世界を平和にするためです。具体的に言うと世界に散らばる4つのクリスタルを入手するためなのです。4つのクリスタルがあれば魔族領に入ることができます。今のところ、火のクリスタルがマードミスト地方にあるという情報を入手しました。まずはそこに行きたいと思っています」
ゲームでは船を手に入れたら一気に自由度が上がる。クリスタルは火、水、風、土の四種類あるが、どれを先に入手するかはプレイヤーの自由だ。オーソドックスなのは火、水、風、土の順番で入手していく方法だ。この順番で行けば、難易度も徐々に上がっていくので、レベルも自然と上がる。
ダグラス達もまずは、火のクリスタルを入手するようにしていたらしい。
ここで私は一つの提案をする。
「ゲルダ様、勇者パーティーを雇用するというのはどうでしょうか?」
流石にこれはゲルダさんも想定してなかったようで、驚愕の表情を浮かべる。
「勇者パーティーを雇用ですか?ちょっと言っている意味がよく分からないのですが・・・・」
★★★
多分これで、ゲルダさんは冷静さを少し失ったと思う。ここがチャンスだ。私はプランの一つを説明する。
「先程、マリア様が仰られたように、とりあえずマードミスト地方にたどり着ければ問題ないと思うのです。活動状況によって別の場所に赴くこともあるでしょうが、現時点ではどこに向かうかも分からない状況です。そこで提案なのですが、勇者パーティーを商会員として雇用するのです。そこに向かうまでの間、護衛として活動してもいいでしょうし、居るだけでも大きな利益になると思いますよ」
ゲルダさんは落ち着きを取り戻したようで、的確に質問してきた。
「私どもが勇者パーティーを雇用するメリットをもっと具体的に教えてもらえませんか?」
よし、食い付いてくれた。
「コバンザメ輸送はご存じですか?」
「もちろんです。私どもは専らされる側ですけどね」
コバンザメ輸送は、大商会などの移動に合わせて街道などを移動する方法で、小さな商会が護衛代を浮かせるためにするものである。街道は誰がどんなペースで進んでも基本的に自由だ。偶々一緒のペースで進んでいると言い張ったらそれで終わりだ。マナー違反ではあるが、犯罪でもない。
ヤマダ商会もよくそのようなことをされるが、最近ではそれを逆手に取って商売をしているのだ。
「もし、勇者パーティーが護衛に就いていると分かれば、商人だけでなく、物見遊山の貴族や一般の旅行者も付いてきますよね。そこで、その者達を対象に商売をするんですよ。露骨に護衛料を取れば文句はでますが、あくまでもサービスとして、適正価格で食料品等を提供すればかなりの儲けになると思います。また、そこから提携している宿などを紹介すればどうでしょうか?」
「なるほど、少し考えさせてください。とりあえず明日、回答させていただきます」
「分かりました。いい返事をお待ちしております」
とりあえず、明日を待つとしよう。
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