50 転職神殿をぶっ潰す 2
宰相の案にムリエル王女が質問する。
「ロトリア王国としては、マリシア神聖国と事を構えないというスタンスでいいんですよね?でも、相手が干渉してきたらどう対応しますか?」
「基本的には、『ロトリア王国は関係ありません』で通します。詭弁と建て前をフル活用していますが、マリシア神聖国はサンクランド魔法国とランカシア帝国を相手に二正面作戦をすることは考えづらいと思います」
まあ、そうだろう。本気で戦争したところで、採算が取れないだろうし、大国を二つまとめて相手にする程の軍事力はないだろう。
ここでサマリス王子が発言する。
「ただ、バーバリアが発展し、こちらのバーバリア転職神殿が軌道に乗れば、嫌がらせくらいはしてくるだろう。なので、最低限城壁を構築し、警備兵を増強するくらいはしなければならないだろうな」
サマリス王子がなんか、まともなことを言っている。最近、本当に勇者っぽい。
ここでドーラが言う。
「囚人の身分で言うのもなんだが、その仕事アタイらにさせてもらえないか?
子分達の中には『トンネルを作った感動をもう一度味わいたい』って奴が多くてね。だから、給料はある程度でいいからアタイらに仕事をくれないか?「建築士」や「土木技術者」のジョブ持ちも多くいるしね。それと、神殿も作るんだろ?そっちのほうも頼むよ」
「ドーラ、私も同じ意見だ。引き続き「ファースト・ファンタジー株式会社」で受注しよう。会社の業績が上がれば、利益を得られる商人や貴族達は賛成してくれるだろうしな」
上手く行きそうだ。
そんなとき、狸宰相に話を振られる。
「ところで、今日はクリス殿は大人しいですな、何かご意見はありませんかな?」
まあ、確認というか決意というか・・・言うだけ言っておくか。
「国同士でことは構えないというのは分かりました。但し商人として商売相手と競い合った結果、運悪くもめごとに発展する可能性もあります。その場合は叩き潰してもいいんですよね?」
場が静まり返る。
沈黙の後、狸宰相は言う。
「そうだ!!王都で緊急の案件があったんだ。私はこれで失礼させていただきます。ああ忙しい・・・」
コイツまた逃げやがった。
まあ、「こっちは知らないから、好きにしてくれ」という意味に受け取っておこう。
★★★
緊急会議から1ヶ月が経った。バーバリア転職神殿も建設が終了し、バーバリアを囲む城壁も9割方完成している。余談だが、こちらの世界はスキルと魔法があるので、普通の民家なら1日で建てれてしまうのだ。羨ましい限りだ。
なので、そろそろ私達が反撃に出ることにした。
「リル、リラどう?行けそう?」
「OKです」
「朝飯前です」
私とリルとリラは、転職神殿に来ている。今は真夜中だ。
今日のミッションは、転職神殿から「転職の水晶玉」を盗み出すことだ。
デブラスの話では「転職の水晶玉」は大きく分けて3種類あるそうだ。一つはゲームに登場するごく一般的なジョブ用の水晶玉、二つ目は「建築士」や「土木技術者」のようにゲームに登場しないジョブ用の水晶玉だ。そして三つ目は通称「呪いの水晶玉」と呼ばれるかなりマイナス補正の入ったジョブに転職させられる水晶玉だ。三つ目はゲームでクリスがステータスを下げられたときにリルとリラが使ったものと推察される。
基本的に一つ目と二つ目の水晶玉があれば転職神殿は営業できるそうだ。頑張ってマイナス補正の入ったジョブに転職する者なんていないだろうし。
前置きは長くなったが、私達が「転職の水晶玉」を盗むのには理由がある。
現在、転職業務を行えるのは神官2人と神官見習い2人、これに神殿長を加えた5人で業務をこなしている。神殿長を除く4人は、「転職の水晶玉」を自室ではなく、業務終了後に保管庫に一括保管しているという。これを盗み出すのだ。そうすれば、5人のスタッフがいても一度に転職業務を行えるのは一人なので業務は滞るだろう。
ちょっとした嫌がらせと次の作戦への足掛かりとなるのだ。
本当に簡単に保管庫に侵入できた。私達が「忍者」ってのもあるが、警備が杜撰過ぎる。まあ、「転職の水晶玉」を盗みに来る奴なんてそうはいないだろうから仕方ない。鍵はしてあるが、「解錠」のスキルを使わなくても大丈夫なくらいだった。
「お頭、かなりの数がありますぜ」
「そうです。お頭、こりゃあ骨が折れますなあ」
「ちょっと、お頭は止めてよ。それに盗賊みたいな話し方止めて、まるで私達が泥棒みたいじゃないの」
「間違いなく泥棒です」
「そうです。夜中に倉庫に忍び込んで、物を盗むのが泥棒じゃなかったら何なんですか?」
「それはほら・・・正義の味方よ。義賊よ。それは置いておいて、この数なら何とかなるわ。全部持って帰るね」
私は「商人」のマスタースキルの「空間収納」で水晶玉を手当たり次第に収納していく。
「さすがお頭でさあ」
「それに義賊も泥棒ですよ」
まあ、そうだけど・・・
私は二人の設定にちょっとだけ付き合うことにした。
「じゃあ、ずらかるよ」
「「ヘイ」」
★★★
「転職の水晶玉」を盗み出した翌日、転職神殿は大騒ぎになったという。
いい気味だ。次の手を打つ。
調査したところ、神官見習いの二人は女性でベテラン神官にセクハラを受けているようだった。それに雑用を押し付けられ、給料もピンハネされているみたいだ。この二人を引き抜くのだ。
ここはサマリス王子とクリストフに活躍してもらう。
二人に勤務終わりの神官見習いに声を掛けてもらった。最後までクリストフは「私は姫様一筋です。それに女性を騙すような真似はできません」と言って、頑なに断っていたけどアイリスに「クリストフしかいないのよ。お願い、信じてる」と言われ、大喜びで引き受けていた。
この二人は無駄にイケメンなだけに女性の神官見習いはすぐに話を聞いてくれた。
サマリス王子がさりげなく言う。
「僕達はそこの屋台のスタッフとして働いているんだ。よかったらうちの屋台に来てくれないか?お客さんがほとんどいなくて、料理が無駄になってももったいなし、この際タダいいから?」
「ええ、なんかナンパみたい」
「本当にタダなの?」
「とりあえず、ドリンク3杯と料理3品はタダにするよ。それで美味しかったら一品位追加で頼んでくれたらいいから」
二人は悩んだあげく、結局屋台にやって来た。
まあ、料理には自信があるし、二人の好みもリサーチしているから、一口食べればこっちのもんだ。
「本当に美味しいわ。こんなの今まで食べたことない」
「屋台を出すときは言ってくれれば、必ず食べに来るわ」
料理を食べ、アルコールが入っていることもあり、会話も弾む。次第に愚痴をこぼし始める。
「クソ!!腹が立つ、あのエロ神官め。何かにつけて、体を触ろうとしてくるし・・・」
「それに偉そうで、雑用は全部私達に・・・・」
そろそろ頃合いかな。
私はクリストフに合図をする。
「私は、実は「パラディン」なのです。美しいお二方を新しくできるバーバリア転職神殿にスカウトに来たのです。待遇面ですが、月に・・・・・」
給料は今の倍、休みも十分ある。
「ところで、クリストフさんは独身なんですか?もちろん一緒に勤務してくれるんですよね?」
「独身は独身ですが、私は姫様・・・」
そう言いかけたところで、サマリス王子に止められた。
「コイツはこう見えてかなり奥手でね。可愛い君達に声を掛けられなかったから、俺に頼んできたのさ。働くのもお試しでいいからさ。それで、よければ移籍すればいいんじゃないかな?
いきなり転職するのも不安だろ?転職神殿なだけに・・・」
何とか誤魔化した。
後日、面接にやって来た二人はすぐに移籍してくれることになった。意外にもデブラスは人望があり、同じくらいの年齢のクルエラも転職業務に従事していることが決め手になったようだ。
こんな感じで転職神殿からのスタッフ引き抜き活動は続く。獣人のスタッフは神殿長が交代すると同時に解雇を言い渡されていたので、すんなりと移籍してくれたし、真面目だけど不遇な環境に置かれているスタッフに声を掛けているので成功率は高い。
それにしても女性のスタッフが多いのは、気になる。今もクリストフと新しくバーバリア転職神殿の神殿長になったライアットは女性スタッフに囲まれて、楽しそうに話をしている。
これくらいは目を瞑ろう。
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