48 変わりゆく転職神殿
「やりました!!ついにです!!」
「すぐに行きましょう。もちろん費用は商会が出してくれるんですよね」
「まあ、約束だからね。転職神殿には私も一緒に行くわ。アントニオさんに相談したいことがあるし」
リルとリラがついに「罠設置」のスキルをマスターし、念願の「忍者」に転職できるのだ。二人は喜びを爆発させている。今の「斥候」から「忍者」に転職したからといって、大幅に能力がアップするものではない。
強いて言うなら「投擲」というアイテムや武器を投げるスキルと「隠密」「潜伏」「解錠」のスキルがより効果を発揮するくらいだそうだ。リルとリラが言うには、「忍者」になるのが工作員の目標であり、それ自体がステータスなのだ。
まあ、二人にしては頑張ったから、よしとしておこう。
「二人とも転職したら、すぐにレベル上げをしてもらうからね」
「もちろんですよ会長!!私達はエリートしかなれない「忍者」なのですから」
「そうです。どんな困難にも打ち勝つ、それが「忍者」です」
もうリルとリラは「忍者」になった気でいる。
★★★
私達は転職神殿に向かっていた。トンネルが開通したおかげで自由に転職神殿に行くことができる。転職神殿に行くのは私とリルとリラの他にアイリスとバーバラとクリストフが同行することになった。アイリスは、ポーシャさんと新メニューのことで打ち合わせをしたいらしく、クリストフはアイリスと一緒に居たいだけ、バーバラは「踊り子」と「吟遊詩人」をマスターしたので上級職の「アイドルスター」に転職するようだ。
「「アイドルスター」への転職は、妾の趣味じゃから経費で落としてもらわんでもええぞ。これでも高給取りじゃからな。どうしてもというのならリルとリラにお祝いで何か買ってやれ。念願の「忍者」に成れるんじゃし。
そういえば、妾も初めて「大魔導士」になったときは、努力が報われたようで嬉しかったなあ・・・・いかんいかん、年寄りの昔話ほどつまらんものはないからな」
「お前、チビッ子だけどいい奴だったんだな」
「こっち来い、ヨシヨシしてやるぞ」
「コラ!!調子に乗るな。氷漬けにするぞ!!」
バーバラとリルとリラは出会いこそ最悪だったものの、今ではじゃれ合うようになっていた。バーバラが言うには駄々っ子の孫を見ているようだと語っていた。
「リルとリラはあれでも愛されてますからね。私とポーシャさんが開発するメニューもリルリランドでお祝いするための料理なんですよ。BBQなんですけど、工夫を凝らしてますからね。
それにここに来てないですけど、ライラさんもトルデクさん達と一緒にリルとリラ用の武器を作ってますからね。なんと「手裏剣」と「クナイ」なんですよ。「投擲」のスキルが最大限生かせるようにって言ってましたね」
「私も実は用意してるんだ。みんな考えることは一緒だね」
私が用意しているのは、ヤマダ商会の防具担当スタッフが精根込めて作った「黒装束」と「鎖帷子」だ。忍者と言えばこれだよね。
二人は恰好から入る感じだから喜んでもらえると思うんだ。
そんな和気あいあいとした雰囲気の中、転職神殿に到着した。
「なんか緊張してきた。どうしよう」
「本当だ、ヤバいぞ」
転職神殿の入口でリルとリラは、狼狽えだした。
私もそんな経験あるな。楽しみにしてたけど、いざってなると、急に不安になるんだよね。
「こういうのも含めて転職は楽しいのだ。妾は先に転職してくるから、好きなだけさせればよいのじゃ」
バーバラはそういうとそそくさと転職神殿に入っていった。アイリスが言う。
「リルとリラの転職祝いで、歌や踊りを披露したいと言ってました。多分、少し練習がしたいのだと思います。ああ見えて、結構可愛がってますからね」
しばらくして、転職を終えたバーバラが帰って来た。
「お主らはまだやっておったのか!!早う行ってこい。妾は踊り子の師匠と振付のことで話をしておるから、終わったら寄ってくれ」
「バーバラもこう言ってるから、早く行こうよ。受付までは付いて行ってあげるからさ」
リルとリラは覚悟を決めたようで、転職神殿に入った。
何となくだが、神殿の雰囲気が重苦しく、受付の巫女さんも変わっていた。
リルとリラは緊張していたので、私が代わりに受付をする。
「獣人と魔族のハーフの方が二人?それじゃあ100万ゴールドですね」
「ちょっと待ってください。そんな法外な金額払えるわけないでしょ」
「でも、神殿長の方針ですからね。『混ざり者は転職に手間がかかるから、その手間賃だ』と言ってますし」
私の知っている神殿長は強欲だが、商売のことをよく分かっている。ギリギリ出せる値段で、お得感を出したり、少し高めの値段から目の前で少し安くしたりと姑息で汚いことはするが、商売自体を潰すような値段設定にはしないはずだ。
「少し、神殿長と話をさせてもらってもよろしいでしょうか?ヤマダ商会のクリスが、話があると言ってもらえば分かると思います」
「神殿長とは会えません。規則ですので。ご用件がなければお引き取り下さい」
リルとリラは涙を浮かべて立ち尽くしているし、他のメンバーも呆然としている。
救いはここにバーバラが居なかったことだろうか。バーバラが居たら、神殿を氷漬けにしていたかもしれない。
★★★
失意のリルとリラを連れて、私達はアントニオさんを訪ねた。
そこにはアントニオさん、ポーシャさん、バーバラが居て、強欲神殿長と以前受付をしていた巫女さんもいた。
私は神殿長に文句を言う。
「ちょっと酷いんじゃないですか?それにハーフの子を混ざり者だなんて・・・こんなことをするようならヤマダ商会としても取引を・・・」
言いかけたところで、アントニオさんに止められた。
「クリスさん、もう彼は神殿長ではないんですよ。少し事情を説明させてください」
アントニオさんの説明によると、目の前にいる男はデブラスというのだが、神殿長を解任されたらしい。そういえば、初めて名前を知ったな。因みに巫女さんのほうはクルエラというそうだ。
まあ、それは置いておいて、転職神殿を管轄しているのはマリシア神聖国なのだが、そこの派閥闘争にデブラスは破れたそうだ。
デブラスは言う。
「マリシア神聖国で政権を取ったのは、人間至上主義のクラン派です。私は元々、彼らと折り合いが悪かったので、こうなりました。それと忠告ですが、今すぐここから離れたほうがいい。もうここは以前の転職神殿ではないですから」
話をアントニオさんが引き継ぐ。
「新しい神殿長は獣人や亜人を雇用している商会とは取引を停止すると言ってきました。シャーロック商会もヤマダ商会も多くの獣人スタッフを抱えているので、ここでは商売できないでしょう。それにおちおちしていたら、何か理由をつけて拘束されるかもしれません。こちらの情報では、マリシア神聖国の聖都では、もうそういう状態だそうです」
そんなとき、バーバラとクリストフが騒ぎ出した。
「姫様!!妾も腹が立っておりますが、神殿をぶっ潰すとかは考えませんように!!」
「そうです。間違っても神殿を焼き討ちにするなど、物騒なことはお止めください!!」
あれ?どういうこと・・・なんか懐かしい感じはするけど。
アイリスも久しぶりなので混乱している。
「とりあえず、神殿をぶっ潰すかどうかは考えるとして、ムリエリアに帰還しましょう。このことはムリエル王女やサマリス王子にも相談しないといけないしね。
アイリス、ヤマダ商会のスタッフはすぐにここから離れるように指示をして、一緒にここから出ましょう」
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