40 勇者パーティーの帰還 2
リンダ・ドナルド、騎士団の所属でジョブは「軽戦士」、がっしりした女性で正義感が強く、ゲームでは、度々クリスと衝突していた。実力的には特筆すべきものはない。まあ、可もなく不可もなくといったところだ。クリスと喧嘩をするキャラという印象しかない。どういう理由か分からないが、私はリンダを見ると無性に腹立たしくなるし、煽って、からかってやりたくなるのだ。
そのリンダがスタッフにブチギレしている。
「今回の新製品「ハイパーデンジャラスビキニアーマー」は酷すぎる。お尻なんて、ほぼ丸出しじゃないか!!こんなもの着れるか!!」
「しかしリンダ様、「ハイパーデンジャラスビキニアーマー」は「デンジャラスビキニアーマー」の5割守備力が上昇しているにも関わらず、露出度は3割もアップしているのですよ。それに炎耐性も暑さ対策もばっちりです。これからリンダ様が挑まれる砂漠の・・・」
「その露出度が問題だと言っているんだ!!勇者パーティーの活動中は必ず着用しなければならない私の身にもなってくれ。それに私のジョブ「軽戦士」と引っ掛けて、「尻軽露出姫」と呼ばれているんだぞ・・・もう契約解除だ!!」
「そ、そんな・・・凄く開発に苦労したんですよ。Vラインの切れ込みなんか、他の工房では到底、真似できない角度ですよ。ギリギリまで・・・」
「だ・か・ら!!勇者パーティーになぜ切れ込みが必要なんだ?」
少しリンダが可哀そうになってきた。
「デンジャラスビキニアーマー」は私がリンダに嫌がらせをするために開発したものだ。嫌がらせと言っても、守備力や性能を下げたりはしない。そんなことをしたら本末転倒だ。なので、派手に露出をさせてみた。罰ゲーム感覚のつもりだった。
危うく、自分もこれを装備しなければならない状況に陥ったことがあるので、リンダには、少しやり過ぎて申し訳ないと思う。
それにしても「ハイパーデンジャラスビキニアーマー」はいただけない。まさにガラパゴス化している。ガラパゴス化とは、外界と隔絶されたガラパゴス諸島で生物が独自の進化を遂げたことに由来し、ビジネスでは悪い意味で使われることが多い。
日本のガラケーがいい例で、独自の意味の分からない技術を高めた結果、スマホという世界基準の流れに付いて行けない事態になってしまった。
「ハイパーデンジャラスビキニアーマー」もリンダが言った通り、露出度のアップや切れ込みの角度など、求められていないところに開発のリソースを割いてしまっている。ちょっと会長として指導しないといけないな。でもまずはリンダを落ち着かせることからね。
私がリンダに近付こうとしたところ、一人の販売スタッフが声を掛けてきた。
「会長、私にやらせてください。マリア様に習ったことを実践しようと思います」
この娘は熱心にマリアの話をメモしていたなあ・・・まあ、やらせるだけやらせてみるか。
私が許可を出すと販売スタッフがリンダに声を掛ける。
「私は販売スタッフのマルチナです。リンダ様のお悩みを解決に参りました」
「悩みの解決だと、契約は解除するから、もういい」
それでもマルチナは、リンダの話を真剣に聞き続け、リンダも徐々に心を開く。
「ビキニアーマーシリーズのすべてに不満があるわけじゃない。ダグラス殿下がたまに私の胸をチラチラと見てくれるのは、嬉しく思う。ただ、今回は露出が多すぎる。私は人より毛深くて・・・処理が大変で・・・お尻も少し人より大きいので・・・」
「そんなリンダ様にピッタリの商品をご用意しております。「除毛クリーム」と「天使のパレオ」です。ムダ毛のお手入れも簡単になりますし、式典などでは「天使のパレオ」を巻けばいいのではと思います。殿方はモロに見せつけるよりも、チラッと見せるほうが効果的と聞きますし・・・」
「とりあえず、試してみよう。その二つの商品をくれ」
上手くいったようだ。マルチナは、かなり優秀な販売スタッフだ。後にヤマダ商会でマルチナ商法と呼ばれるようになるのだが、それはまた別の話だ。
アイリスが言う。
「本当にマルチですね」
「個人が大量に一つの商品を購入したり、高額の商品を購入した場合は報告書の提出を義務付けるようにするわ。とりあえず、それで様子を見ましょう」
★★★
~リンダ・ドナルド視点~
勇者パーティーの活動はそれなりに順調だった。癪だが、我がライバルのクリスティーナ・ロレーヌが会長を務めるヤマダ商会から提供される武器や防具が優秀なのだ。痒い所に手が届くというか、私達がどこでどんな活動をして、何を求めているかが、分かっているのではないかと思うほどだ。
しかし、最近活動が行き詰っている。その相談を兼ねてムリエリアを訪ねたのだが・・・・。しかし、ダグラス王子がまた、クリスティーナ・ロレーヌを頼ることは腹立たしい。
クリスティーナ・ロレーヌは私と同じ伯爵家の令嬢で、家出して冒険者となり、冒険者名を「クリス」として活動を始め、ドーラ一家の壊滅や大臣や官僚の汚職事件を解決した立役者となったのだ。当然、勇者パーティーの第一候補だったのだが、魔族に騙されて、その力の大半を失ってしまい、勇者パーティーメンバーの選考から漏れた。しかし、それでもダグラス王子を支えるため、商会を立ち上げたのだ。
同じく、ダグラス王子を慕う者として彼女の無念は痛いほど分かる。しかし、私はクリスに辛く当たってしまう。自分でも不思議なくらいだ。多分嫉妬からだろう。
同じ伯爵家の令嬢なのにクリスは誰しもが知る英雄、こっちは一介の騎士団員だ。それに彼女は上級職の「レンジャー」だったことを考えると、その下位互換の「軽戦士」の私が勇者パーティーに選ばれたのは、彼女の代役なのだろう。
向こうは私のことは眼中にないのだが、それがまた腹が立つ。
とりあえず、気を取り直して、もう一人のライバルに会いに行くか!!
私のもう一人のライバルはミレーユ、宮廷魔導士団に所属する女性だ。どちらも女性が少ない職場なので、懇親会で仲良くなり、「お互いライバルね。切磋琢磨して頑張りましょう」ということになった。まあ、ライバルというよりは近況を報告し合う、親友や同志といった感じだろうか。
魔導士団の分駐所を訪ねたところ、ミレーユは不在だった。分駐所でミレーユの行先を訪ねたところ、驚いた。偉そうな幼女のお世話係をしているようだった。
我がライバルよ、恥ずかしいことをするな!!
国一番の魔導士になると熱く語っていたのは、何だったのだ?
それが幼女のお世話係なんて・・・
そう思っていたが、私は更に驚くことになる。その幼女が魔法を放つとみるみる海が凍っていった。
見物客が騒ぎ出す。
「氷結の魔女様ー!!!」
「いいぞ!!チビッ子魔法使い!!」
間違いない。あれは「氷結の魔女」と呼ばれているサンクランド魔法国筆頭宮廷魔導士のバーバラだ。ミレーユはバーバラに弟子入りしていたのだ。
バーバラは言う。
「ミレーユ、今日はお主が仕上げをやってみよ。お主が努力しておるのは知っておるからな」
「はい、やってみます」
ミレーユは詠唱を始め、魔法を放つ。
「アイシクルランス!!」
無数の氷の刃が海に突き刺さる。どんどんと海は凍っていき、とうとう橋になり、向こうの大陸とつながった。
何だあれは!!あんな魔法を撃てるなんて・・・・私が喰らったら一発で終わりだ。
再び、歓声が上がる。
「眼鏡の姉ちゃんもすげえぞ!!」
「ニュースター誕生だな!!」
「考えたんだが、チビッ子魔女様と二人で「氷結姉妹」とかどうだい?」
「いいかもしんないね」
私はそっとその場を立ち去った。
ライバルの輝く姿を見るのは辛かった。心のどこかではミレーユに勇者パーティーの一員となったことを自慢して、優越感に浸りたかったのかもしれない。
ダグラス王子とともに戦うことが叶わなくなっても諦めず、なんとか支えようとするクリス。
プライドを捨てて、「氷結の魔女」に弟子入りし、実力を上げているミレーユ。
二人をライバルと呼んでいた私が恥ずかしくなった。
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