127 バスカン砦 1
進軍は順調に進み、聖都手前、徒歩3日の地点まで来た。順調に進軍できたのは、悪魔指揮官達が戦場に姿を見せなかったことが大きな要因だろう。
ここには、バスカン砦と呼ばれる難攻不落の砦が私達を待ち受ける。この場所は三つの街道が一つに合流する地点で、砦の周囲は天然の要塞である山に囲まれているので、聖都の防衛の要と言っていい砦だ。
進軍を開始して初めて、三部隊が合流することになった。今後の方針について軍議を行う。
マリシア神聖国の元騎士団長、現在は連合軍参謀の筆頭騎士団長が言う。
「普通に戦ったのでは勝てないから、防衛戦に切り替えたのでしょうね。そしてその場所に選んだのは、このバスカン砦ですね。ここは我々マリシア神聖国の者にとっては難攻不落の砦として誇りに思っていたのですが、攻め落とす立場になるとは皮肉なものです」
ここでバーバラが質問する。
「そんな難攻不落の砦がどうして、あっさり陥落したのじゃ?」
バーバラの鋭い質問に筆頭騎士団長は答えずらそうに答えた。
「街道側からの襲撃には万全に備えていたのですが、聖都側からの襲撃には備えをしておらず、このような有様です」
「だったら、攻めづらいこちらから攻めるのではなく、航空戦力を最大限に使って反対側に回って攻めたらどうじゃ?」
「それも考えたのですが・・・・」
筆頭騎士団長の説明によると砦には多くの対空兵器があるし、高性能の魔法障壁が展開しているので、大規模な部隊輸送となると狙い撃ちされる可能性があるとのことだった。
「少数精鋭で臨めば可能でしょうが、いくら反対側に回ったからと言って、少数では攻め落とせないでしょう」
「結局、正面から攻めなければならんということじゃな」
正面から攻めるとなるとこちらに大きな被害が出る。
ここでベビタンが発言する。
「御三家と呼ばれるアークデーモン3体がこの砦には確実にいます。それにデーモンやレッサーデーモンクラスの悪魔も多くいるので、ここで決戦を行う気でしょう。指揮官クラスの悪魔なので、砦の機能は最大限生かしてくると思います。悪魔とアンデットモンスターなので当然兵糧攻めなんて意味がありませんし・・・」
「なんとか、遠距離からの攻撃で対処できないかしら?その魔法障壁を壊すとか・・・・最悪、潜入部隊を編成して、魔法障壁を解除するとか・・・・でも危険すぎるか・・・」
私がそう言ったところで、先代魔王のピエールが言う。
「魔法障壁の解除くらいなら、我が普通にできるぞ。「マジックキャンセル」を広範囲に展開すればいいだけだからな。それに話を聞く限りでは、その魔法障壁は魔道具か何かであろう?それなら我が絶えず、「マジックキャンセル」を展開し続ければいいからな」
そうだった。本来のゲームの魔王はピエールだった。
ピエールの「マジックキャンセル」には手を焼いたものだ。この所為でサマリス王子とクリストフが支援魔法を掛け続けるだけになったのも懐かしい思い出だ。
「だったら、その案を採用しましょう。魔法部隊とカタパルト部隊で総攻撃をしてそれで駄目ならまた考えることにして・・・・ところで、砦を跡形もなく壊すのは大丈夫でしょうか?」
筆頭騎士団長は苦悶の表情を浮かべて言う。
「致し方ありません。存分にやってください」
これにバーバラやムリエル王女、ライラが大喜びしていた。
「久しぶりに全力でやれるな。魔力操作が難しい魔法ばかり使っていて妾はストレスが溜まっていたのじゃ」
「それなら魔法研究会のメンバーでやったら面白いんじゃないでしょうか?誰が一番壊せるかとか?」
「こっちも新型のブラストボムがあるから、派手にやらしてもらいたいのよ」
この人達は、砦を更地にするつもりでいる。
★★★
いよいよ、攻撃を開始する。
まずは、魔法部隊が大量のファイアボールを撃ち、投石器で投石を開始する。魔法障壁の強度を確認するためだ。
大量のファイアボールと投石は砦に届くことなく消滅した。
これが魔法障壁の強さか、厄介かもしれない。
しかし、ピエールは言う。
「単純な術式だな。これなら3日位は解除し続けられるぞ。
マジックキャンセル!!」
ピエールが「マジックキャンセル」を放った。見た感じ変化はない。
「これで、解除できたぞ。もう一度攻撃を加えてみるとよい」
魔法部隊と投石部隊が攻撃を開始する。今度は壁まで攻撃が届いたが、壁は傷一つ付いていない。
ここで筆頭騎士団長が言う。
「我らマリシア神聖国の誇りと言われる砦ですから、そう簡単に壊せませんよ。頑丈なことが嬉しい反面、攻略する立場としては、少し複雑な気分ですがね」
ここでバーバラが発言する。
「少しの間、妾に任せてくれんか?これを機に魔法部隊に指導をしたいのじゃが」
「いいけど、何するの?」
「まあ、見ていたら分かる」
ということで、バーバラはそれぞれの隊から魔法部隊を集めた。
「このような頑丈な砦をどのように攻略するか?
そのヒントとなる方法をここで指導してやろう。将来を担う魔導士の指導は妾の使命でもあるからな。それではよく見ておけ。
アブソリュートゼロ!!」
城壁の一部が凍った。ただ、それだけだった。
凄い魔法を期待していた者達にとったら少々拍子抜けだ。城壁だけでなく、場の空気も凍り付いた。
「おい、ギーガ。ちょっとこの小石を城壁の凍った部分に投げてくれ」
「了解です」
ギーガはオーガ族で、おまけに「パワーファイター」だから小石といっても飛んでもない速さで飛んでいく。狙いも正確だ。
小石は凍結している箇所に当たるとその部分が粉々に砕け散った。小石一つで城壁が破壊されたことで、魔導士達は騒然となっていた。
「ところで、このカラクリが分かる者はおるじゃろうか?」
これにライアットが答える。
「使ったのはただの氷結魔法ですが、温度が違います。絶対零度まで冷やしたことで、城壁の強度が低下したのだと考えられます」
「そのとおり、流石はライアット皇子じゃ。つまり、妾が言いたいのは、基本的な魔導士ならば誰でも使える魔法でも使い方次第では、このような砦も攻略できるといううことじゃ」
バーバラに直接面識のない魔導士達も、感心している。
ここで、ムリエル王女が言う。
「バーバラ様、それなら私達三人にもやらせてください。これでも魔法研究会のメンバーですからね」
ライアットとミレーユも答える。
「少し時間をもらえれば可能です」
「私とライアット皇子の絆があれば、壊せない物などありません」
ということで、なぜか砦攻略が魔法研究の発表会になってしまった。
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