116 ハーモニア
旧転職神殿が正式に自治都市として生まれ変わることになる。調和の取れた町ということで「ハーモニア」という名前になった。統治体制は合議制で、責任者として市長を置くことになり、初代市長はキアラ王女が務めることになった。これは政治的な理由もあり、当然ランカシア帝国とサンクランド魔法国が張り合うことが予想されたため、アイリスとライアットは除外、また、サマリス王子かムリエル王女が市長になるとロトリア王国の意向が強く反映されるので、遠慮することになったようだ。それに獣人との融和政策を進めたい国にとっても融和の象徴となる人事だけにキアラ王女が適任となったようだ。
ということで、私を含めたヤマダ商会のメンバーはハーモニア独立記念式典の準備で大忙しだ。連日夜遅くまで仕事をしている。というのも、あの馬鹿狸宰相が仕事を丸投げしてきたのだ。建前は失恋のショックで落ち込んでいる私を慰めるため、国の重要な役職に就けるということになっているが、実際は面倒事を私に振ってきただけだ。
まあ、理由はどうあれ、受けた仕事はきっちりやらなければならない。
「一応、魔族領との関係が良好であることをアピールするため、リルリランドとオーガスティン領から出店を考えているけど、大丈夫?」
「大丈夫です。リルリランド名産のポテトとスイーツの出店を用意しますからね」
「ギーガに用意してもらったビッグホーンブルの肉が入った特製コロッケを準備してますよ」
なかなか分かってきたじゃないか!!
そういうところだ。これなら魔族領にもいい印象を持ってもらえる。
「ギーガの方はどう?」
「やはりビッグホーンブルの料理を中心の屋台と棍棒専門の店を出店する予定です」
「ビッグホーンブルの料理は繁盛間違いなしだと思うけど、棍棒の方は本当に大丈夫?」
「大丈夫です。俺が優勝すればいいだけですからね」
ギーガが言うのは、メインイベントの一つである武術大会のことだろう。ギーガの考えでは、自分が優勝すれば、売り上げが上がると思っているらしい。
「本当に大丈夫?一回戦負けとかは絶対にやめてよね!!」
「もちろんです。それにドーラさんにもお願いしておきましたからね」
ギーガの話では、ドーラも弱い相手には棍棒で戦ってもらう話がついているようだった。
今回のイベントでは、頼みの綱のアイリスは使えない。オーガスティン領でレナードに負けたことがショックで、今回は修行に専念させてほしいと言ってきたからだ。アイリスも戦闘は好きになれないと言いながらも、負けるのはもっと嫌なようだった。これでとばっちりを受けたのはレナードだ。本人はのんびりと会場警備をする予定だったようだが、出場しないという選択肢は無くなってしまった。
「怒り狂った、全力のアイリス王女が相手だなんて・・・こ、殺される・・・」
と怯えているそうだ。
救いは来賓用のドラゴンステーキの調達は修行の一環ということで、アイリスがかなりの数のドラゴンを討伐してくれたことだろうか。修行になる業務は引き受けてくれている。
その他のイベントは騎竜レースとホバークラフトレースがある。騎竜レースにはライアット皇子が出場する予定だ。というのもライアットはランカシア帝国に新たに創設された魔道騎竜隊の隊長も兼務することになったのだ。魔道騎竜隊とは、騎竜に跨った魔導士達の部隊で、機動力と遠距離攻撃力を持った強力な部隊だ。転職神殿の利益だけでなく、他の収益を得る手段を模索していたライアットは騎竜の販売ビジネスに乗り出した。
最初は騎兵に売り込もうとしたが、上手くいかなかったので、私のところに相談に来た。私は、ビジネス書にあった模範的な回答をした。
「需要は作り出すものよ。需要があるから作るんじゃないのよ。シェアを奪うのではなく、新しいシェアを作り出すの。レッドオーシャンではなく、ブルーオーシャンね」
具体的なことは言わなかったが、ライアットは何かに気付いたようで、ランカシア帝国で肩身の狭い思いをしている魔導士達に目を付けた。魔道士の弱点である機動力を補うために騎竜を導入することを本国に承認させたのだ。これならランカシア帝国軍の最大戦力である重装騎兵隊と一緒に活動できる。実際に結果も出ているそうだ。
なので、魔道騎竜隊隊長の威信を懸けて出場するそうだ。今のところライバルは勇者パーティーのモンダリア騎馬王国出身のトールのようだ。面白いレースになると今から期待している。心配事といえば、騎竜レースの運営がミレーユが責任者ということだ。くれぐれもライアットが有利になる不正をしないように釘を刺してはいるのだが・・・・。
続いてホバークラフトレースだが、こちらも楽しみだ。
単純に速さを競う乗務員が一人のシングルレースと乗務員が二人で、妨害攻撃ありのペアレースがあるようだ。シングルレースにはムリエル王女が参戦する。こちらが優勝候補の筆頭だろう。注目はペアレースで、ディートとトルデコさんの技術者ペア、タツメとプーランの竜騎士ペア、そしてバーバラとベビタンの悪魔っ子ペアが出場予定だ。こちらはどのペアが優勝するか全く見当がつかない。
ディート達は工房に籠りっきりで何か新型のホバークラフトを開発しているようで、バーバラも本番のステージを1ステージだけにして調整に余念がない。自分がステージに立たない分、他の踊り子達や歌手に指導をしていた。
そして、各国の要人の接待はサマリス王子が中心にやってもらうことになった。サマリス王子はイケメンで器用、そして会話も巧みなので打って付けの役割だった。今も早めにやって来た要人達を温泉街に案内して接待をしている。
こんな感じで、忙しいながらも順調に準備は進んでいく。
何か良からぬことが起こらなければいいけど。
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