111 オーガスティン領のおもてなし 2
最終競技の「棍棒戦」が始まった。
出場者は見れば、普通ならお金を出しても見たいくらいのメンバーが多く出場している。勇者パーティーからはマッシュ、トール、ワグネル、バーダッグが出場し、オーガ族、ギガンテス族、トロル族からも多くの猛者が出場する。
更にアイリス、キアラ王女、レナードも出場する。ここにドーラとギーガが出場できなかったのが悔やまれるが。
第一試合はオーガ族同士の対戦となった。
王族や商人達の接待でギーガの妹のグーゴとゲーゴが解説をしている。
「今回の棍棒戦は戦闘不能になるか、棍棒が破壊された時点で勝負が決まります。普通の模擬戦と何が違うのかということですが、一つだけ違いがあります。まあ、私達オーガ族やトロル族、ギガンテス族以外の種族にはなじみのないのですが・・・・」
そのとき、出場者のオーガ族の青年が大声を上げた。
「我は「棍棒合わせ」を願う!!」
これに対し相手のオーガ族の青年も答える。
「我はこれを受ける!!」
ゲーゴが解説を入れる。
「先程話した模擬戦との違いは「棍棒合わせ」を申し出て、相手が了承すれば「棍棒合わせ」による決着をつけることができるのです。まあ、難しいことはしません。見ていれば分かりますよ」
しばらくすると「棍棒合わせ」が始まった。出場者二人は互いに棍棒を合わせて、棍棒同士を激しく打ち合わせ始めた。力に差があるようで、5回目を打ち合わせたときに一方の出場者が場外まで吹っ飛ばされて決着がついた。
第二試合も「棍棒合わせ」だった。
こちらは力が拮抗していたので、かなり長い時間お互いに打ち合っていたが、最後は一方の棍棒が粉々にくだけて、決着がついた。
「初めて見る方は驚かれるのですが、オーガスティン領では年に一度、「棍棒合わせ」だけの大会も開催されるのですよ」
面白い競技ではあるが、棍棒にあまり思い入れのない種族からすれば、理解に苦しむところはある。
★★★
白熱した戦いが続き、ベスト8が出揃った。
優勝候補筆頭のアイリス、勇者パーティーのマッシュ、トール、ワグネル、ギガンテス族のガンテス、トロル族のロルゾー、ムリエリアからレナード、キアラ王女の8人だ。因みにバーダッグはレナードに瞬殺されている。
私の横ではギーガが「俺も出たかったです」と悔しがっていた。まあ、ドーラと凄い戦いをしたから、仕方ないとは思うけど。
準々決勝第一試合はアイリスとトロル族のロルゾーだった。
ここで予想外のことが起きる。
「我は「棍棒合わせ」を願う!!」
普通にやっては勝てないと判断したロルゾーが「棍棒合わせ」を申し出た。別に受けなくてもいいのだが、アイリスはこれを受けることにした。
あっさり挑戦を受けたことで、申し出たロルゾーも驚いていた。
「お姫さん、本当にいいのかい?いくらアンタが剣の達人だからって、「棍棒合わせ」は勝手が違うぞ」
「棍棒を壊せばいいだけですよね。だったら大丈夫です」
勝負は一瞬で終わった。アイリスがロルゾーの棍棒を真っ二つに切り裂いた。多分スキルの「真空斬り」を使ったのだろう。武器の性能に関係なく、高速に剣を動かすことで発生する真空波を利用した斬撃だ。
あまりの実力差にロルゾーは落ち込んでいた。
次の試合はガンテスとマッシュの戦いだった。
マッシュは全身に鎧を纏い、大楯でガンテスの攻撃を正面から受け止めて、隙を見て攻撃するスタイルだった。一見してガンテスが一方的に攻めているように見えるが、実は確実に追い詰めているのはマッシュの方だ。ガンテスも攻撃を止めれば負けることが分かっているので、必死で棍棒を振り回している。
しかし、マッシュの堅実な防御と的確なカウンターの前にガンテスは屈した。
三試合目のキアラ王女とトール、四試合目のレナードとワグネルの試合はごく普通の模擬戦だった。キアラ王女とレナードが危なげなく勝利していた。
そして準決勝第一試合はレナードとキアラ王女だった。
ここまで来ると、それぞれにファンがついている。
「獣人の女の子の双剣術は凄いな!!」
「いや、あの男は毎回武器を変えて戦っている。だから、どんな武器で戦うか、毎試合楽しみだ」
レナードは「ウエポンマスター」なだけあって、相手に一番有効な武器を使ってくる。今回はキアラ王女の双剣に対抗して2本のトンファーを用意していた。
「いくらレナ―ド先輩だからって、手加減はしませんからね」
「もちろんです。正々堂々と戦いましょう」
試合が始まるとキアラ王女が一気にスピードを上げ、攻撃を繰り出す。キアラ王女はムリエリアに来た時よりも格段に強くなっている。それにジョブは「獣戦士」で、獣人特有の技を出せるのだ。
これに対しレナードは、両手に持ったトンファーで上手く捌いていた。それに余裕もありそうだ。
ギーガが言う。
「レナ―ド殿がトンファーを選んだ理由が分かりました。キアラ王女を傷つけたくないのでしょうね」
「ギーガ、それってどういうこと?」
「レナード殿はどんな武器でもキアラ王女に勝つことができます。でもトンファーを選んだってことは・・・」
ギーガの説明を聞く前に勝負が決まることになる。キアラ王女の双剣をトンファーで受け止め、上手くトンファーを回して、双剣を弾き飛ばした。
「前に訓練でやられたことがあります。棍棒も弾き飛ばされました。キアラ王女も知っていたはずですが、まさかトンファーでやってくるとは思いもよらなかったんでしょうね。それにあの技は、相手が攻撃を仕掛けて来ないとできませんからね」
レナードが使ったのは、「剣士」のジョブで初期にマスターできる「パリィ」というスキルだ。それを訓練でここまでのレベルに仕上げたことを考えると本当に頭が下がる。
試合会場に目を移すとキアラ王女とレナードが向き合って、お互いに礼をしていた。
「いいい稽古、ありがとうございました。決勝も頑張ってください」
「ありがとうございます。キアラさんの攻撃もますます鋭くなってきましたよ」
次は、アイリスとマッシュとの戦いだが、今から楽しみだ。
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