108 オーガスティン領開発計画 3
~ミザリー視点~
オーガスティン領はオーガ族が人口の6割を占め、3割がトロル族とギガンテス族、残りが他種族という構成になっている。トロル族もギガンテス族も棍棒の好みに差はあるものの、本人達は否定するだろうが、オーガ族と同じような思考回路をしている。
この三種族は「力こそパワー」が信条で、小さなことにこだわらない。良く言えば大らか、悪く言えばほとんどのことに無頓着だ。付き合ってみればいい奴なのだが、商売や交渉事には全く向かない。
見掛けによらず、侵略して領土を広げようという野望はないので、好きにやらせていればよかったのだが、そうも言ってられない事情ができてしまった。
オーガスティン領は魔族領の玄関口として人族との交易の中心都市として生まれ変わらなくてはならないのだ。
魔王軍のコンサルティングの一環で、オーガスティン領の改革をヤマダ商会のクリス会長に頼んだのだが、私とアイリスにこのような業務命令が下った。
「アイリスとミザリーさんには現地スタッフの指導をしてもらおうと思ってます。そのときは魔王の身分を隠して指導してくださいね。今後、魔族領を統治していくのにいい経験になると思いますよ」
ということで、アイリス王女と現地スタッフの指導をしているが、全く上手くいかない。遅刻、無断欠勤は当たり前で、言ったことはすぐ忘れる。おまけに応援でリルリランドから連れて来たスタッフに対しても、横柄な態度を取る。堪りかねた私はアイリス王女に言った。
「もう我慢がなりません。根性を叩き直してやります」
「ミザリーさん落ち着いてください。でもちょっと、お仕置きは必要ですよね・・・」
ということで、訓練所にオーガ族、ギガンテス族、トロル族のスタッフを集合させた。名目は、ビッグホーンブルの捕獲任務のための講習会ということにしている。私とアイリスが手順などを説明していると、横やりが入る。
「そもそもビッグホーンブルを狩れるのはそれなりの実力者じゃないと無理だ。単独討伐となると領兵だって数える程しかいないぞ。力の弱そうなお嬢さん達に言われてもなあ・・・ハハハハハ」
スタッフの発言で笑い声が起きた。私はアイリス王女にニッコリ微笑んだ。
アイリス王女も理解してくれたようだ。私達はスタッフ達に言う。
「分かりました。どこからでも私達に掛かって来なさい。貴方達ならこの護身用の棍棒で十分です」
アイリス王女も応じる。
「何なら、素手でもいいですよ」
これにはオーガ族とギガンテス族、トロル族のスタッフ達がキレた。
「弱い癖に偉そうにしてムカついていたんだ!!みんなやっちまえ!!」
約20人が、棍棒を振り回し向かってきた。私の得意な武器は弓なのだが、この程度の相手なら、本当に素手でも大丈夫だ。攻撃を躱し、護身用の棍棒で滅多打ちにする。アイリス王女も同じようにスタッフ達を殴りつけていた。
1分も持たなかっただろう。向かってきたスタッフ全員が床に転がっていた。
「私達も少し貴方達を甘やかしすぎました。これはからは厳しく躾けます!!」
これ以後、遅刻や無断欠勤は無くなったが、スタッフ達は私とアイリス王女に怯えたように接してくる。
人に指導するとは、本当に難しいと感じた出来事だった。
★★★
今日はビッグホーンブルの狩猟実習だ。ビッグホーンブルは領兵の猛者が狩るか、それなりに経験豊富な者が人数を掛けて討伐する類の魔物で、かなり強力だ。普段は粋がっているスタッフ達も怖気づいているようだった。この実習に当たり、助っ人を二人派遣してもらっていた。訓練所職員のレナードとキアラ王女だ。この二人はかなりの実力者で、複数人でビッグホーンブルを討伐する作戦を考えてもらうために派遣してもらったのだ。
ビッグホーンブルの生息地に到着する。3頭程ビッグホーンブルがいた。
「とりあえず、私達がそれぞれ狩ってみて、それから案を出し合いませんか?」
アイリス王女が提案してきた。私もいい案を思い付いたわけではないので、これを了承する。
「それでは私から行かせてもらいます」
私は矢を番え、ビッグホーンブルの前に立つ。ビッグホーンブルの特徴としてグレートボアと同じく突進攻撃がメインだが、少し違いがある。長い角があり、刺さると致命傷になるのだ。それに「硬化」というスキルを使ってくる。これは体の一部を鋼のように硬化させるスキルだ。突進中は大体頭部を硬化してくる。
私は突進して来たビッグホーンブルを躱し、矢を放つ。
「ダブルショット!!」
2本の矢を連続で放った一本は硬化した頭部へ、もう一つは大きくカーブして後頭部に向かって飛んでいく。これはダークエルフに伝わる弓術で、矢に魔力を込めて操る秘儀だ。最初に放ったのが囮の矢で、ビッグホーンブルは難なくこれを弾く、しかし、予期せぬところから来た矢には反応できず、深く矢が刺さった。程なくして、ビッグホーンブルは絶命した。
「す、凄い!!ビッグホーンブルを一撃で・・・」
「あ、あれは・・・逆らったら駄目な人だったんだ」
スタッフから驚愕の声が上がる。
まあ、これでも魔王だからね。
続いてはアイリス王女だったが、私でも勝てないかもと思ってしまうほどの腕前だった。
「高速解体!!」
そう叫ぶとあっという間にビッグホーンブルは解体されてしまった。如何に討伐するかではなく、如何に早く解体するかに重きを置いているようだった。彼女にとっては、ビッグホーンブルなど、ただの食材としか見ていないのだろう。
これには、スタッフ達が絶句している。
レナードとキアラ王女のコンビは基本に忠実だった。一人が囮でもう一人が攻撃といった具合だ。少し弱らせた後、二人が一気に解体までもって行った。基本通りの戦い方に安心して見ていたスタッフ達だったが、高速解体を目の当たりにして、またもや言葉を失っていた。
私はスタッフに指示した。
「お手本を見たところで、実際にやってみましょう!!」
「「「無理です!!」」」
まあ、そうなるよね。
結局、この日は実習にならなかった。
検討した結果、罠に嵌めて、一気に首を切り落とす方法が有効ではないかという話になり、リルとリラが罠を設置し、そこにレナードとキアラ王女がビッグホーンブルを誘い込んだ。そして、死角から現れたギーガが巨大な斧で首を一気に斬り落とす。
実演して見せたところ、スタッフからは「これならできそう」という声が聞こえてきた。しかし、ここでも流石はオーガ族だと思う質問をしてくる者がいた。
「すいません。私は棍棒以外の武器は使いたくないのですが・・・」
ギーガが言う。
「これは斧のように見えて、実は棍棒なんだ。ハンマーも棍棒の一種だし、これはハンマーアクスと言うんだ。だから新型の棍棒と思ってくれ」
「そうなんですね。新型の棍棒か・・・カッコいいなあ」
それで納得するのかよ!!
まあ、上手くいったからいいけど。
私に近寄って来たギーガが言う。
「クリスさんに他の武器の販売数を増やせと言われて、思い付いたんです。とりあえず、大きくてそれなりに重量感がある武器なら棍棒と言い張れば、OKだと。実際、大剣も名前を「大棍棒剣」にしたら売れるようになりましたしね。まあ、弓とかナイフなんかは無理ですけどね」
ギーガがなんか商人ぽくなってきた。頼もしいような、少し寂しいような感じもする。
この実習で、オーガ族達と他種族との連携も強化することができた。罠設置はゴブリン族やコボルト族などの小さくて器用な種族が得意だ。なので、ビッグホーンブルを狩るには協力が必要で、自然と連携が取れるようになっていた。
たかだか魔物討伐だが、魔族領の未来が見えたような気がした。クリス会長にコンサルティングを依頼したのは本当に良い判断だったと思っている。
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