五十八話 労働する平兵士と美女を侍らす蝕王
「我はエント使いに賭けるぞ」
『へっ、甘いな。俺はアーマーマスターに賭けるぜ』
「ふーむ、難しいのぉ……ゴーレム工場長でどうじゃ? あの列に成ったゴーレムは工場と言うのじゃろ?」
「あのー、何を賭けてるんですか?」
冒険者ギルド跡――もう配給所とか交換所に名前を変えた方が良いだろう――でジョブチェンジのためにやって来たヴァンダルーは、一階ロビーでヴィガロやボークス達が何か賭けているのを見かけた。
彼らの手にカードでもあれば……いや、この世界の紙は高価なのでトランプ等は無いのだが、似たような物を持っていれば不自然には思わなかっただろうけど。
「ああ、これはの、坊やがジョブチェンジする度に新しいジョブが増えるじゃろ?」
ヴァンダルーはロドコルテから【既存ジョブ不能】の呪いを受けているが、ジョブチェンジ部屋に行く度にこのラムダに今まで存在しなかったジョブが表示され、増えていく。その事をヴァンダルーは知識の多いザディリスや、冒険者として経験豊かなボークスに相談していた。
今までに存在しなかったジョブなので勿論ジョブその物に関する知識は無いのだが、似た名前のジョブがあればそれを参考に推測が可能だからだ。
因みに、ヴァンダルーは戴冠式の後自分の抱えている事情はタロスヘイムの面々に話している。グールも巨人種アンデッドも、一応セメタリービーとイモータルエントにも。一人の例外も無く、全員彼が前世や前々世が異世界の人間だった事や、輪廻転生の神に呪われている事、百人の転生者がいずれこの世界にやって来る事を知っている訳だ。
その時の反応は――
『なんだか良くわからねェけどスゲー!』
「ただ者じゃないとは思ってたけど、スゲー!」
「前世はイセカイって大陸? 島? のチキュウって国だったんだ。スゴーイ」
ブブブブブブブブブブブブ。
ガサガサガサガサガサガサ。
まあ、受け入れられたらしい。異世界の事は理解していない様子だったが、輪廻転生の概念は在るそうだし。
そもそも巨人種アンデッド達の中には、薄々察している者も多かったらしい。考えてみれば、子供が勇者ザッカートの残した伝説上の調味料、味噌や醤油(正確には魚醤)を作ったのだから、「もしかして御子も異世界から来たのでは?」と推理されるのは当然だった。
神に呪われている話も、既にこの世界で最大の勢力を誇る法命神アルダとそれを支持する神々、あと邪神派の原種吸血鬼から敵視されている現在、そこに名前も知られていないロドコルテが一柱加わっても今更という感じらしい。
何とも頼もしく嬉しい事だ。
それは兎も角、ヴァンダルーのジョブがどうしたのだろうか?
「それで、今度はどんなジョブが増えるのか賭けておるのじゃよ」
『坊主がどのジョブを選ぶのかは兎も角、表示されるジョブチェンジ出来るジョブは何か増えるだろ?』
「それで何が増えると思う?」
「……新ジョブが確認されるのって数十年、若しくは数百年に一度じゃありませんでしたっけ?」
神代の時代が終わった直後は世界の転換期でジョブも【騎士】や【兵士】等、新ジョブが次々に確認された。しかし、時が経つにつれて新ジョブが確認される事は少なくなった。
だから今では冒険者ギルドを初めとして、各ギルドでは新ジョブの発見者に報奨金を支払う等しているのだ。
『だがよ、坊主は二年前から次々に発見してるじゃねぇか』
「だから今回も増えるだろうと思ってな」
「……増えなくても怒らないでくださいね」
「それで、坊やはどんなジョブが増えると思うのじゃ?」
ザディリスに聞かれたヴァンダルーは少し考えてから答えた。
「植林士、かな?」
このラムダで種からエントを発生させたのはヴァンダルーが初めてだろうから、どうしてもそこに行きつくらしい。
それに、ダンジョンや魔境で見つけた木をヴァンダルーは次々に植樹してイモータルエントにしている。
『植林か? それならもう人間の国でやってるぜ。ジョブにはなってないはずだが』
「えっ? そうなんですか」
地球だと昔は伐採したらそのまま放置で、乾燥した気候の土地だと禿山や荒野が増えてしまうなんて事があったはずだが、ラムダには植林が行われていたらしい。
『おう、勇者が魔王との戦いで荒廃した土地に木を植えたのが始まりらしいな』
……流石のベルウッドも、植林を否定して放置し、自然に緑が復活するのを待つ様な真似はしなかったようだ。
しかし異世界の技術はダメだが、植林は可って、勇者鈴木は元の世界では過激な自然保護活動家だったのかもしれない。
まあ、記録に残っていないだけで魔王が現れる前から植林が行われていた可能性もあるが。
「それで、何を賭けているんですか?」
現在タロスヘイムには通貨が無いので、物の売り買いは物々交換で行われる。今のところ通貨代わりの主な物品も出て来ていない。
多分、食べ物だと思うのだが。
「儂はシダ茶じゃよ」
「我はアンモナイトの一夜干し」
『俺はこの前取って来たノーブルオークの肉だな。バリゲン減命山で結構狩れるんだよ』
「じゃあ、俺は新しいジョブは増えないに蜂蜜を賭けましょう」
「坊や、何故そこで後ろ向きになる?」
「良い事が続くと、何時幸運が終わるのかと怖くなるからです」
そう言って、ジョブチェンジ部屋へ。
《選択可能ジョブ 【魂滅士】 【毒手使い】 【蟲使い】 【大敵】 【ゾンビメイカー】(NEW!) 【樹術士】(NEW!)》
ヴァンダルーの予想に構わず、今回も二つ増えていた。
「ゾンビメイカーに樹術士……樹術士は『きじゅつし』と読むのか。多分木の種や取って来た枝を片端からイモータルエントにしているからだろうけど……」
なんだか手品師みたいだ。このラムダではマジシャンでは無く、手品師と呼ばれ旅芸人の一座に加わるか大道芸をして生計を立てているらしいが。
恐らくテイマーの植物系魔物限定バージョン+植物の魔物化がやり易くなると言った感じのジョブだろうか?
しかし、植物系の魔物はアンデッドや蟲系魔物とは違って普通にテイムできるはずだが……まあ、後で考えよう。
不思議なのは【ゾンビメイカー】の方だ。この世界には、【悦命の邪神】の加護でアンデッドを作り支配できる原種吸血鬼、グーバモンとテーネシアが十万年前から存在している。
奴等ならとっくに【ゾンビメイカー】は勿論【死霊魔術師】等のジョブを発見して就いている物だと思ったのだが。
「もしかしてあいつ等、ジョブに就いてない……就けないのか?」
邪神側に付いた事で魔物に近づきすぎて、ジョブを失ったとか。そう根拠無く推測したが、エレオノーラは原種吸血鬼達の種族名もランクも知らなかったので、確認は出来ない。それはまたの機会にしよう。
とりあえず、賭けに負けたのは仕方ないとして、次はどのジョブに就くかだが……
「全体的な戦力アップを考えるなら、【蟲使い】か【樹術士】だ。でも、春に来る軍にはハインツの仲間だったライリーが加わっている」
是が非でも自分の手で奴を殺したいとまでは思っていない。もしその機会があったとしても、戦略上の問題で諦めるしかないなら、躊躇なく諦められる。
皆が自分の代わりに仇を討ってくれるだろうという確信と信頼があるからだ。
しかし、諦める理由が自分の無力さだとしたら話は別だ。それはとても我慢ならない。
「……【魂滅士】を選択」
だからヴァンダルーは【魂滅士】を選択した。
《【霊体】、【魂砕き】、【遠隔操作】スキルのレベルが上がりました!》
《【並列思考】、【実体化】スキルを獲得しました!》
・名前:ヴァンダルー
・種族:ダンピール(ダークエルフ)
・年齢:5歳
・二つ名:【グールキング】 【蝕王】(NEW!)
・ジョブ:魂滅士
・レベル:0
・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー
・能力値
生命力:125
魔力 :247,013,388
力 :90
敏捷 :89
体力 :95
知力 :457
・パッシブスキル
怪力:1Lv
高速治癒:3Lv
死属性魔術:5Lv
状態異常耐性:5Lv
魔術耐性:1Lv
闇視
精神汚染:10Lv
死属性魅了:5Lv
詠唱破棄:3Lv
眷属強化:7Lv
魔力自動回復:3Lv
従属強化:4Lv
・アクティブスキル
吸血:4Lv(UP!)
限界突破:4Lv
ゴーレム錬成:6Lv
無属性魔術:4Lv
魔術制御:4Lv
霊体:4Lv(UP!)
大工:4Lv
土木:3Lv
料理:3Lv(UP!)
錬金術:3Lv
格闘術:3Lv(UP!)
魂砕き:3Lv(UP!)
同時発動:3Lv
遠隔操作:3Lv(UP!)
手術:1Lv(NEW!)
実体化:1Lv(NEW!)
連携:1Lv(NEW!)
並列思考:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
神殺し:1Lv
・呪い
前世経験値持越し不能
既存ジョブ不能
経験値自力取得不能
ジョブチェンジした瞬間、スキル補正の効果で【霊体】や【遠隔操作】、そして【魂砕き】のレベルが上昇した。どうやら【魂滅士】は霊に関係するスキルに補正が掛かるらしい。
そして【並列思考】と【実体化】なるスキルを獲得したが……何だろう? 多分これも霊とか魂とかに関係あると思うのだが。
微妙に、期待していたほどには戦闘力が上がらない気がする。
「……【毒手使い】にするべきだったかな? 若しくは観念して【大敵】とか」
まあ、【魂砕き】は魔術や武術での攻撃に効果を乗せる形で発動するスキルだ。きっと戦闘力も上昇するだろう。
そう自分を慰めつつヴァンダルーは部屋を出ると、一階で待つザディリス達に結果を報告し蜂蜜を振る舞ったのだった。
そしてそのまま去年から通っているボークス亜竜草原に向かったのだった。
既に冬の足音が聞こえる上に、東西を高い山脈によって挟まれているタロスヘイムだったが、まだまだ昼間の日差しは強かった。
その王城の裏手にある中庭は、【太陽の巨人】タロスと女神ヴィダを称える石碑が立てられており、タロスヘイムでも最も太陽が降り注ぐ場所だと言われていた。
実際、何故か中庭の日差しはとても強い。まるで夏の様だ。もしかしたら、タロスやヴィダの石碑があるからかもしれない。
「うっ、ああっ、ひっくぅ~っ」
「ひっ、あっ、そ、そこああぁっ、深いぃっ」
「いっ……くぁぁっ……あ、熱いぃ、身体が、焼けちゃいそうっ」
「も、もうダメ、もう注がないでぇっ、溢れるぅっ」
その石碑のある中庭で、肌も露わな美女達が喘ぎ悶えていた。
「……いつでも止めますからねー」
目に毒だなぁ。そう思いながら、ヴァンダルーは四人の美女……ビルデ、バスディア、エレオノーラ、カチアに声をかけた。
別にヴァンダルー達は背徳的なあれやこれやでイチャイチャしている訳ではない。
これには一応理由があるのだ。
「い、いいえっ! まだやれるわ!」
白い肌から白い煙をしゅうしゅうと立てているエレオノーラが、「春の戦争に備えて【日光耐性】を獲得したいの」と言い出したのが始まりだった。
吸血鬼にとって日光と銀、光属性の攻撃魔術は普遍的な弱点だ。吸血鬼が持つ【状態異常耐性】もそれ等には効果を発揮しないし、日光耐性や銀耐性と言ったスキルを後天的に獲得する事は出来ない。
だがエレオノーラの場合は事情が異なる。ヴァンダルーが【蝕王】の二つ名を獲得した事で、彼女は【日光耐性】を獲得する事が可能になった。
そして春に攻めて来るだろうミルグ盾国の遠征軍は、確実に昼間に攻めてくる。相手が夜目の利く魔物だと分っていて、夜に戦う人間は居ない。
遠征軍には吸血鬼の刺客が紛れ込んでいるだろうが、厚手の外套を羽織るなりフルプレートアーマーを着るなりして、日光が肌に触れない様にすればいいらしい。普通の町でやれば目立つ事この上ないが、遠征軍の中ならそれほど目立たないだろう。
それに、吸血鬼達は正規軍に紛れ込むのではなく、貴族の私兵か傭兵団と偽って参加して来るのだろうから、正規軍と武装が違っていても問題無い。
エレオノーラもそれに習って分厚い外套や覆面、板金鎧を着ればいいのではないかと思ったが、彼女は身軽な状態での戦いに慣れている。金属鎧一着分くらいなら多少動き難くなるくらいだが、春まで時間があるのだし【日光耐性】スキルを獲得した方がいいと言う話になったのだ。
そこで冬が近くなった今でも日差しの強いここで、日光浴しながら耐性スキル獲得に挑戦しているのだ。
胸と腰に布を巻いただけの刺激的な格好で日光に焼かれながら、【高速再生】スキルで火傷を治し、魔力が足らなくなればヴァンダルーが魔力を譲渡して補給する。
かなりのスパルタだが、この方法にエレオノーラが何故か凄い熱意を見せたので実行となった。
ヴァンダルーも最近彼女を甘やかしていなかったので、彼女の希望に添う事にした。
そこにビルデやバスディア、カチアが通りがかり、この状況である。勿論ビルデ達はグールなので【日光耐性】を獲得する必要が無い。単にヴァンダルーから魔力を譲渡されながら魔術の練習をしているだけだ。
「だ、だって、ヴァンダルーの(霊体化した)手が(凝っている場所を)揉むから……」
「そうだぞ、ヴァンがツボとかいう所を押すから、つい変な声が出てしまうんだっ」
ビルデとバスディアには魔力の譲渡だけでは無く、最近疲れが溜まって凝っているらしいので以前タレアにもした霊体マッサージをしていた。
【霊体化】した手を体内に減り込ませ、直接凝っている筋肉やツボを刺激するのだ。意思を持った低周波マッサージのようなものだ。
「それに……ツボと言うのはこんな所にもあるのか?」
「ありますよ」
やや恥ずかしそうにもじもじするバスディアに、ヴァンダルーは断言した。
ツボは頭の天辺や足の裏などにもあるが、異性が気軽に触れるのには躊躇われる場所にも結構ある。ヴァンダルーはそう言った場所も、「ここのツボを押しますねー」と押していた。手は【霊体化】して枝分かれして触手状になっているため、肌の感触も温もりも柔らかさも『生命体に触れている』としか認識できないので気楽な物だ。
「そうか……なら、良いんだが……」
勿論、別にバスディアにセクハラしたい訳ではないので執拗に触れたり押したりはしない。
因みに、科学と魔術の両方が存在するオリジンでは気功術は魔術の一形態として認知されていて、その流れでツボや針治療、灸等の東洋医学も西洋医学並に研究され広く利用されていた。
そのため、東洋医学に死属性魔術が応用できないか、ヴァンダルーは当時散々実験に協力させられたのだ。
今では【霊体化】した状態でその生物の身体を調べれば体中のツボとその効果を直感的に理解できる。お蔭で今では人とは違うグール独自のツボの位置と効果をばっちり把握していた。
肝心の死属性魔術の東洋医学応用は、あまり成果が出なかったらしいが。
「あ、別にお前に触られるのが嫌な訳では無いんだ。寧ろ嬉しいが、突然積極的に成られると戸惑ってしまってだな」
「いや、別に積極的とか消極的とか、そう言う話じゃないので。勿論俺もバスディアに触れたくない訳じゃありませんが」
これはマッサージである。行うヴァンダルーの手が【霊体化】して触手状に枝分かれして名状し難い様子になっているが、あくまでもマッサージだ。厭らしい意味は無い。ただ、スキンシップはとても大事な事である事は言うまでもない。
「はぁ、はぁっ、はぁっ……ヴァ……ンっ、魔力を、注ぎ過ぎっ」
そしてカチアは単純に魔力を譲渡しているだけなのだが、この様子である。
「うーん、でもちょっとしか譲渡してませんよ?」
「そ、そのちょっとがっ、多すぎなのよっ! 私の最大魔力、二百もないって言ったじゃないっ」
【見習い魔術師】にジョブチェンジした今のカチアの最大魔力は、二百未満。魔術に適性のあるグールの女の平均を下回るが、男よりは若干多い程度だった。
これは彼女が元々は人種で、しかも冒険者の前衛職だった事が影響していた。
戦士や騎士と言った前衛職は、後衛職の魔術師等と比べて魔力が少ない。その分、生命力や力、体力や敏捷と言った能力値が高くなっている。
魔術師と違って前衛職は【武技】でも使わない限り魔力を消費する事は無いので、これは当然だ。寧ろ生命力より魔力が多いような者は、普通前衛職を選ばない。
そしてカチアはその前衛職だったので、グール化の際の能力値の上昇もその影響を受けた。他の能力値よりも魔力の上昇率は高かったが、元々の数値が少なかったので最終的な魔力の数値も少なくなったのだ。
そしてその少ない魔力で【見習い魔術師】にジョブチェンジしたのだが、魔力が少ないために魔術の練習量が足りなくて中々スキルのレベルが上がらない。
そこでヴァンダルーがこうして魔力を譲渡しながら練習に付き合っている訳なのだが……問題なのはヴァンダルーの感覚だ。
魔力が二億を優に超える彼によっての「ちょっと」は数万。二百少々なんて、「ほんの一抓み」の十分の一以下程度でしかない。
そのため、魔力が無くなる度にカチアはヴァンダルーにとっての「ほんの一抓み」、最大魔力の十倍程の量を注がれているのだ。
思わず「溢れる」と喘ぐのも無理は無い。
「それはそうですけど、別に溢れたからって身体に害はないのでは?」
「いや、そうだけど、でも、すごっく……」
「じゃあ、魔力も回復したしまた練習してください」
「そ、そんなっ、練習したら私の魔力じゃすぐに無くなって……」
「無くなったらまた譲渡してあげますから」
「あっ、あうぅぅぅっ……」
何故か半泣きで練習を再開するカチア。ビルデとバスディアは彼女より先に練習を再開している。
因みにビルデは土属性、バスディアは水属性と風属性、そしてなんとカチアは火、風、光、空間の四属性適性の持ち主だ。ただ、ビルデは平均的だったが、バスディアは魔術的な才能に乏しく「これなら武術を学んだ方が当時は群れの為になると思った」と武術にのめり込むほどで、カチアの場合は「使いものになったら奇跡だ」と言われて魔術の道は進む前に諦めたらしい。
ただバスディアの場合はランクアップで、カチアはグール化とジョブチェンジによって魔力や知力等の能力値が上昇したためこうして練習できる程度には成った。
因みに、エレオノーラ以外の三人の露出度が高いのは、普通のグールらしいファッションによるものだが、「体が熱い」と言って更に脱いでしまったからだ。
幾ら日差しが強いとはいえ、解せぬ。
「はっ……うぅぅっ……ヴぁ、ヴァンダルー様、もう少し、もう少しでスキルを……」
「うーん、地面を操るのって難しい。キングはどうやってるの?」
「よし、もう一度始めからだっ」
「は、早くスキルを手に入れないと、癖になっちゃう」
雪のような眩しい白から嗜虐的な赤、そして白にまた戻るエレオノーラの肌。艶やかだったり健康的だったりする灰褐色のビルデとカチア、そしてそこに赤いラインが加わって曲線を強調している濃い目の灰褐色のバスディア。
刺激的な肌色に零れそうになったり揺れたりする曲線。石碑を前に罰当たりではないのかとも思うが、ヴィダもタロスもこういう事はとてもオープンな神様だったらしいので、問題無いらしい。
(そう言えば、ヴィダって俺には神託をくれたりしないのだろうか?)
一応タロスヘイムに居る時は毎日神殿で祈っているのだが、やはり地球でお地蔵様に軽く会釈する程度の感覚では無理なのだろうか?
ヌアザに下った神託にヴァンダルーが明示されている以上、ヴィダは彼の事に気が付いている筈なのだが。
今度ヌアザに頼んで祈り方を教えてもらおう。
冬の冷たい空気の中、兵士達がトンテンカンと大工仕事に勤しんでいた。
「手当が出るのは良いが、俺達は何時から奴隷になったんだ?」
二人一組で石材を運んでいる兵士の内、片方がそう毒づく。それを聞いたもう一人は、苦笑いを浮かべた。
「おいおい、奴隷じゃ手当も給金も貰えないぞ。まあ、貰ったってここじゃ使えないけどな」
兵士達が居るのはミルグ盾国側の境界山脈で発見された、トンネルの出口側だ。そこで彼らは簡易的な砦の建設任務に就いていた。
トンネルの内側は【悲劇の英雄の再来】と称えられる英雄ライリーの働きによって魔物が一掃され、安全に行き来できる。しかし、境界山脈を越えた後は安全とは無縁の世界だ。
普通ならほぼ魔境でしか遭遇しないランク3の魔物が跋扈し、それ以上の魔物も当たり前のように現れて襲い掛かって来る。
そんな境界山脈の内側、大陸南部に繋がるトンネルを維持するには魔物が入って来ないように守る砦が必要なのだ。
しかし、常時魔物に食い殺される危険がある場所では、普通の職人じゃ仕事にならない。よって、ミルグ盾国軍は兵士を派遣し、その三分の一に建設予定地とトンネルの守備を、もう三分の一に建設工事を、そして残りは休ませる。これをローテーションして間に合わせの砦を作る事にしたのだ。
尚、見張りや周辺の偵察、いざという時の防衛等のために主にC級を中心に冒険者が数十人雇われている。
このトンネル周辺は【緑風槍】のライリーとそのパーティーがストーンドラゴン等ランク8の魔物を何体か討伐した後はランク5以上の魔物は出現していないが、念のためだ。
守りがしっかりしているから、今のところ怪我人は何人か出たが死者は出ていない。これならオルバウム選王国との最前線の方が余程危険だ。
吸血鬼や竜種が跋扈する呪われた地とはとても思えない。
「だけど、娯楽がなぁ」
しかし人里から隔絶された地にあるため、当然娯楽は無い。行商人や旅芸人、娼婦がやって来る事はなく、非常事態に対応するため兵士達は勿論冒険者まで飲酒を禁止しているぐらいだ。
そうなると楽しみは食事ぐらいだが、それも大体通常の戦時と同じ焼き固めたパンと干し肉、そこにチーズか干し野菜が一品加わるぐらいだ。
ライリーが居た時は気前良くドラゴンの肉が振る舞われたらしいが、拒否権が無いのに依頼料が安い緊急依頼を受けて参加したC級冒険者に、アミッド帝国の将軍と専属契約を交わした英雄内定済みのA級冒険者と同じ気前の良さを期待するのは酷だろう。
C級冒険者達は珍しい大陸南部の魔物から取れるだけの素材を取り、肉も大体自分達で食べてしまう。食べきれない程採れた時は、軍が格安で買い取る場合もあるが……平兵士である彼らに回ってくる可能性は低い。
「あーあ、そう言えば噂でS級冒険者【迅雷】のシュナイダーが遠征の参加を蹴ったらしいぜ」
「ふん、どうせS級冒険者様は寄ってくる女の相手で忙しいんだろうぜ。あー、俺達が働いてる間も半裸の美女を何人も侍らせてるんだろうな。……死ねばいいのに」
「それぐらいにして置けよ。町に戻る時に楽しみは取っておこうぜ。それに、この砦兼関所は今回のタロスヘイム遠征の重要拠点だぞ」
「そりゃあそうだろうが……遠征に俺らが参加できると思うか?」
「……無理だな」
噂では今回の遠征には精鋭中の精鋭が選抜されるという話だ。平兵士の自分達が加われる望みは薄い。平兵士の数は多く、自分達はその中でも凡庸な兵士なのだから。
「まあ、いいさ。全てはアルダ様のお導きってな。きっと、真面目に働けば良い事があるさ」
「へいへい。アルダ様アルダ様、真面目な俺達が酒場で女にモテるよう祝福を」
「そこは昇進を祈れよ」
軽口を叩きながら、兵士達は釘を打つ。
・名前:エレオノーラ
・ランク:9
・種族:ヴァンパイアバイカウント (貴種吸血鬼子爵)
・レベル:12
・ジョブ:隷属戦士
・ジョブレベル:45
・ジョブ履歴:奴隷、使用人、見習い魔術師、見習い戦士、魔術師、魔眼使い
・年齢:8歳(吸血鬼化当時の年齢 20歳 合計28歳)
・パッシブスキル
闇視
自己強化:隷属:4Lv(UP!)
怪力:6Lv(UP!)
高速再生:3Lv(UP!)
状態異常耐性:6Lv(UP!)
直感:3Lv
精神汚染:3Lv
魔力自動回復:4Lv(UP!)
気配察知:3Lv
日光耐性:3Lv(NEW!)
・アクティブスキル
採掘:1Lv
時間属性魔術:5Lv
生命属性魔術:5Lv
無属性魔術:2Lv
魔術制御:3Lv
剣術:3Lv(UP!)
格闘術2Lv(UP!)
忍び足:4Lv(UP!)
盗む:1Lv
家事:2Lv
盾術:2Lv(NEW!)
鎧術:1Lv(NEW!)
限界突破:2Lv(NEW!)
詠唱破棄:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
魅了の魔眼:7Lv
ジョブ解説:隷属戦士
別名剣闘士。所有者やオーナー等言い方は様々だが、奴隷的身分にある状態のまま接近戦スキルを所有し、主人からの許可がある場合にジョブチェンジが可能。奴隷的身分にあるかどうかは社会制度や当人の精神状態では無く、隷属の首輪や、刺青や焼印等隷属の証しになる物を装着、若しくは身体に刻まれている場合で判断される。
スキル補正は基本的には戦士と同様だが、【限界突破】や【頑健】、【筋力強化】、他に他者に対して隷属している状況下にある時能力値が上昇する【自己強化:隷属】のスキルの獲得に補正がかかる。
ただし戦士と違い、【鎧術】スキルに補正がかからないなど、盾職には向かないジョブである。
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59話は12月13日中に投稿 12月17日に60話を投稿予定です




