書籍版14巻発売記念 今更だけど気になるゴーレムのこと
一日遅れてしまいましたが、11月14日に書籍版14巻が発売されました! 書店などで見かけた際は、手に取っていただけたら幸いです。
「坊や、今更聞くのもなんじゃが、どうしても気になることがある。構わんか?」
ある日、唐突にザディリスがそんなことを言い出した。
「なんでしょう?」
「うむ、実はな……坊やが作るゴーレムの分類が魔術生物ではなくアンデッドであることが気になってな」
聞かれたヴァンダルーは、「なるほど」と納得した。たしかに、今更な疑問だ。彼はザディリスたちグールと出会った当時から今まで、無数のゴーレムを作って来たのだから。
「簡単に説明すると、死者の霊によって動いている存在は何で出来ていようと全てアンデッドです。俺が死者の霊を憑かせて創るゴーレムも、その例外ではありません。
しかし、この説明だけで済ますのは強引だと思うので、もっと言葉を尽くして説明しようと思います」
「気遣いが出来て偉いぞ、坊や」
「わーい」
ザディリスに頭を撫でられ、ヴァンダルーはひとしきり喜んだ。表情は相変わらず動かなかったが。
「では、説明します。霊はアンデッド化すると、二通りに分かれます。一つは霊のままアンデッド化した存在。これがゴーストです」
「レビア王女やオルビア達のことじゃな」
「そうです。そして、もう一つが何か物体にとり憑いてアンデッド化した存在です」
「物体とは、括りが大きすぎんか?」
「そういう物です。生物も、死ねばただの肉の塊。新鮮な死体も、腐乱死体も、白骨死体も変わりません。
それらは、霊がとり憑いた物体の種類によってアンデッドとしての種族が変わります」
死体の鮮度に関わらず肉が付いていればゾンビ系。ついておらず骨だけだとスケルトン。ゾンビ系はボークスやザンディア。彼女の左手首のレフディア。スケルトン系は骨人やクノッヘンが該当する。
「そして、霊が自分の死体以外に憑くことも割とあります。自分の命を奪った凶器や、生前からの愛用の品、遺恨のある物品。それらがリビングアーマーやカースキャリッジ、カースウェポンです」
「リタとサリア、サム殿。それと今イリスの愛剣になっているジョージ殿じゃな」
「そこで考えてみてください。彼女達とゴーレムの違いは何でしょう?」
「む、唐突にクイズか。しかし、違うところだらけのような……」
悩みだすザディリスに、ヴァンダルーは「そうでもありません」と言ってから答えた。
「憑いている物に鉱物が含まれています。特に、ジョージは殆ど金属です」
そう、土や石、そして金属も全て鉱物。鎧や剣、そして土塊や岩石も元は同じなのだ。
「それこそ乱暴な気もするが……そこは置いておくとしよう」
「ありがとうございます。結局、霊がとり憑いて動き出せば結果何になってもアンデッドということになるのです」
ヴァンダルー自身もこの分類方法は乱暴だと思うが、そうなのだから仕方がない。他の方向から説明しようとすると、「俺が創ったゴーレムは対アンデッド用の光属性魔術が効くからアンデッド」という、さらに乱暴なものしか思いつかないし。
「理屈は分かった。しかし、アンデッドのゴーレムは坊やが創ったもの以外聞いたことが無いのじゃが?」
「それは当然です。自然にアンデッド化する霊は、自分に対する執着が強いですから」
だからこそ、霊の多くは生前の自分に姿かたちが近い存在に憑く。自分自身の死体。それが無ければ他人の、もしくは生前愛用していた品――体の一部のように使いこなしていた武具や仕事道具。生前の自分の姿を題材にした絵や彫像。
縁も所縁もない、その辺の土や石にとり憑く霊なんているはずがない。それぐらいならゴーストになるだろう。
では何故かと言うと……。
「俺が魅了して、土や石にとり憑けと魔術で命令しているからです」
「なるほど。それはたしかに坊やが創ったゴーレム以外聞いたことがないはずじゃな」
気になっていたことが解決したと、すっきりした顔で頷くザディリス。
「まあ、理屈上は俺以外でも創れるはずなんですけどね。テーネシアやグーバモンなら」
「懐かしい名じゃな」
『悦命の邪神』ヒヒリュシュカカの加護によって、アンデッドを創ることが出来た邪神派原種吸血鬼たち。彼女達ならヴァンダルーと同じように、アンデッドゴーレムを創ること可能だった。
生前の自分とは異なる複数の死体を繋ぎ合わせたアンデッド、ヤマタやゾンビジャイアントを創ったように。
「しかし、奴らはそれをしなかった。いや、出来なかったの間違いじゃな」
「ん? 『しなかった』で正しいと思いますが?」
テーネシア達はA級冒険者でも適わないランク13相当。しかも、配下の貴種や従属種の吸血鬼を何人も従えている。ランク1や2のアースゴーレムやストーンゴーレムを創る必要性は薄い。それに、彼女達の趣味嗜好とも合わない。
だから『しなかった』のだとヴァンダルーは思った。しかし、ザディリスの意見は違った。
「魅了にしろ威圧にしろ、奴らが坊やほど霊を操れたとは考えられんからな」
霊を扱う能力と技術の圧倒的な差。それがあったので、原種吸血鬼たちはアンデッドのゴーレムを創れなかったのだとザディリスは確信していた。
伊達に十年以上ヴァンダルーを近くで見ていないと。
「そう言われると照れますが、もっと褒めてください」
「よしよし、坊やは天下一の死属性魔術師じゃな」
「えっへん」
褒められてとても嬉しいある日の出来事だった。




