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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十四章 冒険者学校編
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閑話66 世界が救われた後の混迷(オリジン)

新しいレビューを頂きました! ありがとうございます!

 『アバロン争乱』と名付けられた世界的な大事件が『オリジン』世界で起きてから年が変わり、約半年が過ぎた。

 今、世界は合衆国大統領に正式に就任したセルゲイがリードする形で変わりつつある。

「北欧連邦と中華共和国の内戦は、激しさを増す一方だ。アフリカの紛争よりも終わりが見えない……」

「欧州も火薬庫に逆戻りだ。共同体は何年もつだろうか?」

 ただ、『アバロン争乱』以前の平和が戻る気配は全くない。


 むしろ、下手をしたらこの世界は二度目の世界大戦を迎えるかもしれない。……いや、本来ならとっくに世界大戦に突入していたのかもしれない。

 【アバロン】の六道聖は倒された。彼の部下や賛同者は全て死亡し、彼らが創り出した実験体は一人残らず行方不明。そして六道聖の研究資料や実験機材も残っていない。


 しかし、六道聖に与した各国の大物政治家や軍人、犯罪組織の大物の腹心や部下、組織はそのまま残っていた。何故なら、六道聖の本拠地に招かれていたのは大統領など彼の協力者や賛同者の中でもトップクラスの一部だけだったからだ。


 そのため、事件が終わった後も世界中で後始末に追われる事になった。それが最もスムーズに、そして早期に終わったのがクーデターによってセルゲイ大統領が政権を奪取する事に成功した合衆国である。

 彼は強権を躊躇いなく振るい、六道の協力者達を合衆国の政財界、そして諜報機関からも洗い出して次々に拘束していった。その手腕は神がかり的であり、元軍人で政治家でも諜報戦の専門家でもない彼の思わぬ活躍に誰もが驚いた。


 それが可能だったのは、セルゲイが軍をほぼ完全に掌握していた事。軍人出身でクーデターによって政権を奪取したのだから当然だが、それによってセルゲイは非常事態宣言を躊躇いなく発令できたからだ。合衆国民の人権を制限し、平時では過激と非難されかねない強権によって六道の協力者や賛同者の配下を拘束した。

 ……ヴァンダルーが、めー君に魅了されている前大統領や諜報機関の長官の霊から聞き出した情報を提供したのも、公には出来ないが大きな要因の一つである。


 そして次に正常な国家運営能力を取り戻したのは、日本だった。それは日本人が優秀だったからではなく、いくつかの理由があった。


 まず、日本は六道の影響力が及んでいた部分が他の国より限定的だった。何故なら二十世紀に第二次世界大戦を経験していない『オリジン』の日本でも、二十一世紀の現在では首相や大臣達の権力は合衆国や欧米の為政者程大きくはない。そして、【ブレイバーズ】の多くのメンバーが日本出身であるため、日本で多くの協力者や賛同者を得ると計画が露見する可能性が高まってしまう。


 そう考えた当時の六道は与野党の一部議員、警察や司法、医療業界、そして官僚組織の上層部の一部を手懐けるだけに留めたのだ。……それでも十分深刻な事態だが、他の国では諜報機関が丸ごと乗っ取られていた例もある。それに比べれば、まだ軽い方なのだ。


 さらに、日本は国民性のせいか『オリジン』世界に現れたヴァンダルーの影響を受けた者の割合が多かった。全体から見れば約〇・一パーセントと少数だが、十万人以上がヴァンダルーと夢で遭遇している。


 そして、『オリジン』でも日本は米国の同盟国である。そのためセルゲイは同盟国の安定は急務であるとして協力し、日本を立ち直らせる事に成功した。


 だが、いち早く国家運営能力を取り戻した合衆国や日本と違い、欧州や南米は混乱が続いた。大統領が死に、側近の多くを逮捕拘束したのだから無理もない。各国は選挙によって新しい大統領を選び、新しい大臣を任命した。しかし、新しい政権は六道聖の協力者以外の、非トップクラスの政治家達で構成されている。知名度とカリスマ性だけではなく、能力と経験も不足気味だ。


 そのため政権は安定せず、既に二度目の大統領選挙を行っている国もある。治安は悪化し、以前は自由だった各国の往来が厳しく制限され、審査を通過しなければ出国できなくなった。

 最早共同体とは名ばかりであり、あとは貿易に関税がかけられれば分裂するだろう。


 しかし、混乱が国の内側で収まっているならまだマシだ。中華共和国と北欧連邦は六道によって自分達が仕掛けていた爆弾をそれぞれの国の中枢に【転移】で送り返され爆破された事もあり、『アバロン争乱』後に揉めに揉め、内乱から紛争に発展してしまった。


 国家ぐるみで六道聖の野望に加担していた事、そして自国民の中でも身寄りのない孤児や邪魔な人間を非人道的な実験に提供していた事、そして事態解決に当たっていた【ブレイバーズ】や六道の研究の被害者が内部にいるのを知っていながら、六道聖のアジトに向けてミサイルを発射した事。全てが明らかになり、国際的な批判を受けた。……欧州やアフリカの一部の国は、中華共和国と北欧連邦の責任を追及する事で自国の責任から目を逸らさせる目的があったと思われる。


 批判を受けた中華共和国と北欧連邦は、それぞれの国で対策を話し合った。それぞれ失った人員の代わりの者で政府を再構成して。この辺りは選挙によらず国の指導者を決める事が出来る社会主義、共産主義の強みだろう。

 しかし、再構成された両国の政府の力は弱まっている。国際世論を無視して無傷でいられるかというと、そうでもない。


 しかも、両国は六道聖の死属性研究に莫大な援助を行っていた。それは資金や研究施設、人体実験に使う人間だけではない。研究員や作業員、警備員等の正しい意味での人材、そして今まで図ってきた便宜、それらが六道の裏切りによって負債に変わったのだ。


 六道の裏切りが判明した後にとった行動も悪かった。ヴァンダルーの降臨によって混乱したのは無理もないが、繰り返しミサイルを放ち、受ける反撃の数を増やしてしまった。


 それでも権力の座を離れたくない新トップ、この機会に今のトップを引きずり下ろして自分が頂点に立ちたいナンバー2や3、自主独立のチャンスだと動き出す民族……結果、中華共和国と北欧連邦は分裂して争い始めた。

 【ブレイバーズ】は合衆国からの依頼によって動き、共和国と連邦の生物兵器や核等の危険な兵器を奪取したり、紛争を煽る事を目的としたテロ行為を防いだり、忙しく動いていた。


 その甲斐あって、今のところ『オリジン』世界は安定している。少なくとも、世界大戦にはなっていないし、大規模な殺戮も起きていない。


「まさか、『紛争は好都合だ。あの国が分裂し争い続ける事は、我が国の利益になる』とはっきり言うとは……」

「広大過ぎる領土を、国の分裂によって分けさせる。えぐい事を考えるよな」

「博と冥には聞かせられないわね」


「まあ、いくらなんでも合衆国の武力で平定しろとは言えんし、国際機関が力を失った今の状況ではどうしようもないのは分かるが」

「……ただ、間違っても今の中華や北欧には行きたくないな」


 任務から帰ってきた【ブレイバー】の雨宮寛人、【タイタン】の岩尾、【エンジェル】の雨宮成美、【ケイローン】のデリック・サンダー。そして【ドルイド】のジョゼフ・スミスは理想だけではやっていけない大人の問題について愚痴を言い合っていた。

「いっそ、ヴァンダルーの魂が降臨した時の映像を連邦と共和国で流すのはどうだ? テレビ局でも占拠して」


「岩尾、残念だが中華共和国と北欧連邦の情報統制は完璧に近い。あの時のヴァンダルーの映像を流した途端、警察か軍隊が雪崩れ込んでくるはずだ」

 アークアバロンの魔術から外の世界を守るため、また六道に裏切られた中華共和国と北欧連邦の報復からアジトの中にいる仲間を守るために降臨したヴァンダルーの魂。


 今ではその異様な姿を多くの人々が見ているが、情報統制が厳しい中華と北欧の人々はほとんど見ていない。そのため、両国でヴァンダルーの影響を受けた人々はごく少数だった。

 そしてヴァンダルーは基本的に寛大で、雨宮達から見ると博愛に近い精神を持っている。しかし、自分達に関係の無い人間が、自分達に関係なく殺し合う事にまで干渉しない。


 中華や北欧が内乱で荒れようと、「対岸で会った事もない人間と人間が勝手に殺し合っている」という認識でしかない。そして、『オリジン』世界でもっとも有名なヴァンダルー教徒であるセルゲイ大統領も、まず自国の利益、次に同盟国の利益を優先して動いている。


 だから、ヴァンダルーの影響……導きを受ける人間を増やす事は、両国を救う事に繋がるのだが……どうやら、両国の分裂したグループの上層部は、誰も彼もヴァンダルーの導きを受けない類の人間らしい。

「『地球』と同じで、この世界の中華と北欧も宗教は嫌いだからな」

「雨宮、この世界の北欧はそうだが『地球』のロシアはロシア正教って宗教があったはずだ」

「……そうだったか?」

「『地球』の頃の知識はもう当てにならないわね」


「それと言っておくが、別にヴァンダルーに影響された人間が増えてもヴァンダルーが直接助けている訳じゃない。導かれた奴らが自助努力をした結果、助かったってだけで」

 ジョゼフが言うように、ヴァンダルーは『アバロン争乱』事件以後『オリジン』世界に直接的な干渉はしていない。ただ夢で出会ったり、映像などを見た人が一方的に導かれたりするだけだ。


 しかし、導かれた者はステータスシステムの存在しないこの世界でその効果を受ける。いや、システムが存在しない分文字や数字ではっきりと効果をたしかめる事はできないが、その分『ラムダ』より広い範囲で効果を受けていると言えるだろう。


 妙な例だと、導かれた結果視力が上昇したり、病気に対する免疫力が上がったり、生存本能だけで極限状況を生き延びたり等の例がある。


「ジョゼフ、僕達はそれを期待している。中華や北欧でヴァンダルーの影響を受けた人間が増えれば、影響を受けた者同士で協力して内乱を終わらせようとするだろう」

 そして雨宮達の期待も、ヴァンダルーによる直接介入ではなかった。ヴァンダルーに影響を受けた人間同士は、元々他国や異民族、異なる宗教を信仰していても、影響を受けた後はある種の親近感をお互いに覚える傾向が強い。


 そんな人々が多数派とまではいかなくても一定数を超えれば大きな力を持つようになると。

 なお、ヴァンダルーに期待せずに自分達でどうにかしろと雨宮達【ブレイバーズ】に言うのは無理だ。彼等は『オリジン』世界の人々から尊敬を集めるヒーローではあるが、『アバロン争乱』事件の影響で大きくその信頼を落とした。首謀者が【ブレイバーズ】の主導的な幹部だった六道聖だったのだから、無理もない。


 ただ、事件を解決した主導的な人間も【ブレイバーズ】のメンバーだったので、社会的なバッシングはそこまで大きくない。各国政府の大統領やその側近も六道聖に関与していたし、批判しやすい中華共和国や北欧連邦が分かりやすい悪役になってくれたおかげでもある。


 しかし、バッシングがなくても彼らに国家を動かすのは不可能だ。なぜなら、彼らは政治家ではないし中華共和国や北欧連邦の人々に支持された、もしくは人々を支配する権力者でもない。そんな【ブレイバーズ】が両国の争いを止めるには、それこそ武力で黙らせるしかない。

 そして、それを実行すれば両国の紛争に【ブレイバーズ】という勢力が新たに加わるだけだ。


 もっと地道に、中華共和国や北欧連邦に行き現地の勢力と協力関係を築き、紛争に勝利し新政府を樹立する事を目指す方法もあるが……それはもうやっている。

 強大な大国である二国を紛争によって分裂させ、バランスを取る事を目標に合衆国と【ブレイバーズ】を動かしているのだ。


「あの二国も日本と合衆国のようになれれば……いや、日本と合衆国は影響を受けすぎている気がする」

「それに関しては、ヴァンダルーも同意見だと思う。この前夢で会ったが……萎んでいた」

「萎んでたのね。まあ、無理もないわね」


 『オリジン』世界でのヴァンダルーの扱いは、『アバロン争乱』事件直後は多岐にわたっていた。エイリアン『ジョニー・ヤマオカ』が巨大化した姿、地獄から蘇った悪魔、死属性魔術研究の暴走事故によって実体化した悪霊、降臨した神、魔術実験で生み出された巨大魔術生物、六道聖が創り出した失敗作等々。


 しかし、「あれこそ神である!」とセルゲイ大統領が発信し、ヴァンダルーが世界を守っていた事が明らかになってからは降臨した神であると認識されるようになった。

 その後起こったのが、『オリジン』世界に存在する各宗教におけるヴァンダルーの扱いをどうするのかという議論である。


 世界が大混乱している時に何をやっているのかと思うかもしれないが、それは政治家と企業の問題。宗教家には宗教家の問題があるのだ。


 ヴァンダルーは『第八の導き』のプルートー達を救った『アンデッド』が神となった姿だという限りなく真実に近い主張をしたのは『第八の導き』ファン。既存の宗教や各国の政治家達からは、テロリストを支持するカルトと見られていた集団だ。


 今は、『第八の導き教』、略して『第八教』と呼ばれる一大宗教として勢力を築いている。もっとも有名な信者は、セルゲイ大統領だ。

 彼の政権の主だった人物たちは全員ヴァンダルーに導かれた者達で構成され、諜報組織を立て直すために集める人材の条件は「夢で神と遭遇した経験がある事」だ。


 彼の最終目標は人類を全て『第八教』にすることで、そのためにも強権を振るって合衆国の様々な施設にヴァンダルーやプルートーを崇めるための像やモニュメント、アート作品を設置させた。そして『第八教』をテーマにしたテーマパークや映画、アニメの制作を企画しようと試みている。

 なお、その強引な姿勢に反発を覚える者も少なくないそうだ。


 他の宗教での扱いは、降臨した天使、転生した神等様々だが、自分達の既存の神話体系に組み込もうと苦心しているようだ。……できれば無視したかっただろうが、映像としてはっきりと残っており、今も現在進行形で人々の夢に現れ、加護を授ける『神』を否定する事はできないようだ。

 ……仏教は「彼は宇宙から飛来した隣人です」と、早々に宗教に取り込むのを諦めたようだが。


 そして今では民俗学や宗教学、オカルト研究家等が様々な伝説にヴァンダルーを結び付けて面白おかしくテレビや雑誌、ネットで配信している。

 それを当人が知っているなら、萎んでも無理はない。……主にセルゲイのせいで。


 そんなに嫌なら人を導かなければ、夢に招かなければ、そして加護を与えなければいいのだが……導きに関してはどうしようもない。

 なぜならヴァンダルーの姿が記録された動画を見たり、『第八教』の教えに触れたりした結果、勝手に導かれているのだ。ヴァンダルー自身が意識して導こうとしている訳ではない。


 夢と加護に関しては、意識して招いているのではなく偶然波長が合って遭遇しているだけなのだが……遭遇した時点で追い返さず、話を聞くなどして時間を過ごし、気が合ったり気に入ったりしたらお土産に加護を渡しているので、自業自得と言えるが。


 『オリジンの神』の一部となったヴァンダルーには、『オリジン』世界の人々を締め出す事が不可能なのだ。


「なんだ、みんな集まって任務の愚痴を言い合っているのか?」

 そこに新聞片手にやってきたのは、【ザントマン】の陽堂正輝だ。

「愚痴か……たしかに愚痴だな。いつになったら平和になるのか、終わりが見えない」

 そう雨宮が陽堂に言い返すと、彼は不思議そうな顔をした。


「終わりが見えないって、それはいつもの事だろ」

 それはいったいどういう意味かと尋ねようとした雨宮が顔を上げると、その前に陽堂は答えた。

「争いは絶えないし、災害は起きたし、テロは企てられたし実行された。今も前と何も変わってない。六道とその一派が消えた分、今はそれが表に出てきやすくなっただけだ」


「それは……そうだな」

 雨宮寛人は陽堂の言葉に目から鱗が落ちた気分だった。彼の言った通り、以前から……それこそ雨宮達がこの世界に転生する前から完全な平和なんてなかった。戦争、犯罪、そして災害が起きていた。

 たしかに、今は六道聖が唱えた不老不死や新世界の実現といった共通の目的が潰えた事で、各国や犯罪組織の纏まりがなくなり混沌としている。


 だが、それだけなのだ。

(六道……僕達転生者のせいでこの世界を大変な状態にしてしまった。そう思っていたが……気負い過ぎなくていいのかもしれないな)

 六道聖と彼の部下である守屋達は【ブレイバーズ】のメンバーで、雨宮達と同じ転生者でもある。だから六道がしたことに雨宮も責任を感じていない訳ではなかった。


 だが、そう思い詰める事はないのではないか。陽堂の言葉を聞いてそう思ったのだ。

「なんだ、雨宮は世界平和でも目指してたのか? ネオ国連を組織するとか」

「陽堂、ネオも何も国連はまだある! 存在感はかなり希薄になったが……」

「それに、以前と同じくらい平和に……せめて落ち着いてもらわないと困るわ。博と冥にずっと会えないじゃない」

「あー、その問題があったな。悪かった」


 【ブレイバーズ】は今、合衆国に本部を構えて活動している。合衆国が【ブレイバーズ】に強い影響力を持っている現状に、批難の声がない訳ではない。しかし、デリックが言ったように国連の存在感も発言力も希薄になり、合衆国に文句を言える国が存在しない情勢が続いているため放置されている。


「そうだな、博と冥のため……六道の実験体にされた人々が暮らせる世界にしないとな」

「あなた……もしかして忘れていたの?」

「ち、違うっ! 決意を新たにしただけだよ!」


「意外でも何でもなく、向こうの方が住み心地は良いかもしれないぞ? 特に、実験体にされた連中はヴァンダルーがいない世界に戻ってくるとは思えない」

 勃発しかけた夫婦喧嘩を無視して、ジョゼフが話を続ける。


「たしかに……向こうにはネットもテレビもゲームもないだろうが、ヴァンダルーがいるからな。冥と博のために、遊園地を作ったぐらいだ、今も色々作っているかもしれん」

「真理と、彼女と一緒にいたボコールやユキジョロウ、ガブリエルはまず戻ってこないだろうな」

「対してこっちの世界は、まだ冥達を狙っている連中がいる」


「ええ、いくら捕まえてもきりがない」

 『アバロン争乱』事件後も、死属性を求める犯罪組織は後を絶たない。公にはされていないが、アークアバロンという成功例が存在する事を知った者達が、不老不死や人類を滅ぼしかねない強大な力を求めて社会の裏で蠢いているのだ。


 六道聖の研究資料や実験記録は残っていないが、六道聖の協力者達の内アジトに集められなかった者達は残っている。彼等の内何人かは、【メタモル】の獅方院真理に死属性魔術を習得させるのに成功した事や、彼女以外にも限定的だが死属性魔術が使える実験体が存在する事、そして雨宮家の長女冥が死属性の魔力を持っている可能性が高い事を知らされていた。


 それらの情報を元に、犯罪組織や非合法活動を任務にする軍の極秘部隊、金持ちの私兵等が冥達を狙っているのだ。そして冥達が隠れている場所の最有力候補だと彼らが推測しているのが、この合衆国である。

「セルゲイ大統領の作戦が上手く行けば、それも下火になる……と思う。それまでの辛抱だ」

 ジョゼフが口にしたセルゲイ大統領の作戦とは、合衆国が独自に行った死属性魔術の研究成果の発表である。


 もちろん、実際には研究を行ったわけではなく偽情報による欺瞞工作である。

 「死属性魔術による転生は、九割以上の確率で失敗する。仮に成功したとしても、精神に変調をきたし制御不能の化け物と化す」、「また成功しても不老不死にはなれず、短い時間で完全なアンデッドへ変異してしまう」等の偽情報で、不老不死を目指す者達を騙そうというのだ。


 六道聖がアークアバロンに転生した後にとった、以前の彼らしくない破滅的な行動を改めて明らかにして説明すれば偽情報にも説得力が生まれるはずだ。

 同時に、合衆国が死属性のマジックアイテムを市場に流す。合衆国が保護している開発協力者によって作られた、難病治療や不妊治療、育毛剤、等のマジックアイテムであると発表して。


 こうする事で死属性の希少性が損なわれ、せいぜい合衆国の特産品に成り下がる。また、合衆国が行った発表の説得力をさらに高める事が期待される。


 それでも不老不死に至れる可能性が僅かでもあるなら。そう考えて冥達を狙う事を止めない者もいるだろう。しかし、数は確実に減るはずだ。

「後はヴァンダルーが了解するかどうかだな。この世界でのマジックアイテム制作には、いい思い出はないはずだ。意外と断るかも――」

「いや、それはさっき夢で会った時に話したけど、構わないって言っていたよ。近々こっちに行けるか試すから、その時にまた話そうって」


「さっきって、お前昼寝でもしてたのか!?」

「デリック、それよりもヴァンダルーの協力が得られることの方が重要だろう?」

「それはそうだが……」

「ちょっと皆!」

 そこに髪に寝癖がついたままの【アスクレピオス】の七森美里が駆け込んでいた。


「お前、もう歳なんだから身だしなみぐらいちゃんとしないと……」

「それどころじゃないの! ヴァンダルーが今からこっちに来るって!」

「「「今から!?」」」

 雨宮達が驚いて思わず声をあげた。


『はい、今来ました』

 ぐにゅりと耳障りな音がした直後、虚空からヴァンダルーが生えた。

「ヴァッ……!?」

『そう、俺本人です。……体ごと来ると、物理法則が違うせいか動きにくいですね。声も出しにくい気がします』

 虚空から上半身だけが生えている状態のまま、ヴァンダルーは固まっている雨宮達に話し続けた。


『異世界で六道をもう一度、今度は完全に倒したのですが、その後色々あってこの世界に分身を設置して、もっと気軽に行き来できるようにしようと試みているところです。

 これでめー君や博が親に頻繁に会えるようになりますし、セルゲイの行動を直接諫める事が……すみません、まだきついので一旦帰りますね』


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 向こうでいったい何が起きたんだ!?」

『今度夢で陽堂やジョゼフ達にあった時に説明するので、彼等から聞いてください。ああ、あとこれをセルゲイ達に渡してください。

 あと、めー君と博はこっちで友達もできて元気です』


 手から生やした水晶のような物をその場に落として、ヴァンダルーは再び虚空に消えた。

 雨宮が結晶を拾い上げると、その中に大量の魔力が込められているのを感じた。これがマジックアイテムを創るための死属性の魔力だろう。


「僕も夢で君に会えれば話が早いのだろうけど……やはり無理だろうな」

 ヴァンダルーにとって雨宮達はめー君と博の親でしかない。嫌悪感はあっても憎みはしないが、距離を縮めるつもりは毛頭ない。


「そういうものだ。俺も一向にあいつの影響を受ける気配はない。だが、だからといって中華共和国や北欧連邦の連中と同じだとは誰も思わないし、実際その通りだろう?」

「そうだ、気にしなくていい。導かれるか否かで、善人と悪人が分かれる訳じゃない」


 デリックとジョゼフの慰めに「ありがとう」と頷いた雨宮は、博と冥の親としてできる事を懸命にするために、結晶を託された事をセルゲイに報告するのだった。

 その後、「なぜ私を呼んでくれなかった!?」と神と遭遇する機会を逃した大統領やその側近達に絡まれる事になるのだが、それでも雨宮はめげなかった。


3月25日にキャラクター紹介上 を投稿する予定です。その後はキャラクター紹介下を投稿した後、お休みを一度頂いてから次章を開始する予定です。

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