三百六十二話 職業:ヴァンダルー
『何故俺の名前がジョブに? 【真魔王】の方はともかく』
『とても俺とは思えない発言です。【真魔王】はいいのですか、俺よ?』
『【真魔王】もよくはありませんが、【魔王】や【大魔王】等の事を考えれば、予想可能な事態でした。しかも、俺の名前がジョブになった事と比べれば小さな問題です。俺にはそれを理解していただきたい』
『なるほど、理解しました』
『そうだ。俺よ、こうは考えられませんか? 今よりはるか昔に、ヴァンダルーという名の職業があったのだと』
『なるほど、さすが『オリジン』で神をしている俺。目の付け所が違いますね』
『つまり、俺がジョブになったのではなく、過去に偶然俺の名前と同じ名称の職業が存在していたと。それなら説明は……つきませんね』
『俺よ、俺が『既存ジョブ不能』の呪いを受けている事を忘れましたか?』
『ああ、しまった。俺としたことが、俺に指摘を受けるまでそれを意識していませんでした』
『つまり、ステータスシステムが実装されてから今に至るまで、【ヴァンダルー】というジョブは存在していない事になりますね』
『認めがたいですが俺達よ、どうやら俺が新たなジョブになってしまったと考えるしかなさそうです』
『『『なんという事でしょう』』』
ヴァンダルーの脳内会議場で、無数のヴァンダルーが嘆きの声をあげていた。ヴァンダルーも、虚像ヴァンダルーも、影ヴァンダルーも、バンダーも、『オリジン』で神の一部をしているヴァンダルーも、特に名付けられていないヴァンダルー達も、頭を抱え取り外して隣のヴァンダルーと交換してみたり、首を何十回転も捻り続けたり、ひたすら七転八倒した。
ヴァンダルーの肉体の方も、第三や第四どころではなく目を増やしてみたり、顔を洗ってみたり、脳の数を増やしてみたり、五分だけ仮眠を取ってシャキッとしてみたが、現実は変わらなかった。
《選択可能ジョブ 【堕武者】 【蟲忍】 【蝕呪士】 【創造主】 【タルタロス】 【荒御魂】 【冥群砲士】 【冥獣使い】 【虚影士】 【バロール】 【アポリオン】 【デモゴルゴン】 【魂喰士】 【神喰者】 【ネルガル】 【羅刹王】 【シャイターン】 【蚩尤】 【ウロボロス】 【ルドラ】 【血統者】 【魔電士】 【陰導士】 【ジャガーノート】 【狂筋術士】 【アポピス】 【アザトース】 【饕餮】 【導主】 【転導士】 【霊導士】 【虚界神魔術師】 【神霊理士】 【真魔王】(NEW!) 【ヴァンダルー】(NEW!)》
このように、ジョブチェンジ可能なジョブの中に、【ヴァンダルー】というジョブは表示され続けている。ついでに、【真魔王】も。
『誠に遺憾ながら、未知のジョブ【ヴァンダルー】の出現は現実であると認めましょう』
『『『仕方ありません』』』
そして、渋々現実を受け入れた。
『しかし、何故俺がジョブになったのか分からない事には、俺はこのジョブに就く事はできません』
『そうですね、同じことが何度も起きたら嫌ですし。ハイヴァンダルーとかネオヴァンダルーなんてジョブが出現したら、悪夢でしかありません』
『たしかに。ハイでもなくネオでもない、ただのヴァンダルーである俺はなんなのかという話になりますね』
『……なるのですか?』
『それはともかく、この事態はステータスの神々の気が狂ったか、変調をきたしているのではないでしょうか?』
『ステータスの神々が妙なのは前からでしょう』
『それもそうですね。そうなると……やはりグドゥラニスを倒したせいでしょうか?』
『それは【真魔王】の方だけでは?』
『【ヴァンダルー】は、グドゥラニスを倒した事だけではなく、俺がこの世界に転生してから今に至るまでの行い全体が原因だと考えられます』
『それはまさか、俺のジョブチェンジ可能なジョブの中にある神話上の存在の名前を冠したジョブと同じだという事ですか?』
『俺としても遺憾ですが、その通りだと思われます』
ヴァンダルーのジョブチェンジ可能なジョブの中には、【ネルガル】や【バロール】等、地球の神々の名を冠したジョブが存在する。
それと同じように、異世界からこの世界に転生し、ヴィダやボティン、ペリアを解放するなど様々な偉業を成し、ついには魔王グドゥラニスを一部とはいえ完全に滅ぼしたヴァンダルーの名は、ジョブに値するとステータスの神々に評価されてしまったのだろう。
つまり、ヴァンダルーの自業自得である。
『……ステータスの神に抗議したいですね。無理なのは分かっていますが』
『創造主のリクレントも、まず自身の神域に戻ってからじゃないと接触できないそうですからね』
なお、リクレントが今現在もそれができないのは、アルダにヴァンダルー側についている事を知られているためだ。神域に戻ったところで、アルダとその従属神達に囲まれて、すぐに杭を打たれて封印されてしまうかもしれない。だから、自身の神域に近づけないのだという。ズルワーン達他の大神も同様の理由で自分本来の神域には戻っていない。
『しかし、なら【ヴァンダルー】は俺にとって有用なジョブなのではないでしょうか? なんせ、俺自身のジョブですし』
『……認めがたいですが、その通りです』
自分のこれまでの行いからジョブと化した【ヴァンダルー】。性能面を考えれば、ヴァンダルーにこれ以上なく合ったジョブになるはずだ。
魔術師でありながら肉弾戦もこなし、様々な特殊なスキルを駆使し、【魔王の欠片】で肉体を変形させて戦うヴァンダルーのスタイルを、【ヴァンダルー】ジョブは全てカバーしてくれるはずだ。
『まあ、期待外れでも別に害はないでしょう。すぐにまたジョブチェンジできるでしょうし』
そして、レベルアップも容易だと推測できた。
『……致し方ありません』
『先延ばしする意味もないですし……』
『あ、俺は『オリジン』に戻っていますから、後はよろしく』
『ああ、俺が逃げた! 追跡します』
『ああ、俺が逃げた!』
『この事は皆には黙って……ああ、それも無理か』
『ヴィダから母さんに知られますね』
『なら、自分から打ち明けて皆に慰めてもらうのはどうでしょう?』
『素晴らしい。それでいきましょう』
そう自分達で自分を慰める算段をつけたヴァンダルーは、意識を肉体に戻した。そして、覚悟を決めて口を開いた。
「【ヴァンダルー】を選択」
《【超力】、【超速再生】、【冥界神魔術】、【従群極強化】、【身体超強化(髪爪舌牙)】、【魔糸精製】、【魔力回復速度超上昇】、【魔砲発動時攻撃力増強】、【生命力増強】、【能力値増強:君臨】、【能力値強化:ヴィダル魔帝国】、【自己再生:共食い】、【能力値増強:共食い】、【魂纏時能力値増強】、【殺業回復】、【自己強化:殺業】、【統血】、【虚界神魔術】、【魔術精密制御】、【神霊理】、【錬神術】、【同時多発動】、【具現化】、【群隊】、【将群】、【超速思考】、【怨投術】、【神霊魔術】、【魔王砲術】、【装魔界術】、【欠片限界超越】、【整霊】、【筋術】、【迷宮創造】、【魂魄体】、【魂魄限界突破】のスキルのレベルが上がりました!》
《【魔力常時回復】が【魔力常時超回復】に、【猛毒分泌:牙爪舌】が【神毒分泌:牙爪舌】に、【無手時攻撃力増強】が【無手時攻撃力増大】に、【能力値強化:被信仰】が【能力値増強:被信仰】に、【杖装備時魔術力強化】が【杖装備時魔術力増強】に、【限界超越】が【滅轟】に、【ゴーレム創成】が【ゴーレム創世】に、【魂格滅闘術】が【魂装滅魔神術】に、【手術】が【怪異術】に、【操糸術】が【死糸操術】に、【叫喚】が【冥叫喚】に覚醒しました!》
ゴキメバキギュギ! そんな音を響かせてヴァンダルーは倒れた。どうやら、急激な能力値の上昇によって肉体が変化し、限界を迎えたらしい。
「……成長期にもここまではならなかったのに何故?」
肉体が再生するのを待ち、立ち上がったヴァンダルーはそう不思議に思ったが、おそらく一瞬でレベルがカンストした事で、成長も一瞬で終わったからだろう。
ステータスを確認してみると、既に【ヴァンダルー】のレベルがカンストしていた。さすがはヴァンダルー本人である。
「一気にスキルレベルもあがりましたね。覚醒もしましたし」
【魔力常時超回復】や【能力値増強】等は分かりやすい。【神毒分泌:牙爪舌】も、クノッヘンが吐けるようになった【龍毒のブレス】と同じかそれ以上の毒を分泌できるようになったという事だろう。……実体を持たないゴーストにもダメージを与え、【状態異常耐性】でも完全に無効化する事ができない毒なので、ヴァンダルー自身も分泌する時は気を付けた方がよさそうだが。
他の、【ゴーレム創世】や【魂装滅魔神術】、【怪異術】等も、元になったスキルより一段上のスキルなのだろうと推測できる。しかし、【限界超越】から覚醒した【滅轟】は字面が変わりすぎている。【限界超越】より肉体に負担を強いるスキルだろうから、前もって試した方がいいだろう。
しかし、既に【ヴァンダルー】はカンストしているので、【滅轟】を試しに行く前に再びジョブチェンジをしなければならない。
「……では、【真魔王】を選択」
そして次のジョブチェンジとして、【魔王】や【大魔王】と同様にすぐカンストするだろう【真魔王】を選択した。
《【超力】、【冥界神魔術】、【魔力常時超回復】、【従群極強化】、【生命力増強】、【無手時攻撃力増大】、【身体超強化(髪爪舌牙)】、【魔糸精製】、【能力値増強:君臨】、【能力値増強:被信仰】、【全能力値増強】、【統血】、【滅轟】、【虚界神魔術】、【ゴーレム創世】、【魂装滅魔神術】、【欠片限界超越】、【筋術】、【魔闘術】、【魂魄体】、【魂魄限界突破】スキルのレベルが上がりました!》
《【魔砲発動時攻撃力増強】から【魔砲発動時攻撃力増大】、【魔王砲術】が【真魔王砲術】、【群体思考】が【群魂】に、【群体操作】が【群在】に覚醒しました!》
そして予想通りカンストした。体の奥からポキポキと音がした気がするが、すぐに体の再生が終わる程度だ。
「【真魔王砲術】は分かりますが……【群魂】や【群在】とはいったい?」
【群体思考】や【群体操作】から覚醒したスキルだが、何か変わったのだろうかとヴァンダルーは自身の思考や分身達の調子を見た。すると、妙な事が起こっていた。
「思考や体が分かれている事が、普通になっている?」
【群体思考】や【群体操作】はスキルなので、解除して思考を一つに戻し、分身の機能を全て停止する事も可能だった。今までヴァンダルーはそれをしなかったが……意識してもそれができなくなっている。
より正確に言えば、思考と肉体が無数に別れ、並行して活動している事が当たり前のように感じられるのだ。
無意識に心臓を動かし、呼吸ができるのが当たり前のように、生まれつき思考と肉体が分かれ同時に活動している生物だったようにヴァンダルーには感じられた。
ついでに、別の大陸にいる全ての使い魔王の状態と、感覚器官が捉えた情報を共有しているのが普通の状態になった。
「つまり、俺の機能がよりバージョンアップしたという事ですか。これはオルバウムの再建も捗りますね」
決して自分が人間ではなくなったとは思わないヴァンダルーは、そう考えると何度も頷いた。どれほどの数の思考が同時に動いていても、全てヴァンダルーなのでヴァンダルーが否定する答えは最初から出さないのだ。
「では、最後に【陰導士】を選択」
《【導き:陰道】、【陰道誘引】スキルを獲得しました!》
《【導き:陰道】が【導き:末那識】に統合され【導き:阿頼耶識】に、【陰道誘引】が【末那識誘引】に統合され【阿頼耶識誘引】に覚醒しました!》
《【神毒分泌:牙爪舌】、【身体超強化(髪爪舌牙)】、【自己再生:共食い】、【能力値増強:共食い】、【殺業回復】、【自己強化:殺業】、【怪異術】、【装魔界術】、【高速飛行】スキルのレベルが上がりました!》
《【生命力増強】が【生命力増大】に、【精神侵食】が【魂魄侵食】に、【迷宮創造】が【迷宮支配】に覚醒しました!》
・名前:ヴァンダルー・アーク・ヒルウィロウ・ソルダ・ザッカート
・種族:ダンピール(母:女神)
・年齢:13歳
・二つ名:【グールエンペラー】 【蝕帝】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【鱗帝】 【触帝】 【勇者】 【大魔王】 【鬼帝】 【試練の攻略者】 【侵犯者】 【黒血帝】 【龍帝】 【屋台王】 【天才テイマー】 【歓楽街の真の支配者】 【変身装具の守護聖人】 【女神の解放者】 【巨人帝】 【救世主】(NEW!) 【魔王殺し】(NEW!)
・ジョブ: 陰導士
・レベル:0
・ジョブ履歴:死属性魔術師 ゴーレム錬成士 アンデッドテイマー 魂滅士 毒手使い 蟲使い 樹術士 魔導士 大敵 ゾンビメイカー ゴーレム創成師 屍鬼官 魔王使い 冥導士 迷宮創造者 創導士 冥医 病魔 魔砲士 霊闘士 付与片士 夢導士 魔王 デミウルゴス 鞭舌禍 神敵 死霊魔術師 弦術士 大魔王 怨狂士 滅導士 冥王魔術師 ペイルライダー 混導士 神導士 神滅者 虚王魔術師 神霊魔術師 ダンジョンマスター クリフォト デーモンルーラー 整霊師 魔杖創造者 匠:変身装具 冥界神魔術師 冥魔王 万魔殿 魂格闘士 ヴァンダルー 真魔王
・能力値
・生命力:1,052,703+(105,270) (227,529UP!)
・魔力 :98,419,574,240+(98,419,574,240) (159,554,481,826UP!)
・力 :591,889+(44,391) (525,828UP!)
・敏捷 :431,000+(32,325) (358,822UP!)
・体力 :549,957+(41,246) (472,970UP!)
・知力 :616,272+(46,220) (512,391UP!)
・パッシブスキル
超力:5Lv(UP!)
超速再生:10Lv(UP!)
冥界神魔術:9Lv(UP!)
状態異常無効
魔術耐性:10Lv
闇視
阿頼耶識誘引(陰道誘引を統合&末那識誘引から覚醒!)
無詠唱
導き:阿頼耶識(導き:陰道を統合&導き:末那識から覚醒!)
魔力常時超回復:2Lv(魔力常時回復から覚醒&UP!)
従群極強化:3Lv(UP!)
神毒分泌:牙爪舌:2Lv(猛毒分泌から覚醒&UP!)
身体無限伸縮:舌
無手時攻撃力増大:中(無手時攻撃力増強から覚醒&UP!)
身体超強化(髪爪舌牙):6Lv(UP!)
魔糸精製:7Lv(UP!)
魔力増大:10Lv
魔力回復速度超上昇:2Lv(UP!)
魔砲発動時攻撃力増大:小(魔砲発動時攻撃力増強から覚醒!)
生命力増大:1Lv(UP&生命力増強から覚醒!)
能力値増強:君臨:5Lv(UP!)
能力値増強:被信仰:2Lv(能力値強化:被信仰から覚醒&UP!)
能力値強化:ヴィダル魔帝国:6Lv(UP!)
自己再生:共食い:6Lv(UP!)
能力値増強:共食い:6Lv(UP!)
魂纏時能力値増強:大(UP!)
殺業回復:9Lv(UP!)
自己強化:殺業:9Lv(UP!)
杖装備時魔術力増強:小(杖装備時魔術力強化から覚醒!)
全能力値増強:大(UP!)
・アクティブスキル
統血:9Lv(UP!)
滅轟:2Lv(限界超越から覚醒&UP!)
ゴーレム創世:2Lv(ゴーレム創成から覚醒&UP!)
虚界神魔術:4Lv(UP!)
魔術精密制御:8Lv(UP!)
神霊理:2Lv(UP!)
錬神術:5Lv(UP!)
魂装滅魔神術:2Lv(魂格滅闘術から覚醒&UP!)
同時多発動:9Lv(UP!)
怪異術:2Lv(手術から覚醒&UP!)
具現化:8Lv(UP!)
群隊:7Lv(UP)
超速思考:9Lv(UP!)
将群:6Lv(UP!)
死糸操術:1Lv(操糸術から覚醒!)
怨投術:4Lv(UP!)
冥叫喚:1Lv(叫喚から覚醒!)
神霊魔術:8Lv(UP!)
真魔王砲術:1Lv(UP&魔王砲術から覚醒!)
装魔界術:3Lv(UP&装影群術から覚醒&UP!)
欠片限界超越:7Lv(UP!)
整霊:5Lv(UP!)
鞭術:5Lv
霊体変化:雷
杖術:5Lv
高速飛行:4Lv(UP!)
楽器演奏:4Lv
舞踏:2Lv
筋術:7Lv(UP!)
魔闘術:5Lv(UP!)
・ユニークスキル
神喰らい:10Lv
異貌多重魂魄
魂魄侵食:1Lv(精神侵食から覚醒!)
迷宮支配:1Lv(迷宮創造から覚醒!)
大魔王
根源
神敵
魂喰らい:10Lv
ヴィダの加護
地球の神の加護
群魂(群体思考から覚醒!)
ザンタークの加護
群在(群体操作から覚醒!)
魂魄体:8Lv(UP!)
魔王の魔眼
オリジンの神
リクレントの加護
ズルワーンの加護
完全記録術
魂魄限界突破:7Lv(UP!)
変異誘発
真魔王(魔王の肉体から覚醒&【魔王の鼻】、【魔王の皮脂腺】、【魔王の肉球】、【魔王の右腕】、【魔王の左腕】、【魔王の脳】が合流&【魔王の本能】、【魔王の記憶】、【成長制限無効】、【学習速度上昇】、【人工精霊創造】、【コピー】、【威力倍増】、【エネルギー吸収】、【スレイプニール】、【必中】を統合!)
亜神
ボティンの加護
ペリアの加護
体内世界
・呪い
前世経験値持越し不能
既存ジョブ不能
経験値自力取得不能
六道聖と、復活したグドゥラニスは倒した。ベルウッドを降ろせるハインツは、ナインロードの力でどこかへ逃げ去った。ハインツとはいずれ殺し合うと決めているヴァンダルーだが、今は力を蓄える時だ。
ハインツ達を追う事に専念し、それで居場所を見つけてもまたナインロードや他の神によって逃がされたのでは、キリがない。
実際には、地上に干渉した事でナインロードは大きく消耗し、再び同じ手段でハインツを逃がす事はできないのかもしれない。だが、それを試す気はヴァンダルーにはまだなかった。
まずは強くなること、自分達の足場を固める事を優先したい。
それで、どんなジョブだったとしても時間的余裕がある今だから【陰導士】を選んだ。かつて就いた【滅導士】のように能力値が全く成長しない特殊なジョブだったとしても、余裕があるから大丈夫だろうと。
「能力値が凄まじく伸びましたね。魔力もそうですが、他の力や知力が倍以上に。【超速再生】スキルや【魔王の筋肉】、【魔王の脳】を取得した後でよかった」
そうでなければ、何日か寝込んでいたかもしれない。
(あと、今の身体能力に慣れるまでは模擬戦や手合わせは止めた方がよさそうだ。力加減を誤りかねない)
手加減には自信のあるヴァンダルーだが、身体能力が急激に成長し数倍以上になった直後も同じ精度を保てる自信はない。
幸い、学校が再開するまでまだ時間がある。ダンジョンの魔物を練習台にして慣れてからの方がいいだろう。
「では、皆に報告……デーモン達には黙っておきましょう。また俺を祭る神殿を建てるなんて言い出すかもしれません。ヴィダル魔帝国領にいっぱいあるのですから、オルバウムには建てないようにしたいものです」
そう言ってヴァンダルーはジョブチェンジ部屋から出た。しかし、彼は知らない。怯えきったヴィダ神殿長が、聖人としてヴァンダルーの像をヴィダ神殿に建立させてくださいと言い出すつもりである事を。
国を救った時点で手遅れなのだ。
時間は数時間程遡り……ハインツ達四人は猛烈な突風に飲み込まれた直後、草原に立っていた。
「っ!? 皆、いるか!?」
「ええ、ここにいるわ」
「傷も負ってないし、装備も無事だ。これもあいつが何かしたのか!?」
あいつ……ヴァンダルーが何らかの目的で自分達を他の場所に【転移】させたのかと、ハインツ達は警戒を維持したまま周囲の様子を伺う。しかし、ヴァンダルーやその仲間たちの姿はどこにもなく、また殺気や魔力等も感じなかった。
「ハインツ、見てください。境界山脈が東に見えます。ここは、オルバウム選王国ではありません」
そして、境界山脈が見える事に気がついたダイアナが太陽の位置を確認して、自分達が他国にいる事を告げた。
バーンガイア大陸南部を東部と西部から隔離している境界山脈。それは大陸東部にあるオルバウム選王国からは常に西に見える。
しかし、今のダイアナからは境界山脈は東に見えた。
「じゃあ、ここは大陸西部……アミッド帝国の勢力圏か。あの一瞬でここまで移動するなんて。そうだっ、早くオルバウムに戻らなければ!」
「落ち着いて、ハインツ! 何故大陸西部にいるのかは分からないけど、今は体力を回復させないといけない! 今のあなたは歩くだけでも辛いはずよ」
既に解けているが、二度の【英雄神降臨】によってハインツの体力も魔力も底を尽いていた。デライザの言う通り、歩くだけでも全身が悲鳴をあげるほどだ。
「休んでいる暇はない。セレン達が、まだオルバウムにいるんだ!」
ハインツの言葉にはっとするデライザ達。彼らが保護し、実の妹や娘のように育てているダンピールの少女、セレン。彼女は護衛を任されたハインツ達の仲間によって避難所に避難していたため、オルバウムに取り残されていた。
『待つんだ、ハインツ。まだ死ぬ気ならともかく、そうでないならオルバウムに向かうべきじゃない』
その時、ハインツが身につけているペンダントに宿っているベルウッドの声が響いた。
「ベルウッド?」
『僕は君達の意志に干渉するつもりはないが、ナインロードから伝言を託された。アミッド帝国のアルダ大神殿教皇、エイリーク・マルメに会ってほしいそうだ』
「アルダ大神殿!? アミッド帝国のど真ん中じゃないか! そんなお偉いさんに会うなんて、ただじゃすまない!」
驚いたジェニファーがそう叫び返す程、ベルウッドから伝えられたナインロードの指示はとんでもないものだった。
生まれはアミッド帝国の属国であるミルグ盾国のハインツとデライザだが、二人は約十年前にオルバウム選王国に活動の拠点を移した。そして名誉貴族位を得て、S級冒険者になっている。
これがアミッド帝国の友好国でのことなら、帝国の勢力圏内に入っても何の問題もない。しかし、残念な事にアミッド帝国とオルバウム選王国は建国以来の敵国である。
冒険者としてギルドを通した依頼を受けるだけなら、まだグレーゾーンだと押し切る事もできる。ただ、ハインツ達はオルバウム選王国の名誉貴族……つまり貴族として扱われる立場にあるので、アミッド帝国からハインツ達は敵国に亡命して貴族になったと解釈されるはずだ。
そして、ハインツが掲げるヴィダの新種族にも権利があるとする融和派の思想は、ヴィダの新種族への迫害をよしとするアミッド帝国の思想と法秩序に真っ向から逆らうものだ。
ベルウッドを目覚めさせた功績は評価されると考えられるが、現在国内で暴れている『暴虐の嵐』の同類だと誤解され、命を狙われる可能性も高い。
『エイリークは、アルダから神託を受けている。そこで、エイリークを通してアルダが君に話したいことがあるそうだ。
まだヴァンダルーと戦うつもりがあるなら、聞いてみた方がいい。もちろん、戦うのを止めて再び自分の首を差し出す取引をするつもりでも僕は止めない』
「……分かった。仲間には迷惑をかけるが、セレンとは暫く別行動だ」
自分達がここに連れて来られる時にはグドゥラニスはヴァンダルーに吸収され、オルバウムには危険な魔物は殆ど残っていない様子だった。
なら、セレンの身の安全は確かだろうとハインツは判断した。
「良いのですか?」
「ああ。アミッド帝国の勢力圏に来させる方が、彼女にとっては危険だ」
そう言うと、ダンピールを魔物として扱い殺して瞳が紅色の方の眼球をギルドに提出すると賞金が支払われる国で、ハインツは水袋を煽って喉を潤した。まずは体力を回復させなければならない。
「すまない、エドガー。君の弔いは後回しになる」
そして、遺体どころか遺品の回収もできなかった仲間に謝った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
〇ジョブ解説:魂格闘士
実体化させた魂を体に纏い戦う【格闘術】の使い手を表すジョブ。そのため、現時点でヴァンダルー以外がこのジョブに就く事は不可能である。……そもそも、肉体に宿る霊体に包まれている魂をむき出しにして戦う意味が、普通はない。どんなに性能が良くても、自分の脳や心臓を纏って戦う者はいない。
〇ジョブ解説:ヴァンダルー
ヴァンダルーである事を表すジョブ。当然、ヴァンダルーらしいスキルの取得と成長に補正がかかり、魔力がもっとも伸びる。
ジョブ取得の前提条件は、死属性魔術の使い手である事は確実だが他の条件は不明である。ヴァンダルーは、おそらくヴァンダルーそのものである事からジョブに就く事ができたと思われる。
なお、『ラムダ』世界には【ベルウッド】や【ファーマウン】、【ナインロード】等のジョブは出現していない。当人達が生きている間にジョブにはならず、そのまま誰もジョブを発見できていないらしい。
〇ジョブ解説:真魔王
真なる魔王である事を表すジョブ。このジョブにヴァンダルーが就いたため、『ラムダ世界』における魔王はヴァンダルーであり、それ以外の者は魔王となりえない事になる。
他の者が【真魔王】になるには、ヴァンダルーの同意を得て継承するか、ヴァンダルーを倒すしかないだろう。
次話は2月29日に投稿する予定です。




